TRE~宝を奪われた専門職達の復讐物語~

ニコニコ大元帥

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第一章 第二十話~囚われの身~

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 固くて冷たい感触が僕の頬に伝わる。目を開かなくてもわかるけど、この感触は石だ。石畳の床に僕は寝そべっているみたいだ。

「う……ゴホッ!」

 ゆっくりと体を起こして鼻で息を吸い込むと、あまりのサビ臭さと鉄臭さからむせび返してしまった。先程までいた場所は清掃も行き届いて匂いもフローラルないい香りが漂っていた。ここの匂いはそれとは真逆のものなので、別の場所だと推測できる。

「暗いなぁ……」

 真っ暗な空間だ。照明器具はおろか、蝋燭や松明といったものも無いみたいだし、少し肌寒い。こういう時は変に動かずに目が慣れるまで待つべきだ。そうして数分も経った頃にはだんだん目が慣れてきて――部屋の全貌がわかってきた。

「ろ、牢屋?」

 錆びて変色し、塗装の剥げた鉄格子だ。これが宿泊施設や客間なわけがない。恐らく……いや、確実にここは牢屋の中だ。成程。牢屋に入る人間に居心地の良い床も照明も必要ないからこんなにも暗く冷たい場所だったのか。納得した僕は立ち上がって鉄格子に近づき、外の様子からできるだけ情報を得ようと鉄格子を握りしめながら顔を押し付け、目を凝らしてみた。

「こ、これは……!」

 この牢屋は壁の中に埋め込まれるように作られており、牢屋から一歩外に出るとそこには三角木馬や鞭、アイアンメイデンやペンチ、鋸や棘の付いた椅子など無数の拷問器具が立ち並び、壁や天井、床には大量の血が飛び散っていた。それが意味する事は一つだ。この部屋は……

「拷問部屋……! う、うわぁ!?」

 よく見ると握っていた鉄格子には真新しい血がべっとりと付いており、手の平が真っ赤に染めあがっていた。慌ててズボンで拭き取ってしまったけど、帰ったら洗濯しなきゃいけないな……

「というかここはどこなんだろうか……?」

 この部屋がどこかという意味ではなくて、今いる場所、地点というか、ここはノンビーヌラの王宮なのかという話だ。真王の声を聴いていたら眠くなってしまって……

「っ!!」

 その時、僕の後方、つまりは牢屋の奥の方から音がした。人の気配……この部屋に閉じ込められているのは僕だけじゃなかったのか!? 僕は限界まで後ずさりして鉄格子に背中をぴったりと押し付ける。そして両拳を握りしめて、音破が取っていたファイティングポーズを見よう見まねで構え、暗闇を睨みつける。武道の心得はないけど、とりあえず牽制にはなるはずだ! 僕は暗闇から近寄るその人物をジッと観察してみた。

「…………旋笑?」
「………………」

 暗闇の中から現れた人物。それは旋笑だった。口元はマフラーで隠れているのでわからないが、目元が緩んでいるところを見ると、安堵している様子だ。

「旋笑が一緒って事は音破とかラージオさん達もいるの?」
「………………」

 前髪を揺らしながら首を横に振っていないと教えてくれる。ここに入れられたのは僕と旋笑の二人だけってことか……。僕は再び、今度はなるべく鉄格子に触れないようにしながら顔を近づけて他に何か得られるものが無いか、部屋の中を見渡してみた。それに続くように旋笑も僕の横で鉄格子に顔を近づけていた。

「う~ん……凄い量の血だね……」
「………………」
「ここはどこだろうか……ノンビーヌラなのかな?」
「………………」

 う~ん……コミュニケーションが取れていないわけじゃないけど、やはり会話できないのは少々厄介だ。こちらから一方的に話し、リアクションを取ってくれるけど、旋笑が考えていることや、思いついたことは僕に伝えることができない。文字という手もあるけど、僕はこの世界の文字を知らないし、旋笑も僕の世界の文字を知らないから無理だ。今後旋笑とちゃんとした会話がしたいし、本格的に覚えた方が良いかもしれないかな……。でも今はそんな事よりもここを脱出する術を見つけないと――

「ここは世界の中心。ワピ・クアンザだ」
「うわぁああああ!!??」
「!!!!」

 突如として投げかけられた声に、僕は車のクラクションのような大声を上げてしまった。旋笑も声こそ出なかったが、鳥肌に髪の毛がブワァ! っと逆立っていた。ってそうじゃないよ!? この牢屋にもう一人いる!? 旋笑と僕は互いに目を見合わせて拳を握りしめて戦闘態勢に入る。もっと広かったら旋笑の能力でどうにかなるかもしれなかったけど、こんな狭い場所で使ったら僕を含め、自らも危険に晒してしまうだろう。なら肉弾戦しかない。……とはいえ、女子供の力でどこまで抵抗できるか……?

「おおっと! お前さんらに危害を加えるつもりはない」

 声質的に成人した男性と推測できる。暗闇だから見えないけど座っているのかな? 発せられている声の位置が低い気がするな。

「だ、誰ですか?」
「俺はお前らの先輩だよ。この牢屋に住んでいるな」
「な、なんで牢屋に入っているんですか……?」
「……人殺し」
「「!?」」
「おおっと安心しな。一般人の女子供を殺すことはしないからよ」

 男性は笑いをこらえながらそう告げるが、人を殺したって言うところは否定しないんだ……

「俺が殺したのは真王の警備をしていた憲兵だけだ」
「憲兵を?」
「ああ。俺は元農民だったんだが、真王に不満を持っていてな。直談判をしようとしたが、取り合ってくれないもんで殺害しようとして……ってな具合だ」
「な、なるほど……」

 どの世界にも年貢やらの問題があるんだなぁ……と、この世界の事を考えてみる。

「それじゃおじさん。暗闇から出てきてくれませんか?」
「あ、いや。今は無理だ」
「無理?」
「手足が無いもんでな」
「「……!」」

 僕と旋笑は息をのんだ。手足が無い……もしかして声の位置が低いのって、足が無いから地面に近いって事……?

「後ろに拷問道具があるだろ? その周辺に落ちている歯やら爪、飛び散っている血なんかは全部俺のもんさ」
「酷い……」
「それが奴らのやることさ。少年。何か羽織るものをくれないか?」
「え?」
「お前一人ならいいんだが、女の子の前に全裸で出るわけにもいかねぇだろ?」
「え! あ、はい!」

 僕は上着を脱いで半袖となり、上着をおじさんの方に持っていこうとしたが、投げるだけで良いと言って来たので、言う通りに投げ渡した。投げた後だけど両手足が無いのに着れるのだろうか? そんな疑問に答えるように、おじさんの方からは衣擦れの音が聴こえてきて、数秒後には僕らの方へと歩いて来た。

「あれ?」

 歩いて来た。そう。歩いて来たのだ。僕の上着を腰元に巻いて、自分の足でこちらに歩いてきているのだ。さっきの話だとおじさんは両手足が無いと言っていたけど、普通についているし、拷問を受けていたと言う割には体には傷一つ付いていない。

「俺の体を見て不思議に思うだろうが、俺は超能力者なんだ」
「超能力? なんの能力なんですか?」
「不死身の能力」
「へ!?」
「正確には死ぬ前に傷が癒えるって能力さ」
「死ぬ前に傷が癒える……ですか」
「ああ。ま、そのせいで毎日拷問漬けだがな!」

 笑っちゃいるけどそれって毎日が地獄のはずだ。なのに彼は笑っている。そうでもしないと精神がもたないのか。それとも他に心の支えになっているものがあるのか……

「あなたがそれ程のTREになった理由をお聞かせ願いませんか? 一体何を奪われたんですか?」
「奪われた? いいや。俺は何も奪われてない」
「は? TREってその人にとって最も大切なものを奪われた時になるんじゃ……」
「TRE? 奪われる? ……成程な。真王の奴は世間の連中には話してないのか」

 おじさんの意味深なセリフに僕は生唾を飲み込む。まだ僕の知らない事があるのか? 僕が聞くよりも先に、話の続きをおじさんがしてくれた。

「その昔……っても十年前の事だがな? この世界に宇宙人がやってきた」
「う、宇宙人?」
「…………?」

 僕と旋笑は顔を見合わせて今出た単語に首を傾げる。宇宙人って言った? にわかに信じがたい単語だ。この世界では当たり前かと思ったけど、この世界の住人である旋笑が疑問符を浮かべているというという事は、やっぱり普通の単語ではないようだ。

「信じられない……って顔だな。まぁ俺も初めはそうだった。だが現実問題目の当たりにしちまったから信じるしかない」
「それでその宇宙人は何のためにこの世界に来たんですか?」
「俺も一介の農民で囚人だから詳しくは知らないが、なんでも宇宙規模の破滅が訪れるから力を貸してほしいって真王に会いに来たらしいんだがな? 妹のアンティズメンノって人が地球人を超能力者に変える力を持っていたんだ」
「奪われずに能力を授けるってことですか?」
「ああ。だから俺もその能力で今の能力を授かったってわけだ。もう一度妻と子供に会うまあでは死ねない! って毎日思ってたからなぁ……願ったり叶ったりの能力だろ?」

 直接授けられた能力者は奪われなくてもTREになるって事? う~ん……ならいつから奪われないとTREにならないような事態になったんだろう?

「さてと……お話はその辺にして脱出の準備だ」
「はい?」

 おじさんは僕らの間に割って入り、鉄格子から外の様子を見始める。

「そろそろ憲兵が来る時間だ。お前さん達、どっちか超能力者だったりするか?」
「…………」
「ほう。お嬢ちゃんが超能力者かい。それじゃ憲兵が来たら俺が一暴れしてやるから、その間に逃げな」
「え? おじさんはどうするんですか? 捕まったらまた……」
「安心しな! もう慣れっこさ! それに子供を逃がせるんならこの身も安いもんさ!」

 おじさんは親指を立てて満面の笑みをこぼす。こんな地獄にいるのになんて明るい人なんだろう……

「そうさ……俺には助けに来る人がいるんだ。メタスターシさんよ……いつになったら助けに来てくれるんだい……」
「メタスターシ?」 

 なんてない独り言だった。僕に言ったわけでもないのに、僕の耳にはおじさんの発したその言葉が何度もこだました。

「お、おじさん! 今メタスターシって言いました!?」
「? ああ」

 この場でその名前を知らない旋笑は僕とおじさんの顔を交互に見ながら疑問符を浮かべていたが、説明している時間も惜しい僕はおじさんに詰め寄った。

「メタスターシさんって宇宙人だったんですか!?」
「ああ。この騒動を起こした張本人でもある。……その様子だと君は『彼』に会ったんだな?」
「はい! と言っても声だけですが……」
「成程……今『彼』はどこにいるんだ?」
「わかりません……僕もあれから会っていませんから」
「そうか……」

 僕をこの世界に連れてきてくれたメタスターシさんの正体は宇宙人。しかもこの世界をこんな風にした張本人だったとは……。でも何でそんな人が僕に接触してきたんだろう?

「まさかメタスターシさんが世界をこんなにした張本人だったなんて……それに世界の地形を変えるなんて何がしたかったんだ?」
「いや。それは違うぞ?」
「え? だってこんなにした張本人だって……」
「騒動はメタスターシさんだが、宝狩りや世界を滅茶苦茶にしたのは真王で、世界をこんな地形にして雲で覆ったのは別の奴らさ」
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