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そのごじゅういち

選んで貰おう

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 変質者(ロシュ)防止に寮のカーテンレールに何枚ものひょっとこやおかめのお面を吊り下げた翌日の放課後、いつものように屋上で駄弁っていると、物凄い勢いで美貌の保健医がすっ飛んで来た。
 リシェはラスに与えられた野菜ジュースの紙パックをストローで啜りながら、普段の穏やかな表情とは違い妙に殺気立っている彼を見上げて珍しいなと他人事のように思う。
「どういうつもりです」
 彼はズカズカとこちらに近付きがらラスに詰め寄った。
 ラスはロシュに「何がです?」と問う。
「修羅場?何やってんのさ、ラス」
 野次馬根性剥き出しのスティレンは、野菜ジュースを啜るリシェの頰を引っ張る悪戯を繰り返していた。
「やっぱりトマトベースは苦手だな」
 特有の塩っぽさを感じたのか、リシェは一人平和に感想を呟いている。
 その側で、反発しあう教師と生徒。
「吊り下げるのをやめろと言ったのに何で増やしてるんですか!」
 ロシュはラスにそう言うと、ラスも彼に反論するように口角を上げ目を細めた。
「変質者防止です。てか、嫌なら見なきゃいいんじゃないですかぁ」
 教師に反抗する生意気な生徒さながらに、ラスは小馬鹿にしたようにロシュに言う。外部から見れば見た目の派手さを注意されているようにも見えるが、会話する内容は全く別の事だ。
 要は寮の窓辺に暖簾のようにお面を吊り下げるのをやめて欲しいという話。
 どうでもいい話をしているのだ。
 ロシュはぐぬぬと正論を言われて悔しそうな顔をする。
「私はリシェが安心して生活出来るように見守りたいだけですが?」
 まるで保護者の言い分をしていた。だがこちらの世界では彼はリシェの保護者でも何でも無い、赤の他人。向こうの世界の事情をこちらに持ち越されても迷惑というものだ。
 ラスはふんと鼻を鳴らしながら「何言ってるんですか」と笑った。
「こっちでは全く関係無い他人ですよ。先輩にいくら向こうの事を説明したって、なーんにも理解してくれませんって。現に俺が言っても理解してないんですから」
 一体何の話をしているのか分からないが、妙に馬鹿にされているような気がする。スティレンは一連の話を耳にしながら、ジュースを啜るリシェを小突いた。
「リシェ、何気にめっちゃ馬鹿にされてる。んっふ」
「?」
 ずずっと残りを飲み干し、彼は二人を見上げていた。
「何の話をしているんだ?」
 そして話を全く聞いていなかったらしい。
「お前の頭の中って本当に平和だよね」
 スティレンはリシェに鞄を持たせると、「帰ろ」と誘う。
 ラスはラスで取り込み中みたいだし、とにっこり笑った。
「そうだな」
 よいしょ、と自分の鞄を腕に掛け、リシェはスティレンに連れられてその場を立ち去った。ラスを残したまま。

 二人が帰った事に気付かない位、ロシュからの挑発に乗っていたラスは一触即発の状態を保ち続ける。リシェを彼から守るにはこちらも同じように応じるしか無いのだ。
 一方のロシュは持ち前の嫌味臭さをフル活用しながら自分が優位なのだというのをアピールする。
「あなたにあの子の何が分かるっていうんですか。私は全部を知り尽くしていますからね。向こうで恋人だったんですから、当然こっちでも恋人にならなければいけないんです。それをあなたが横から邪魔しているようなものですよ?余計な横槍は止めて欲しいと思いますけどねえ」
「あぁ、向こうの世界じゃあね。でも、こっちは全く違う世界であんたは国のお偉いさんでもなけりゃ先輩の保護者でもない。ただの他人になってるんですよ。向こうの事情をこっちに押し付けるのはどうかと思いますけどねぇ、ロシュ様?」
 お互い睨み合いをしながら主張を繰していた。
 顔がモデル張りに良過ぎて、冷たい表情になると凄みを増すロシュだが、ラスも全く物怖じしない。彼にだけは意地でも譲れないのだ。
 ふっとロシュは強気な笑みを浮かべる。
「それなら、本人に選んで貰いましょうか。リシェがどちらを選んでくれるのか。彼の口から結果が出るなら文句は無いんじゃないですか?」
 ロシュの提案に、ラスはへぇ…と目を細めた。
「随分な自信家っぷりで。俺は先輩と一緒に居る時間があんたより多いんですよ。当然俺を選んでくれるに決まってるじゃないですか。ねっ、せんぱ…」
 ここでようやくラスはリシェの居るはずの方向に顔を向けた。
 だが、すでにその場に彼は存在していない。言い合いに夢中になっていて、周りの変化に気付いていなかったのだ。
「あれっ!?先輩!?スティレン!?」
 慌てて周辺を見回す。
 ロシュは相手の慌てっぷりについふふっと吹き出した。
「おやおや、随分薄情なお友達ですねぇ。恋人どころか、友達とも認識されていないのでは?」
 その笑い方すらも変に上品過ぎて癪に障る。
「うるさい!」
 いつの間に居なくなっていたのか。
 明らかに馬鹿にされ、ラスは怒りに任せてロシュに怒鳴っていた。
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