『真・らぶ・CAL・てっと』

倉智せーぢ

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真・らぶ・CAL・てっと 五十七

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そして、寝不足になった佑は、次の日にも、いやその次の日にも2、3日の間ダメージが抜けていない状態にあった。
落ち込みがひどく、よく学校へ出てこられたものだと感心する憔悴しょうすいのありさまだが、学生というものは学校を基準にしてしまう傾向があるのだ。 そのため、結構無理をしてしまうのである。
佑のそんな状態を知る由もない治は、検査入院とやらで2、3日学校を休んでいた。
とは言っても、流石に佑はそんな事を気にすることができる状態ではなかった。
つまり、入院のことは後から知ったのである。
もっとも、もし治が学校に出てきていて佑たちの教室に姿を見せたりすると、由香の怒りに油を注ぐことになりかねないので『結果オーライ』だといえる。


1日め、つまり平手打ち事件の翌日は
「輝明さんにはああ言ったけど……ユカはそんなに根に持つタイプじゃないよね?」
「そ、そうかな……」
「そうよ。 そのうちユカの方から折れてくるんじゃない?」
と佑を慰める。
わりと軽く考えていた留美だった。
だから、
「治クンとの交流、佑と一緒に深めてよっと」
などと気楽なことをのんきに思っていたのだ。


が――
1日経ち、
2日が経ち、
3日、4日――
5日はおろか1週間が経っても折れてくる気配がない。
そんな調子では、いくら留美でも心配になるというものである。
心配するならもっと早めに……という意見もある。
しかし、軽く考えて時機を逸してしまうというのはそんなに珍しいことではない。 
由香の気持ちをおもんぱかっての行動、いや非行動なので、あまり留美を責めるのも酷というものである。
もっとも、それ以前に、この件で留美を責めるものはいないが。

かててくわえて、治はここ三日くらい学校に来ていないらしい。
それもあってか、いや、それは留美の思い込みかもしれないが、佑は落ち込んだまま回復する様子がなかったのである。
(佑、そんなにユカと絶交したのが耐えられないの? あたしじゃ力になれないの?)
とか思うようなら留美ではない。
(誤解なんだから解けばいいのよね。 腹を割って話せば大丈夫よ、うん!)
これが留美である。
そして、彼女は決断と実行の人であった。
そう判断すると、すぐさま由香に接近したのである。
もちろん、物理的な意味にではない。


留美の迅速な行動と前後して、佑は佑でなんとか気力をふりしぼりS・Cサイエンス・クラブ部室に来ていた。
事態を打開するため(笑)の小休止と、気分転換のために部活に来たのである。
が、神の気まぐれか悪魔のイタズラか、そこには井沢正しか居なかった。
つまり佑は
「自分の方から、弱り目と祟り目の潜む暗剣殺の方角へ飛び込んでいった」
というところなのである。
いかに鈍感な彼としてもそのイヤな雰囲気は感じ取った。
そして
「あ、忘れてた」
と、とってつけたような棒読み独り言を口に出し、さりげないつもりで、かなりぎこちなくUターンをして、部室から去ろうとした。
「育嶋」
しかし、時すでに遅く、佑は彼に呼び止められ、そして、告げられた。
「忘れないうちに言っておくがな、例の惚れ薬は効力切れてるぞ」
驚く佑に、追い打ちをかける次のセリフ。
「だいぶ前にな」
「え」
頭の中が真っ白を通り越して透明と表現した方がいいような状態になる佑。
問答無用あからさまに間違いなく、正の言葉が原因である。


「それとな」
虚脱状態なのを知ってか知らずか、更に追い打ちをかけるように続けようとする正。
『悪魔の井沢』の真骨頂であった。
「な、ナンデスカ」
佑の口調が多少、いや、かなりギクシャクしても責めるわけにはいくまい。
「北条の体」
その言葉に彼の白い裸体を思い浮かべてしまうのだ。
それどころではないはずだが、それどころではないときにそうなるのがオトコノコの悲しいサガというやつであった。
そして更にカタコト化する言葉はまるでロボットであった。
「ナンノ コトデ ショウ カ」
その様子にやれやれ……といった風も見せず、冷静に続ける正。
「ほとんど治ってるはずだぞ」
再び、真っ白にクリアーされた佑の思考であった。


正の見立ては正しかった。
性格と国語力に問題はあるが、それは科学の実力には関係ない、ということでもあった。
ちょうど同じ時刻、治が検査入院していた病院では、治の主治医が不審かつ不満げな表情で治のカルテを見つつ
「治くんの容体なのですが、大体において健康体と言ってよいでしょう」
と彼の両親に告げていたのだ。

主治医が不満げなのはともかく、不審がって首を傾げていたのは容体が好転したことだけが原因ではない。
実のところ全快に近いものがあってそれを怪しんでいたのは勿論のことだ。
それに加えて、その検査結果と目の前にいる治の顔色が釣り合っていなかったからである。
ご承知の通り、治は先日の事件が気にかかっていて顔色がすぐれなかった、ということなのだが主治医はそんなことは知らない。

全快通知に治の両親・叔母夫婦が涙を流して大喜びしたのはいうまでもない。
あまりに騒いだので、看護師にたしなめられたくらいである。
そして治の父・北条知義は
(なんとしても、佑さんにお礼を!)
と決意を新たにしていたのである……性懲りもなく。
それを佑は知らないが、知らない方がいいかもしれない。

なお、正とくだんの主治医の間にはいかなる意味の交流もない、念のため。


何はともあれ、佑の心境は複雑だった。
肩の荷が盛大に下りてほっと安心する反面、お役御免なのはなんとなく寂しいのである。
しかしよく考えたら、その肩の荷は自分が勝手に背負ったものであるし、実際の所『お役御免』になどなっていないのだ。
なんといっても、彼は治との『交際』を承諾してしまっていたのだから。
だが、由香のことで絶賛懊悩中だった真っ最中の交際宣言だったので、実質、心に浸みていないのであった。
もう少し早く言ってもらっていたなら治と恋人になるのを承諾したかどうかわからない。
そういった踏ん切りがついたのは「可愛い後輩を助けてやりたい」という思いのおかげであるから。
しかしながら、一度承諾してしまったものはどうしようもない。
それに、少なくとも異性の恋人の一人である留美は納得してくれているのだから、それほど思い悩むこともない筈なのだ。
なんといっても治は可愛い後輩なのである。
一度交わってしまったこともあるかも知れないが、彼とまたそのような行為をすることを思い描いても別に嫌悪は感じない。
馴れとは恐ろしいものである。
いや、そういう事はさておき、そんなわけで、佑はなんとか由香との仲直りを前向きに考えようとしたのだが、怒っている由香に接触するのもためらわれた。
それに、今は留美もいない。
彼は、留美が由香との仲裁を考えて、ひと肌脱ごうと思ったことなど知らない。
落ち込んだ彼とは対照的に、こうと決めたら即座に行動を起こし、由香の居場所を探索しだしたのなど、知る由もなかったのである。
致し方なしに、
(教室へ戻ろう……)
と、教室へ向かって、とぼとぼ歩く佑だった。

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