異世界学園の中の変な仲間たち4

へすこ(ひしご)

文字の大きさ
35 / 43
そのさんじゅうよん

意思疎通

しおりを挟む
 一日の授業が終わり、寮に戻ると何故か部屋に体育教師のヴェスカが普通に座っていた。
「おう、お帰り。リシェちゃん」
 リシェは口をぽかんと開け、呆然とする。
 何故人様の部屋で彼が寛いでいるのだろう。
「何だお前!?」
「何だって…お前の友達を連れてきたっていうのにそんな言い方無いだろうよ」
「友達…?」
 そう言いながらヴェスカと向き合う形で座るものに目を向けると、反射的に眉間に皺を寄せた。
「………え??」
 テーブルを挟んで向かい合うクマのぬいぐるみ。リシェは思わずヴェスカとそれを交互に見回した後、ぼそっと呟く。
「なにこれ?」
 全くもって意味が分からない。人様の部屋に入り自分が良く添い寝しているクマのぬいぐるみを相手に、ヴェスカは仲良く会話を交わしていた。
 そしてクマのぬいぐるみは何も話してはいないようにも見える。もしかしたらヴェスカにしか伝わっていないのだろうか。
「あー、そっかぁ。リシェちゃんは照れ屋な所があるからな…ふんふん」
「………、………」
「だよなぁ。あんたはずっと部屋に居るタイプだし」
 会話をしている…??出来るのか?
 リシェは眉を寄せ、二人(?)を見回していた。クマの表情はいつものように変化が無いが、ヴェスカはまるで親密な友人を相手にするかのように笑顔を交えて会話を続けている。
 呆然としたままのリシェは、何度も二人(?)を眺めながら「俺は一体何を見させられているんだ」と疑問に思っていた。

「…はっ!?」
 リシェはぱちりと目を開け、ガバッと上体を起こすと室内をきょろきょろと見回す。そこでようやく夢を見ていたのだというのを理解した。
「先輩?どうしたんですか?変な夢でも見たんです?」
 部屋にはヴェスカではなくラスが居た。
 あぁ…良かった。夢か…。
 リシェは胸を撫で下ろすと隣で横たわっていた例のクマのぬいぐるみに目を向ける。彼はいつもの顔で横たわっていた。
「………」
「そろそろ着替えておかないと遅刻しますよ、先輩」
「ああ」
 準備を済ませ、鞄を持つ。その後、無言で何故かクマを持ち上げていた。ラスはきょとんとした顔をする。
「先輩?どうしたんです?」
「んー」
 リシェはクマを抱き締めると「ちょっとな」と返した。そのまま部屋を出ようとする彼に、ラスは待って下さい!と止める。
 クマをもふもふさせたままリシェは「何だ?」と首を傾げた。
「あの、それ…持って行くんですか?何で…?」
「ちょっとな…」
 普通にそのまま部屋を出て、クマを持ったままリシェは寮を出る。彼の後を追いかけていくラスは、意味の分からない行動をする同居人の背中を見て動揺と共に何とも言い難い切なさににた感情を抱いた。
 …か、可愛い…!!先輩、とても可愛い!!
 ぬいぐるみを抱えながら校舎へ向かうなどと、一体何処の萌えキャラなのか。あまりの予想外の行動に、物凄く儲けた感でいっぱいだった。
 いっそいつもこんな可愛げのある彼でいて欲しい。
 そんな事すら思ってしまう。
 学園内へそのまま到着すると、リシェは無言で教室方面ではなく何故か職員室方面へと走る。
「え?先輩?何処に?」
 てっきり教室へ向かうのだろうと思っていたラス。
「んー」
 彼は適当な返事をしたまま、職員室の前で足を止めた。そしておもむろに扉を開く。
「失礼します」
 ガラリとスライドドアを開け、クマを抱えたままリシェは周囲を見回した。ちょうど職員室の中には担任教師のオーギュスティンが朝の準備をしている最中で、リシェの姿を見るや不思議そうな顔を見せる。
 何故大きなクマのぬいぐるみを持っているのだろうかと。
「リシェ?どうしたんですかそれ…落とし物ですか?」
「おはようございます、先生。いや、これは俺の持ち物です」
「………?」
 無表情でクールな印象のリシェの言葉とは思えない。
 オーギュスティンは「はぁ…」とだけ答えた。
「何かご用が?」
「ええっと…ヴェスカ…いや、ヴェスカ先生は?」
 クマのぬいぐるみとヴェスカと、何の共通点があるのだろう。オーギュスティンは職員室内を見回した後、ちょうど手洗いから戻ってきた彼を見つけた。
「ヴェスカ先生」
「んあ?…ああ、何すか…?」
 朝の為か、彼は大変眠そうな顔をしていた。
「うちの生徒があなたに用があると」
「んん?…あぁ、何だリシェちゃんか。おはよ…何した?」
 寝惚け眼の状態のヴェスカの前に、リシェは持ってきたクマのぬいぐるみを突き出した。そして真顔で言い放つ。
「あんた、このクマと話せるか?」
 初めて見たぬいぐるみをいきなり突き出され、ヴェスカは一瞬脳内が停止する。いきなり彼は何を言い出すのだろうか、と。
 あまりにもリシェが真剣な顔をしているので、どう返事をしたらいいのかわからなかったが。
「せ、先輩…まさかその為にこいつをここまで持って来たんですか…?」
 可愛い、可愛いと夢心地状態だったラスも一気に現実に戻ってしまう。一体彼の中で何が起きたのだろうか。
 ずいっとぬいぐるみを突き出されたヴェスカは、困惑顔のままリシェを見下ろす。
 あまり夢の無い事は言いたくは無かったが。
「…いや、いくら何でもそれは無理っす…」
 とりあえずそれだけ答えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

聞いてた話と何か違う!

きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。 生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!? 聞いてた話と何か違うんですけど! ※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。 他のサイトにも投稿しています。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

BLゲームの脇役に転生したはずなのに

れい
BL
腐男子である牧野ひろは、ある日コンビニ帰りの事故で命を落としてしまう。 しかし次に目を覚ますと――そこは、生前夢中になっていた学園BLゲームの世界。 転生した先は、主人公の“最初の友達”として登場する脇役キャラ・アリエス。 恋愛の当事者ではなく安全圏のはず……だったのに、なぜか攻略対象たちの視線は主人公ではなく自分に向かっていて――。 脇役であるはずの彼が、気づけば物語の中心に巻き込まれていく。 これは、予定外の転生から始まる波乱万丈な学園生活の物語。 ⸻ 脇役くん総受け作品。 地雷の方はご注意ください。 随時更新中。

処理中です...