『真・らぶ・CAL・てっと』

倉智せーぢ

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真・らぶ・CAL・てっと 二十九

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「ヒ」
ヒロ、と呼びかけようとして言い直す。
「いや、結城」
「ん?」
「悪いが、治を連れて席外してくれるか? 育嶋と二人で話がしたいんでな」
つまり、弘と一緒だとまずい話なのだろう。
さっきの今なので、弘としても横目で直也をにらんだが、いつになく真剣な表情をしていたのを見て思い直し
「わかった。 早く済ませてね」
と言った。


「北条くん? 僕は二年の結城弘。 育嶋と神道の親友だよ」
別室に移動してから弘が告げる。
治が、心細そうにしていたためである。
「先輩と直兄の?」
緊張してぺこり、と頭を下げる治を見て可愛いと思った弘。
だいたいその反応が普通なので、佑のソレはいささかニブイのである。
「先輩……大丈夫でしょうか? 直兄、いえ神道先輩と、その」
佑が心配なのと直也との事とでもじもじしながら弘に問いかける。
「心配いらないよ。 お願いがあるだけらしいから」
頭をなでなでしてあげたいような可愛らしさだった。
基本『受け』の弘でもそういうことはわかる。
そして、危うくそう仕掛しかかったのであった。
実行に移さなかったのは奇跡に近い。


ともあれ、治が佑と直也のことを、いや正確には主に佑の安否を心配していた頃。 佑は、弘の言うとおり、心配はいらない状態だった。
直也は親友の親友に、もっとはっきり言ってしまうと恋人の親友に暴力を振るうような男ではないからである。
それでも、その体格と迫力に押された佑は、いくぶんビクビクしていた。 直也には自分の性格を喧伝する趣味はないので致し方ない。
「育嶋」
改まって自分を見つめる直也に、ビクッと体を震わせ起き上がる。
「な、なに?」
「治のことをよろしくたのむ」
そういって深々と頭を下げる直也。
「え、ええっ?」
佑は混乱していた。
治が直也と昔馴染みだったのをさっき知ったばかりな為もある。
加えて、なぜ直也が自分に治を託すようなことを言うのか意味不明だったのだ。
「オレでは治を傷つけちまうからな」
「神道」
照れたようにそっぽを向く直也。
治のことを、本当に可愛く思っているのだとニブい佑にもうかがえる。
しかし、だとするとますますわからない直也の発言であった。
佑が鈍感なせいもあるが、直也の言葉が説明になっていないのも確かだ。
「あいつが、オレや茗以外に心を許したのはお前だけだ」
これも説明になっていない。
「あ、それとな」
ふと思い出したように
「治とは一度きりだ」
「はい?」
ではそんなこと言わなければいいのだ。
「ヒロには」
言い直す。
「いや、結城には内緒にしといてくれ」
佑はそんなことをしゃべるつもりはもとよりないが。 直也としては心配だったようである。
佑がしゃべるというよりは、弘が追求するのではないかということが、なのだった。
ちなみに、直也は弘にそのことを秘密にしておくつもりなのではない。
知らせるときは、自分の口から言うつもりなのであった。
弘と親友以上恋人途上だからとはいえ、つくづく誤解されやすい言動な男である。
というわけで、佑は頷いた。
仮にも、親友の親友なのだから(ああややこしい)自分に言ったことを弘に隠し立てする気はないだろうと思ったのである。
厳密には、それは後でいろいろ考えを巡らしてから思い至ったことだった。
直也に告げられたその直後に一応頷いたものの、実際問題として、いろいろ考えるどころではなかったのだ。
佑の頭の中は、暴漢に殴り倒されて可愛い後輩を守ることが出来なかった無念さでいっぱいだったのである。
しかも、治を救ったのは親友の親友である神道直也で、しかも過去に治と『何か』あったらしい。
そんな相手から
「よろしくたのむ」
などと言われては、恋愛経験が豊富でも混乱するだろう。
ましてや、佑は恋愛経験が、特に『修羅場』の経験がゼロに近いのである。
こういうのはあまり『修羅場』とは言わないかもしれないが、佑の心境としてはそうだった。
つまり、佑は混乱の極みにあったのである。
「あの、神道?」
「何だ?」
「よくわかんないんだけど、一度だけってその」
「キスと」
直截的な言葉にびっくりする佑を尻目に続ける直也。
「まあ、それ以上のコトをだな」
薄々わかっていたのだが、直接当人の口から聞くとまたショックは大きかった。
(そ、それ以上のことって、やっぱり『そのこと』? しかも今は本当に結城としてるってことで)
かつてより耐性はついたとはいうものの、処理能力を超えると思考が堂々巡りする佑。 それでも何とか
「よ、よろしくたのむって」
「それはな、治は」
続く直也の言葉で、更にもっと混乱に陥った。
「入学以来、一度もオレに逢いに来てないんだ。 茗は知ってるんだから、治はオレよりも一緒に居たくてたまらない相手がいるってことだ」
その『相手』というのは当然自分のことに違いない、とは思ったがそこから先の思考が空転している状態なのだ。
普通なら直也に対してジェラシーを感じたり、そんなにも慕ってくれる治に対して優しい気持ちになるのだろうが、佑自身そんな気持ちを自覚していなかった。 そして状況も『普通』などではない。
かくて、弘と治が医務室に入ってきたときも、佑はそんな状態、つまり思考が空転したままであった。
視界にもやがかかっているようで現実感がない。
だから、直也と弘の前で治が自分に抱きついてきたのをそのままにしていた。
もっとも、弘はまだ治が佑のことを先輩として慕っているのだとしか思っていなかった。 つまり彼の目には、ほほえましい情景にしか映っていなかったのだ。
直也の方は、と言えば、まあ言わずもがな、なのである。

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