『真・らぶ・TRY・あんぐる』

倉智せーぢ

文字の大きさ
25 / 52

真・らぶ・TRY・あんぐる 二十三

しおりを挟む

次の日、留美は佑を訪ねて彼の所属するA組の教室にやってきた。
あいにく、佑は留守だった。
昨日、なんとか採取した留美の髪の毛を届けに、S・Cの部室に行っていたのである。
そのため、ちょっとした事件が持ち上がっていたのを彼は知らなかった。

「育嶋は留守です」
と聞いた留美の表情が少し曇ったのを見てとったA組の委員長は、意を決して彼女に声をかけた。
「み、水瀬さん!」
「なにかしら?」
由香が見たらつい吹き出すくらいに婉然と振り向く留美。
「どうして……育嶋なんかとつき合ってるんですか!?」
「どうしてですって? ……あなたこの教室にいたんでしょう? あたしが佑クンに告白したときに……」
もちろんそうである。
だが委員長はあきらめが悪かった。
「脅されてるんなら……」
留美は柳眉を逆立てて抗議した。
「そんなこと! 佑クンに出来るとお思いなの?」
確かに出来そうにない。
「あ、あんなやつ……育嶋なんて水瀬さんにふさわしくない!」
「あら」
留美はくすっ、と微笑み
「それを決めるのは、あなたじゃないのじゃないかしら?」
そう言ってポーズをつけるように横を向いた。
「あたし自身が決めることよ。 そう思わなくって?」
きっぱりとそう断られ、委員長は下を向いてブルブル肩を震わせていた。
そのとき、佑にとっては折悪しく留美にとっては折り良く、育嶋佑その人が教室に戻ってきた。
「あっ、佑クーン!」
今の佑への抱きつかんばかりの態度と、さっき断ったときの態度の無茶苦茶なまでのギャップに委員長は顎を外しかけた。
だが、その態度の違いが自分と恋敵との差だと悟り、それっきり、留美にちょっかいを出すのを完全にあきらめた。
――というか、あきらめざるをえなかった。

が、いくらなんでも許せない!と憤るようなことを佑は始めだした。

正確には、佑は飽くまでも受け身で、留美が始めたのである。
それはいったい何事かといえば、『彼の膝に横座り』を毎休み時間の習慣にしだしたことだった。
この場合の『彼』とは『育嶋佑』であり、決して『委員長』ではないことは言うまでもない。
「んしょっと」
「ちょ……留美ちゃん何を」
「ん? 佑クンの膝に座ってるの」
その屈託の無さに、佑は頭を抱えたい気分だった。
もちろんそうはできなかったことは言うまでもないだろう。

ちなみに、留美の言葉によると
「だってこうでもしないとみんな信じてくれないから。 あたしが佑クンを好きだってことを」
(それに……佑クンのお母さまに、それにママにも許可もらったし、これなら佑クンも気絶しないモンね……慣れてくれるだろうし)
とそれは心の中で言って
「佑クン……大好き!」
そう言いながら佑の首に抱きついていく。

それが何日か続き、生徒の苦情に流石に担任教師も注意してきた。
「水瀬、そういうことは控えなさい」
「先生、他人ひとに迷惑をかけてるわけじゃないんですから、別にかまわないでしょう?」
『かまうわいっ!』と周囲は言いだしそうだったが、教師は立場上そんなことは言わない。
「男女交際は健全にな」
そう言って、職員室へと戻っていったのだった。

だから、要するに佑の罪ではないのである。
だがしかし、こう言う場合、ワリをくうのは男なのだ。 特に、佑の場合はそうなのだった。
それに、それを拒否しない、というところで責任があるのだ、と理屈っぽいクラスメートは言いかねなかった。


今までの留美の積極的な行動に対し、由香は別に黙って見守っていたわけではない。
当事者でないというきらいはあるにせよ、かなりの関連があるのだから当然かもしれない。
「留美」
「ん? 何、ユカちゃん?」
「今日も佑くんと?」
「うん、今日はパパも早く帰ってくる筈だから、紹介しようと思って」
「あのねえ留美……」
精神的に頭痛を感じ、眉をしかめた由香は言葉をついだ。
「いくらなんでも気が早いんじゃないの? それにね」
「それに?」
あどけなく微笑んで聞き返す留美。
「休み時間のたびに、佑くんのクラスに押しかけて、こともあろうに教室で彼の膝に座るのはちょっといきすぎとは思わないの?」
ちょっといきすぎ、どころではない。 かなり常軌を逸している。
「だって、ああでもしないとあたしが佑クンのこと好きだって誰も信じてくれないんだモン」
拗ねたように横を向いた留美をあおぐように手を振った由香。
「周りは放っておきなさいよ。 佑くん本人に知ってもらえばかまわないでしょう?」
「だって」
「『だって』何?」
「佑クンがなかなか積極的になってくれないから、外堀から埋めようと思って」
普通の女の子が言う台詞ではない。 やはり留美は自衛官の娘であった。
しかし、それを差し引いて考えても、常軌を逸している発想である。
「あまり積極的にしすぎるから、佑くんもかえって手を出しにくいんでしょ、きっと」
由香も佑の消極的な性格を呑みこんでいなかった。
『媚薬』のことがなくても自分の恋心を自覚してから何日もムダにしているのだ。
もっとも由香はそんなことは知らない。
「留美もセマるばっかりじゃだめなのよ。 ほら、よく言うでしょ。 『押して駄目なら…』」
「『押し倒せ』だっけ?」
「そうそう……って違うっ!」
ついつい自分の額に手をやる由香。
「『引いてみろ』だってば」
「ふうん。 気を引くのね」
「そう、気を……そうじゃない!」
留美の言葉に頭を抱えんばかりの由香。
冗談か本気かまるでわからない留美の発言に彼女はどうしていいか分からなかった。
もっとも、この状況でどうしていいか分かる、と言い切れるのは天才か大嘘つきかのどちらかだろう。
ちょっと何かを考えていた留美は
「わかった。 今日はやめとく」
とおとなしく引き下がり
「ユカちゃんの言う通りにする」
そういってにこっと笑った。
その笑みを目にした由香はなんとなくドキッとした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

処理中です...