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真・らぶ・CAL・てっと 三十
しおりを挟む「じゃオレたちは部活があるから」
「お大事にね、育嶋?」
というわけで、直也と弘の二人は医務室から出て行こうとした。
佑の思考はまだ空転していたが、それでもなんとか
「う、うん。 二人とも、どうもありがとう」
と礼を言う。 ほとんど半分以上自動的にではあったが。
「気にするな」
「どういたしまして」
直也は無造作に手を振り、弘は慣れないウインクをしてから部室へと向かっていった。
そういうわけで、医務室には佑と治の二人きりになったのである。
「ごめんなさい、ぼくのせいでこんな目に……」
だが、楠木医師の診断によればコブもできない程度だったようであった。
なお、彼女は今、情報局室に行っていた。 念のため『凶器』が何なのかを確認するべく加害者に問いただしに向かったのだ。 凶器の種類によっては万が一のことがあるかもしれないからである。
ともあれ、そういうわけで二人きりの医務室なのだった。
「大丈夫だよ。 北条のせいじゃないから」
細い肩を起こすようにして優しく体を離すと、涙目になっている治の顔が見えた。
可愛らしかった。 『事件』の前なら抱きしめていただろう。
しかし今現在、佑には治をいたわってやれる余裕がなかった。
「ごめん、北条。 一人にしてくれる?」
治は、当然と言えば当然ながらその言葉にショックを受けた。
「せ、先輩……」
今までの佑の言動から薄々おわかりの事とは思うが、彼は嫉妬深くない。
というよりも、嫉妬心というものに縁がなく、それどころか嫉妬するエネルギーに欠けている、と言ったほうが早い。
だから、今回この時点では思考が空転と混乱を繰り返していただけである。 決して治が直也とそういう関係だったことに憤っているのではないし、気分を害しているのでも不愉快に思っているのでもない。
ではなぜ
「一人にしてくれる?」
などと言ったのか?
それは単に、自分の無力さを痛感し、これからの治への接し方について思い悩んでいるからなのだ。
加えて、治の泣き顔を見たときに、直也の言ったことが頭をよぎったのであった。
一人にしてもらいたいのも無理はない。 静かなところで思いを巡らせるだけ巡らして頭の中を整理したいのである。
だがしかし、治はそんなことは知らない。 佑も説明するほど気持ちに余裕がない。
気持ちに余裕があったとしてもそんな説明をするか?というとおそらくしないだろうが。
かくて、治も思い悩み始めた。
(先輩に……知られちゃったんだ……ぼくが昔、直兄と……しちゃったことを。 ぼくが初めてじゃないってことを)
たしかにそれはそうである。
だがしかし、佑としてはそれを気にするような心境ではないのである。
しかし治はテレパスではないので言わなければわからない。
というわけで
(先輩に嫌われちゃった……どうしよう?)
どうしよう?ったってどうしようもこうしようもないのだが、ということはつまり
『思い悩んでも仕方がない』
ということなのだ。
だがそれでも悩んでしまう。
恋する少年は傷つきやすいのである。 繊細なのである。 ナイーブなのであった。
以前の治なら寝込んでいたことだろう。
現在は、佑が側にいてくれたおかげで体質改善が進み、前よりかなり丈夫になっている。
だから寝込みはしなかったが、ある意味もっとタチが悪かった。
なまじ体力がついてきたため、疲れで泥のように寝入って思考停止、ということがかなわなかったのであった。
かくて、治は寂しい日をすごすことになった。
人間、寂しいと気が弱くなることがあるが彼もその例にもれなかった。
もともと気が強くないところへ持ってきてさらに、であるから
(ぼくは先輩に見放されたんだ)
と思い込んでもしょうがなかった。
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