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らぶ・TEA・ぱーてぃー その六
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「ねえねえみんな? そろそろ食べましょ?」
御世がにこにこと微笑む。
ケーキは、美しい断面を見せて一同に「おいでおいで」をしている。
いくら美しいとは言っても、スイーツは食べてなんぼ、なのだから。
しかも、ショーウインドウのガラスに遮られておらず、自分に差し出されているのだから大威張りだ。
誰に対して威張るのかはともかくとして。
一同はごくっ、と生唾を飲んでしまった。
美久は生唾を飲み込んでいないが、まさか『食べない』という選択はないだろう。
留美は
「いっただきまぁす」
と可愛くいい、そしてやってきたのは、正に『美味の新体験』であった。
舌の先でとろけるクリームの甘さ、そして噛みしめるとカリッとクリスプな味わい。
フルーツの香りとバニラの匂いが混然一体となって、留美を魅了した。
一口食べるごとに美久の腕がうかがえる新鮮体験だ。
通常こんなことはほぼあり得ない。 これだけのボリューム(径15~18 高さ15のケーキを切分けたのを想像してほしい)だと半分も食べると飽きるものだ。 飽きない人は糖尿病にご注意。
余談はさておき、これは計算されたいくつかの層とその材料のなせるわざである……が、これはそういうことを目的とした話ではないのでそろそろ割愛……
しようと思ったが、もう少し続けると……
色々な要素がバラバラになっているけどもバラバラになっていない、そんな相反する事が実現していた。 お互いの甘さを引き立てつつ、自己主張も忘れない。 クリームとスポンジ、フルーツとゼリー、ナッツとケーキ……それぞれが相手を引き立てつつも、自分をわすれていないのだ。
そこには、留美には未体験の言い尽くせぬ陶酔境があった。
もっとも、佑もこんなに美味しいのは初めてである。 御世も縁も同様であった。
ひょっとしたら、美久自身も初めてだったかもしれない。
だが、彼女は自分が味わうより、留美が幸せそうにケーキを頬張る姿をみてうれしそうにニコニコしていた。
そして、佑と目が合い、瞬間、ぽっと赤くなると
「初めまして」
と挨拶した。
佑は一瞬、なにを言われたのか判らなくなるほど見惚れてしまっていたが、慌てて居住まいを正し
「あ、ど、どうも初めまして。 育嶋佑と申します」
とおじぎすると、美久はさっきとは打ってかわった様子になり、ゆっくりながらもハキハキと聞き取りやすい速度で
「どうも、聖美久です。 よろしくね。 あ、そんなにかしこまらなくていいから。 御世ちゃんはお嬢様だけど、あたしなんか、ほら、バリバリの庶民だから。 ね?」
頬を赤らめてつつも、その対応の柔らかさは母性を感じさせた。 そして、今度こそ本当に佑は和んでしまった。
普通は、ドレスと渾然一体となった美しさということになる美久の麗しさ……しかし、ドレスよりも、そう、おそらくその人格から来る美久の魅力は姿形だけにとどまらなかった。
男女各々100人を越える隠れファンがいるというのも頷けるが、佑はもとより美久自身もそのファンの存在を知らない。
珍しく佑が積極性を出して
「あの……」
と言い出そうとすると美久は微笑みつつ
「はい?」
と促した。
「さっきのデコレーション、凄かったです、感動しました!」
美久は、ほほを染めてうつむき、恥ずかしげに小さくこう言った。
「おそまつさまでした」
「じょ」
冗談じゃない、と佑ならずとも誰もが思うだろう。 社交辞令にしても行きすぎだがらである。
パティシエも舌を巻くお手並みがお粗末だったら、パティシエ学校の立場はなんだというのだ?
そんな想いが交錯し、佑は絶句してそれ以上言葉を継げない。
佑の思いを知らぬげに(実際知らない)留美はお姉さまと歓談中だ。
「お姉さま! すっごくおいしいです!」
「そうでしょお? 最高でしょ」
御世の声も裏返りかけ、縁は彼女の袖を引っ張らんばかりだ。
佑は佑で、口に含んだとたん、ケーキのおいしさに目を開いていた。
(母さんの作ったのより美味しい!)
これは希有なことで、驚天動地といってよかった。 まさに美味の宝石箱であった。
しかし、カロリーはかなり高いに違いない。
にもかかわらず、女性軍は興奮気味に口に入れ、陶然と堪能している。
それを見た美久は満足げだ。
彼女には、人が自分の料理を食べて喜んでくれるのがかなり嬉しいのである、ほとんど最高に。
ここに及んで、『ティーパーティ』というより『ケーキパーティ』と化したそれは、やはり美久の腕と凝り性のせいと言えるだろう。
御世と縁もここまで気を入れたスイーツが来るとは思っていなかった。
口中で無意識に比べられて、最高級の紅茶が形無しである。
そして、間違いなく今、留美はきゃいきゃいといつもよりもはしゃいでいた。
3人のきれいなお姉さんと一緒なので、きれい好き(意味が違う)の留美は楽しんでるんだなと思っていた。
そして、留美は急に
「美久お姉さまってパティシエールなんですよね?」
と尋ねた。
「い、いやあのあたしはパティシエールじゃなくて、もちろんパティシエでもなくて、あの衣装はちょっとした茶目っ気っていうか、御世ちゃんの大事なお客さまに対する礼儀っていうか、演出効果を狙ったっていうか」
言い訳をまくし立てる美久だが、そんなことにとらわれないのが留美である。 にこにこ微笑みながら聴いていた。
「そのあのあたし、こんな事くらいしか取り柄なくって」
再び、冗談じゃない、と誰もが思ったが
「そ、それより」
の言葉に皆は沈黙せざるを得なかった。
どもり、柔らかながらも、有無を言わせぬ感じだったのである。
「あ、あたし、御世ちゃんにこんな可愛らしいお友達がいるなんて知らなかったな」
「えへへ、そうでしょ?」
御世が得意そうに反り返る。
(そこ、あんたが威張るとこじゃないでしょ!)
縁は、そう口に出すのを危うくこらえた。
「あ、あたし、そ、そのなんていうか……」
ものすごく珍しいことに留美は照れていた。
照れている時の留美の仕草は大体において『えへぺろ』というやつで、佑もここまでの反応は一度として見たことがないくらいだ。 もじもじとして消え入りたい様子になっているのである。
そしてなんとか
「こ、光栄です、お姉さま……」
さてこれは、御世に向かって言ったのか、美久に向かって言ったのか……いや両方かもしれない。
佑が見るところ、御世も美久も留美のことをかなり気に入っているようであった。
縁は二人ほどではなかったが、少なくとも嫌われている風ではない。
ただ、なんとなくハラハラしているようだったのだ。
つまり『心ここにあらずという状態の縁さん』だったのである。
御世がにこにこと微笑む。
ケーキは、美しい断面を見せて一同に「おいでおいで」をしている。
いくら美しいとは言っても、スイーツは食べてなんぼ、なのだから。
しかも、ショーウインドウのガラスに遮られておらず、自分に差し出されているのだから大威張りだ。
誰に対して威張るのかはともかくとして。
一同はごくっ、と生唾を飲んでしまった。
美久は生唾を飲み込んでいないが、まさか『食べない』という選択はないだろう。
留美は
「いっただきまぁす」
と可愛くいい、そしてやってきたのは、正に『美味の新体験』であった。
舌の先でとろけるクリームの甘さ、そして噛みしめるとカリッとクリスプな味わい。
フルーツの香りとバニラの匂いが混然一体となって、留美を魅了した。
一口食べるごとに美久の腕がうかがえる新鮮体験だ。
通常こんなことはほぼあり得ない。 これだけのボリューム(径15~18 高さ15のケーキを切分けたのを想像してほしい)だと半分も食べると飽きるものだ。 飽きない人は糖尿病にご注意。
余談はさておき、これは計算されたいくつかの層とその材料のなせるわざである……が、これはそういうことを目的とした話ではないのでそろそろ割愛……
しようと思ったが、もう少し続けると……
色々な要素がバラバラになっているけどもバラバラになっていない、そんな相反する事が実現していた。 お互いの甘さを引き立てつつ、自己主張も忘れない。 クリームとスポンジ、フルーツとゼリー、ナッツとケーキ……それぞれが相手を引き立てつつも、自分をわすれていないのだ。
そこには、留美には未体験の言い尽くせぬ陶酔境があった。
もっとも、佑もこんなに美味しいのは初めてである。 御世も縁も同様であった。
ひょっとしたら、美久自身も初めてだったかもしれない。
だが、彼女は自分が味わうより、留美が幸せそうにケーキを頬張る姿をみてうれしそうにニコニコしていた。
そして、佑と目が合い、瞬間、ぽっと赤くなると
「初めまして」
と挨拶した。
佑は一瞬、なにを言われたのか判らなくなるほど見惚れてしまっていたが、慌てて居住まいを正し
「あ、ど、どうも初めまして。 育嶋佑と申します」
とおじぎすると、美久はさっきとは打ってかわった様子になり、ゆっくりながらもハキハキと聞き取りやすい速度で
「どうも、聖美久です。 よろしくね。 あ、そんなにかしこまらなくていいから。 御世ちゃんはお嬢様だけど、あたしなんか、ほら、バリバリの庶民だから。 ね?」
頬を赤らめてつつも、その対応の柔らかさは母性を感じさせた。 そして、今度こそ本当に佑は和んでしまった。
普通は、ドレスと渾然一体となった美しさということになる美久の麗しさ……しかし、ドレスよりも、そう、おそらくその人格から来る美久の魅力は姿形だけにとどまらなかった。
男女各々100人を越える隠れファンがいるというのも頷けるが、佑はもとより美久自身もそのファンの存在を知らない。
珍しく佑が積極性を出して
「あの……」
と言い出そうとすると美久は微笑みつつ
「はい?」
と促した。
「さっきのデコレーション、凄かったです、感動しました!」
美久は、ほほを染めてうつむき、恥ずかしげに小さくこう言った。
「おそまつさまでした」
「じょ」
冗談じゃない、と佑ならずとも誰もが思うだろう。 社交辞令にしても行きすぎだがらである。
パティシエも舌を巻くお手並みがお粗末だったら、パティシエ学校の立場はなんだというのだ?
そんな想いが交錯し、佑は絶句してそれ以上言葉を継げない。
佑の思いを知らぬげに(実際知らない)留美はお姉さまと歓談中だ。
「お姉さま! すっごくおいしいです!」
「そうでしょお? 最高でしょ」
御世の声も裏返りかけ、縁は彼女の袖を引っ張らんばかりだ。
佑は佑で、口に含んだとたん、ケーキのおいしさに目を開いていた。
(母さんの作ったのより美味しい!)
これは希有なことで、驚天動地といってよかった。 まさに美味の宝石箱であった。
しかし、カロリーはかなり高いに違いない。
にもかかわらず、女性軍は興奮気味に口に入れ、陶然と堪能している。
それを見た美久は満足げだ。
彼女には、人が自分の料理を食べて喜んでくれるのがかなり嬉しいのである、ほとんど最高に。
ここに及んで、『ティーパーティ』というより『ケーキパーティ』と化したそれは、やはり美久の腕と凝り性のせいと言えるだろう。
御世と縁もここまで気を入れたスイーツが来るとは思っていなかった。
口中で無意識に比べられて、最高級の紅茶が形無しである。
そして、間違いなく今、留美はきゃいきゃいといつもよりもはしゃいでいた。
3人のきれいなお姉さんと一緒なので、きれい好き(意味が違う)の留美は楽しんでるんだなと思っていた。
そして、留美は急に
「美久お姉さまってパティシエールなんですよね?」
と尋ねた。
「い、いやあのあたしはパティシエールじゃなくて、もちろんパティシエでもなくて、あの衣装はちょっとした茶目っ気っていうか、御世ちゃんの大事なお客さまに対する礼儀っていうか、演出効果を狙ったっていうか」
言い訳をまくし立てる美久だが、そんなことにとらわれないのが留美である。 にこにこ微笑みながら聴いていた。
「そのあのあたし、こんな事くらいしか取り柄なくって」
再び、冗談じゃない、と誰もが思ったが
「そ、それより」
の言葉に皆は沈黙せざるを得なかった。
どもり、柔らかながらも、有無を言わせぬ感じだったのである。
「あ、あたし、御世ちゃんにこんな可愛らしいお友達がいるなんて知らなかったな」
「えへへ、そうでしょ?」
御世が得意そうに反り返る。
(そこ、あんたが威張るとこじゃないでしょ!)
縁は、そう口に出すのを危うくこらえた。
「あ、あたし、そ、そのなんていうか……」
ものすごく珍しいことに留美は照れていた。
照れている時の留美の仕草は大体において『えへぺろ』というやつで、佑もここまでの反応は一度として見たことがないくらいだ。 もじもじとして消え入りたい様子になっているのである。
そしてなんとか
「こ、光栄です、お姉さま……」
さてこれは、御世に向かって言ったのか、美久に向かって言ったのか……いや両方かもしれない。
佑が見るところ、御世も美久も留美のことをかなり気に入っているようであった。
縁は二人ほどではなかったが、少なくとも嫌われている風ではない。
ただ、なんとなくハラハラしているようだったのだ。
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