異世界学園の中の変な仲間たち3

ひしご

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そのななじゅういち

自爆

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 部屋に入るなりまるで修羅場のような展開。
 ラスはスティレンからリシェを引き離しながら「ダメですよ先輩!」と落ち着かせる。
 いきなり殴られたスティレンは当然のように感情のまま怒り、リシェに掴み掛かろうと手を伸ばした。
「こんな根暗な顔して随分と乱暴じゃない!!」
「だ、だから蚊がお前の顔に付いてたんだ…」
 ラスに引っ張られ、押さえ込まれているリシェは慌てて言い訳を繰り返していた。うねうねと腕の中で蠢きながら手の平の戦果を見せようとする。
「だからって人の顔をいきなり殴る!?頭おかしいんじゃないの!?」
 スティレンの意見もごもっともだった。
 いきなり殴り付けるとは正気の沙汰では無い。
「せ、先輩。そりゃいくら何でもやり過ぎですよぉ」
「部屋に蚊が入ってくるのだ」
「それは分かりますけど」
 窓を開いているのだからそればかりは仕方が無い。どうにかスティレンを宥め、リシェを押さえ込むと二人に「座って」と促す。
 スティレンは顔を引き攣らせながら大人しく床に座ると、まだ怒りが冷めないのか「この野蛮人が!」と従兄弟に吐き捨てた。
 一方のリシェは「多分まだ居るぞ」と警戒する。
「だからさっきお前にあげた薬剤が効くまで待ってろっての!」
 ラスは背後からリシェを抱き締めながら困ったなぁと天を仰いだ。そろそろ虫に悩まされる季節だが、撃退出来る物を買っていなかった。
 今更ながら寮に戻る時に気付けば良かったなと後悔する。
「明日にでもちゃんと虫除けを買ってきますから、今日は我慢して下さい」
「網戸に穴が空いているからそこから奴らが入ってくる」
 確かに割と年季のある建物なだけに、あちこち隙間もあるのだろう。ラスは顔を上げて網戸の方を見た。修正するものも買わなければ…と脳に記憶させた。
「それも含めて買い物に行きましょう」
「…てか、俺に対して無礼を働いた詫びもしてよ!」
 腕の中でうねうねと蠢くリシェを落ち着かせていたラスは、スティレンの発言を受けて「それは先輩に言ってよ…」と困惑する。
「あんたが管理してるんでしょ、こいつを!」
 何故そうなるのか。
 普通の人間ならば否定するが、ラスはその言葉に何故か嬉しそうな顔をする。
「管理だなんてそんなぁ」
 にへらと笑みを浮かべる始末。彼はリシェに関わる事は何でも嬉しいらしい。
「めちゃくちゃ痛かったんだからね!この俺のきめ細やかな美しい肌が傷付いたんだから相応の詫びを貰わないと気が済まないし!」
 腕の中のリシェを見下ろし、ラスは「だそうですよ…」と言う。
 スティレンも何故そこまで自分を自画自賛出来るのだろうか。
「そこまで言うなら絆創膏でも貼ってやろうか」
 リシェもリシェで、自分の行った行為を全く反省しない辺りどうかと思う。
「俺の美貌が損なわれるだろうが!!馬っ鹿じゃないの!?」
「ああああ、もう。喧嘩はダメだってば。じゃあスティレン、何が欲しいのさ?言っておくけど、高いのは無理だよ」
 そこでまたラスは制止する。
 何故自分がこの役回りになるのか。
「そうだねぇ」
 どうにかこの煩いスティレンを黙らせようとラスは具体案を求めている最中、リシェは再びあの不愉快な音を耳にする。
 んんん、と顔を上げた。
 まだ居るのか、と眉を寄せていたその後で自分の右側の頰に違和感を感じた。そのミリ単位の小さな一点から湧き上がる嫌悪感。
 反射的にリシェは手を上げ、勢い良く自分の頰に居るであろう虫目掛け叩きだしていた。
 ばちぃいいいいいん!!と響くビンタ音。
「ちょ…せ、先輩!!何してるんですか!」
 いきなりの自爆行為にラスはリシェの手を掴む。
 目の前で自分を叩くという変な行動に走ったリシェに、スティレンもドン引きして「何してんの…」と怪訝そうな顔をした。案の定叩いた場所が赤くなっていくのを見て、ラスは「駄目ですよ!」と慌てる。
 一方のリシェはラスによって掴まれた手の平を確認すると、ちっと舌打ちする。
「居ない。逃げやがったか」
 無表情のまま、まるで撃ち損じたスナイパーのような発言をした。
「先輩、仕留めてもいいけど体を打つのはやめて下さい!!」
「リシェ…お前、どんだけ蚊が嫌なのさ…てか顔真っ赤になってるし」
 みるみる真っ赤になっていく頰に、スティレンはハッと気付き、まさか自分もそうなってないだろうなと自分の手鏡を引っ張って確認する。
 そして自分も同じように顔が赤くなっているのを知ると、再び怒りが再燃する。
「ちょっと、俺も赤くなってるじゃない!どうしてくれるのさこの野蛮人!!」
 頰に綺麗な手跡を浮かばせたスティレンは、恨み言を言いながら再びラスに保護されているリシェに掴み掛かっていた。
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