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そのさんじゅうよん
意思疎通
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一日の授業が終わり、寮に戻ると何故か部屋に体育教師のヴェスカが普通に座っていた。
「おう、お帰り。リシェちゃん」
リシェは口をぽかんと開け、呆然とする。
何故人様の部屋で彼が寛いでいるのだろう。
「何だお前!?」
「何だって…お前の友達を連れてきたっていうのにそんな言い方無いだろうよ」
「友達…?」
そう言いながらヴェスカと向き合う形で座るものに目を向けると、反射的に眉間に皺を寄せた。
「………え??」
テーブルを挟んで向かい合うクマのぬいぐるみ。リシェは思わずヴェスカとそれを交互に見回した後、ぼそっと呟く。
「なにこれ?」
全くもって意味が分からない。人様の部屋に入り自分が良く添い寝しているクマのぬいぐるみを相手に、ヴェスカは仲良く会話を交わしていた。
そしてクマのぬいぐるみは何も話してはいないようにも見える。もしかしたらヴェスカにしか伝わっていないのだろうか。
「あー、そっかぁ。リシェちゃんは照れ屋な所があるからな…ふんふん」
「………、………」
「だよなぁ。あんたはずっと部屋に居るタイプだし」
会話をしている…??出来るのか?
リシェは眉を寄せ、二人(?)を見回していた。クマの表情はいつものように変化が無いが、ヴェスカはまるで親密な友人を相手にするかのように笑顔を交えて会話を続けている。
呆然としたままのリシェは、何度も二人(?)を眺めながら「俺は一体何を見させられているんだ」と疑問に思っていた。
「…はっ!?」
リシェはぱちりと目を開け、ガバッと上体を起こすと室内をきょろきょろと見回す。そこでようやく夢を見ていたのだというのを理解した。
「先輩?どうしたんですか?変な夢でも見たんです?」
部屋にはヴェスカではなくラスが居た。
あぁ…良かった。夢か…。
リシェは胸を撫で下ろすと隣で横たわっていた例のクマのぬいぐるみに目を向ける。彼はいつもの顔で横たわっていた。
「………」
「そろそろ着替えておかないと遅刻しますよ、先輩」
「ああ」
準備を済ませ、鞄を持つ。その後、無言で何故かクマを持ち上げていた。ラスはきょとんとした顔をする。
「先輩?どうしたんです?」
「んー」
リシェはクマを抱き締めると「ちょっとな」と返した。そのまま部屋を出ようとする彼に、ラスは待って下さい!と止める。
クマをもふもふさせたままリシェは「何だ?」と首を傾げた。
「あの、それ…持って行くんですか?何で…?」
「ちょっとな…」
普通にそのまま部屋を出て、クマを持ったままリシェは寮を出る。彼の後を追いかけていくラスは、意味の分からない行動をする同居人の背中を見て動揺と共に何とも言い難い切なさににた感情を抱いた。
…か、可愛い…!!先輩、とても可愛い!!
ぬいぐるみを抱えながら校舎へ向かうなどと、一体何処の萌えキャラなのか。あまりの予想外の行動に、物凄く儲けた感でいっぱいだった。
いっそいつもこんな可愛げのある彼でいて欲しい。
そんな事すら思ってしまう。
学園内へそのまま到着すると、リシェは無言で教室方面ではなく何故か職員室方面へと走る。
「え?先輩?何処に?」
てっきり教室へ向かうのだろうと思っていたラス。
「んー」
彼は適当な返事をしたまま、職員室の前で足を止めた。そしておもむろに扉を開く。
「失礼します」
ガラリとスライドドアを開け、クマを抱えたままリシェは周囲を見回した。ちょうど職員室の中には担任教師のオーギュスティンが朝の準備をしている最中で、リシェの姿を見るや不思議そうな顔を見せる。
何故大きなクマのぬいぐるみを持っているのだろうかと。
「リシェ?どうしたんですかそれ…落とし物ですか?」
「おはようございます、先生。いや、これは俺の持ち物です」
「………?」
無表情でクールな印象のリシェの言葉とは思えない。
オーギュスティンは「はぁ…」とだけ答えた。
「何かご用が?」
「ええっと…ヴェスカ…いや、ヴェスカ先生は?」
クマのぬいぐるみとヴェスカと、何の共通点があるのだろう。オーギュスティンは職員室内を見回した後、ちょうど手洗いから戻ってきた彼を見つけた。
「ヴェスカ先生」
「んあ?…ああ、何すか…?」
朝の為か、彼は大変眠そうな顔をしていた。
「うちの生徒があなたに用があると」
「んん?…あぁ、何だリシェちゃんか。おはよ…何した?」
寝惚け眼の状態のヴェスカの前に、リシェは持ってきたクマのぬいぐるみを突き出した。そして真顔で言い放つ。
「あんた、このクマと話せるか?」
初めて見たぬいぐるみをいきなり突き出され、ヴェスカは一瞬脳内が停止する。いきなり彼は何を言い出すのだろうか、と。
あまりにもリシェが真剣な顔をしているので、どう返事をしたらいいのかわからなかったが。
「せ、先輩…まさかその為にこいつをここまで持って来たんですか…?」
可愛い、可愛いと夢心地状態だったラスも一気に現実に戻ってしまう。一体彼の中で何が起きたのだろうか。
ずいっとぬいぐるみを突き出されたヴェスカは、困惑顔のままリシェを見下ろす。
あまり夢の無い事は言いたくは無かったが。
「…いや、いくら何でもそれは無理っす…」
とりあえずそれだけ答えていた。
「おう、お帰り。リシェちゃん」
リシェは口をぽかんと開け、呆然とする。
何故人様の部屋で彼が寛いでいるのだろう。
「何だお前!?」
「何だって…お前の友達を連れてきたっていうのにそんな言い方無いだろうよ」
「友達…?」
そう言いながらヴェスカと向き合う形で座るものに目を向けると、反射的に眉間に皺を寄せた。
「………え??」
テーブルを挟んで向かい合うクマのぬいぐるみ。リシェは思わずヴェスカとそれを交互に見回した後、ぼそっと呟く。
「なにこれ?」
全くもって意味が分からない。人様の部屋に入り自分が良く添い寝しているクマのぬいぐるみを相手に、ヴェスカは仲良く会話を交わしていた。
そしてクマのぬいぐるみは何も話してはいないようにも見える。もしかしたらヴェスカにしか伝わっていないのだろうか。
「あー、そっかぁ。リシェちゃんは照れ屋な所があるからな…ふんふん」
「………、………」
「だよなぁ。あんたはずっと部屋に居るタイプだし」
会話をしている…??出来るのか?
リシェは眉を寄せ、二人(?)を見回していた。クマの表情はいつものように変化が無いが、ヴェスカはまるで親密な友人を相手にするかのように笑顔を交えて会話を続けている。
呆然としたままのリシェは、何度も二人(?)を眺めながら「俺は一体何を見させられているんだ」と疑問に思っていた。
「…はっ!?」
リシェはぱちりと目を開け、ガバッと上体を起こすと室内をきょろきょろと見回す。そこでようやく夢を見ていたのだというのを理解した。
「先輩?どうしたんですか?変な夢でも見たんです?」
部屋にはヴェスカではなくラスが居た。
あぁ…良かった。夢か…。
リシェは胸を撫で下ろすと隣で横たわっていた例のクマのぬいぐるみに目を向ける。彼はいつもの顔で横たわっていた。
「………」
「そろそろ着替えておかないと遅刻しますよ、先輩」
「ああ」
準備を済ませ、鞄を持つ。その後、無言で何故かクマを持ち上げていた。ラスはきょとんとした顔をする。
「先輩?どうしたんです?」
「んー」
リシェはクマを抱き締めると「ちょっとな」と返した。そのまま部屋を出ようとする彼に、ラスは待って下さい!と止める。
クマをもふもふさせたままリシェは「何だ?」と首を傾げた。
「あの、それ…持って行くんですか?何で…?」
「ちょっとな…」
普通にそのまま部屋を出て、クマを持ったままリシェは寮を出る。彼の後を追いかけていくラスは、意味の分からない行動をする同居人の背中を見て動揺と共に何とも言い難い切なさににた感情を抱いた。
…か、可愛い…!!先輩、とても可愛い!!
ぬいぐるみを抱えながら校舎へ向かうなどと、一体何処の萌えキャラなのか。あまりの予想外の行動に、物凄く儲けた感でいっぱいだった。
いっそいつもこんな可愛げのある彼でいて欲しい。
そんな事すら思ってしまう。
学園内へそのまま到着すると、リシェは無言で教室方面ではなく何故か職員室方面へと走る。
「え?先輩?何処に?」
てっきり教室へ向かうのだろうと思っていたラス。
「んー」
彼は適当な返事をしたまま、職員室の前で足を止めた。そしておもむろに扉を開く。
「失礼します」
ガラリとスライドドアを開け、クマを抱えたままリシェは周囲を見回した。ちょうど職員室の中には担任教師のオーギュスティンが朝の準備をしている最中で、リシェの姿を見るや不思議そうな顔を見せる。
何故大きなクマのぬいぐるみを持っているのだろうかと。
「リシェ?どうしたんですかそれ…落とし物ですか?」
「おはようございます、先生。いや、これは俺の持ち物です」
「………?」
無表情でクールな印象のリシェの言葉とは思えない。
オーギュスティンは「はぁ…」とだけ答えた。
「何かご用が?」
「ええっと…ヴェスカ…いや、ヴェスカ先生は?」
クマのぬいぐるみとヴェスカと、何の共通点があるのだろう。オーギュスティンは職員室内を見回した後、ちょうど手洗いから戻ってきた彼を見つけた。
「ヴェスカ先生」
「んあ?…ああ、何すか…?」
朝の為か、彼は大変眠そうな顔をしていた。
「うちの生徒があなたに用があると」
「んん?…あぁ、何だリシェちゃんか。おはよ…何した?」
寝惚け眼の状態のヴェスカの前に、リシェは持ってきたクマのぬいぐるみを突き出した。そして真顔で言い放つ。
「あんた、このクマと話せるか?」
初めて見たぬいぐるみをいきなり突き出され、ヴェスカは一瞬脳内が停止する。いきなり彼は何を言い出すのだろうか、と。
あまりにもリシェが真剣な顔をしているので、どう返事をしたらいいのかわからなかったが。
「せ、先輩…まさかその為にこいつをここまで持って来たんですか…?」
可愛い、可愛いと夢心地状態だったラスも一気に現実に戻ってしまう。一体彼の中で何が起きたのだろうか。
ずいっとぬいぐるみを突き出されたヴェスカは、困惑顔のままリシェを見下ろす。
あまり夢の無い事は言いたくは無かったが。
「…いや、いくら何でもそれは無理っす…」
とりあえずそれだけ答えていた。
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