『真・らぶ・CAL・てっと』

倉智せーぢ

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真・らぶ・CAL・てっと 五十八

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多少、時はさかのぼる。

留美と由香が再会する十分ほど前の、某所。
飛弾野茗は、由香のボール磨きに付き合っていた。
「罰として、校庭十周!」というノリのあれである。
もっとも、道具の手入れは大事なので、顧問の先生としては一石二鳥の罰であった。
「由香センパイ」
「ん」
生返事をする立村由香。
「最近、変ですね?」
そうなのである。
最近の由香は変なのだ。
部活にて、片手キャッチにはじまり、ダブルドリブルにホールディング。 ついにはイリーガルユースオブハンズときた。
ここらへんで顧問の道田教諭が顔色を変えた。
さすがに、トラベリングまではしなかったのであるが。
わからない人のために(せーぢ註・実のところ作者もイメージできていない(笑))補足するが、つまり、由香がやっていたのはバスケットボールにおける反則行為のオンパレードなのだ。
高校バスケ部の副キャプテンがやることとしては、誠にもって全く本当に、ふさわしい行為とは言いがたいのである。
だから、解散後の今はボール磨きの罰なのだった。
「今日はセンパイらしくないプレイ満載でしたけど」
「ありがと、……言い方気づかってくれて」
上の空に返す由香。
茗はますます心配になり
「何かあったんですか?」
と聞かずにはおれなかった。
なんと言っても尊敬する先輩が悩んでいるようなのだから。
「そうなのよ茗」
由香の、ボケから半分覚めかけた顔を覗き込んで茗は
「聞きますよ?」
そう言って、次に後片付けを手伝いながら続け
「話してみたら気が楽になる、ってことありますからね。 生意気なようですけど」
にこっ、とする後輩の笑顔に、今まで、ささくれだち心落ち込み状態にあった由香も激的に回復した。
「あんたの言う通りかもね……」
意を決した由香は話しはじめた。
やはりかなりの屈託が溜まっていて、聞いてくれる人を求めていたのだろう。
「佑を覚えてるでしょ?」
「はい」
軽く頷く茗。
「彼がね、浮気してたのよ」
ははあ、どうやら態度でバレたかな……と思ったが、おくびにも出さないのはやはり女子バスポイントゲッターであった。
メンタルが強いのだ。
言い換えると、『つらの皮が厚い』のである。
「え、そうなんですか?」
「そうよ……しかも」
「はい、しかも?」
『彼が浮気』という直接的なフレーズにはだいぶ驚いたが、だいたい次にくるのはわかる。
しかし、友人のためにここまで悩むとは、さすがあたしの尊敬する由香センパイだ、と考えていた茗は足もとをすくわれた。
実際に、というわけではない、念のため。
「男の子と外でキスしてて」
それを聞いて、茗の心では「ぶっ!」と口に含んだ飲み水を吹きだしている自分の姿が浮かんでしまった。
「あたし、カッとなってつい彼を引っぱたいちゃって」
「あ~あ……」
と思うが、心の中だけで顔には微塵も出さず
「で、でも、それはさすがにやり過ぎじゃ……」
その言葉に鬱屈と溜まっていた感情が堰を切り、とうとう由香は事実・誤認・誤解いろいろ取り混ぜて吐き出すように話し始めた。
「確かにそうかもね! でも、『初めてだ』とか言っちゃって! 『そのこが病気で』とかいろいろごまかそうとするんだよ、佑ってば! 『抱きしめてた』なんて! 仮にも現場を押さえられて、彼女であるあたしに言うこと!? せめてもっと隠せばいいってのに! 留美が可哀想だとは思わないのかしら!? ほんっとーに留美が可哀想よっ!」
それを聞いた茗の表情は複雑だった。
世にも珍しい由香の興奮ぶりに、度肝を抜かれていたのである。
プレイ、つまり練習や試合のときも興奮はしているが、その種類がかなり違った。
(な、なんだかよくわからないけど、佑センパイと由香センパイはつまり……え? でも留美センパイも確か……)
治からまた聞きに事情は知っているつもりだ。 それによると
「先輩には留美さんってひとがいるのに、先輩はぼくにもとっても優しくしてくれて……」
というわけで、そこに由香の介在する余地は無い、と思える。
もう少し茗の推理は続き
(でもそういえば……あのときセンパイは「二人ともあたしの大切なひとよ」って……)
「!」
天啓のようにある考えがひらめき、茗の脳裏で最後の1片のピースがめ上がり『事態のジクソーパズル』は完成した。
(そっ、そうだったんだ……センパイと留美センパイと佑センパイは……三角関係のままラブラブ?)
と、ワリとかなり安直なフレーズで、由香・佑・留美の複雑な前代未聞の関係を思い浮かべた茗。
ついでに仲良さげだった学期初頭の三人を思いだし微笑ましくなった。
(いい感じだな~)
だが、次の瞬間またもや天啓のように閃く考えに
「!」
と声にならない声を出しそうになる。
(つ……つまりセンパイの苦悩の原因はよりにもよって……)
あたしだ、と思い至ったのである。
(ま、まずいよねこれってやっぱり……)
しかし、それでも茗は自分をかばい立てはしなかった。
性格が一本気だということもある。
だがそれだけでなく彼女は、「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」ということを、頭でなく体で知っていたのだ。
今までのバスケ経験から、それを学んでいたのである。
「そ、それが治くん……北条治くんのことなら……」
多少どもりつつも、前置きをして
(ってたぶん間違いなくそうだと思うけど、大体のところ他にそんな男子がいるはずもなく……)
更に言葉を接いでいく茗。
「佑センパイは、やっぱりたぶんごまかそうとしたのでも何でもなくて、実際にからだが病弱で、病いに冒されてて」
「え」
茗のその釈明に、由香は茗の顔を見た。
「茗? あんたどうしてそのコの体のこと知ってんの?」
「ええ、彼はあたしのイトコなんですよ」
簡単に言う茗。
そこのところは気楽だ。 事実で事実でしょうがないほどの事実なのだから。
「あ、そうなの? でもそれでどうして?」
ちんぷんかんぷんの由香だ。
「ええ、佑センパイのおかげで治くんの体が治ったって治くんの両親もうちの両親も大喜びで」
息せき切って一気にしゃべってから、ふう、とため息ついたあと、面食らっている由香に『事実』の確認を促した。
「なんなら、ウチに来て見てみますか? ちょっと恥ずかしいんですけど一目瞭然ですから」
実のところ、異様なほどのはしゃぎっぷりには閉口している茗なのだ。
誠にもって「ちょっと」ではなく「大いに」恥ずかしいのである。
(四人ともけっこうな年齢なのに、やれやれ……)
と茗は内心思っていたのだが、両親たちにとっては、まあ無理もない。
長年の間病いと闘い、生死をさまよっていた息子・兼甥・兼アイドル(笑)が驚異の全快そして完治を果たしたのである。
これで喜ばなければ何を喜ぶか?というぐらいのものなのだ。
それはさておき。
「いや、そこまで信用しないわけじゃ」
後輩のまくし立てに圧倒され後ずさりながらも、手を振ってその申し出を打ち消した由香は、更に一拍おいて考え出した。
(ということは、もしかして、いやもしかしなくてもあたしは佑に……いや、佑だけでなくその治くんとやらにも酷いことをしちゃったんだ)
そう思い至った由香は、次にその意味を思い知り、だんだん真っ青になっていた。
そしてその時。
「あ、ユカ!」
留美はやっとのことで由香の居場所を探し当て、某所(笑)の由香に辿りついたのである。

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