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真・らぶ・TRY・あんぐる 三十九
しおりを挟む佑が留美にセクハラ(笑)をされているちょうどその時、佑美は留加の屋台に行き着いていた。
「留加さん」
背後から自分の名を呼ばれ、振り向きもせずに応える。
「何だい、あたしに何か用かい?」
「あたくしよ。 忘れられてしまったかしら?」
「誰だい『あたくし』って」
そう言いながら振り向いて、訪ねてきた相手を見たとき、留加は息が止まったかと思った。
「せ、先輩」
そこには、憧れの先輩・佑美の姿があった。
昔のまま、いやもっと美しくなり、うふん、と婉然として微笑んでいる。
留加の目には、まるで後光がさしているかのように映ったのである。
「ご、ご無沙汰しています……」
「それはお互い様でしてよ。 今日うかがったのはね」
緊張に身を固くする留加。
学生時代から憧れてやまない人が手を伸ばせばとどく距離にいるのだ。 当然と言えば当然かもしれない。
もっとも、学生時代はかなり近くにいたが、今はなおも想いが募り、おかげで気おくれしてしまう留加であった。
「留美ちゃんのことでお話があるのよ」
「る、留美が何か粗相を致しましたか?」
すっかり言葉づかいが変わっている。
佑美はかぶりを振って
「あんないい子、あたくし今まで見た事がなくってよ? それに」
目を伏せ、一拍おいて今度は留加に流し目を送りつつ続ける。
「留美ちゃんのこと、なんか懐かしいって感じがしてましたけど、あなたの娘だとまでは気づかなくて……我ながら不覚でしてよ」
「先輩、あたしの覚えていて下さったなんて……」
「当たり前でしょう? あたくし、そんなに記憶力が衰えるような年齢じゃなくってよ?」
微笑みながらいたずらっぽく告げる佑美に留加は慌てて、
「え、いえ、そういう意味じゃなくって」
「でも、これで二人が結婚したら、あたくしたち親戚よね?」
「親戚だなんて、そんな先輩……」
「あら、お嫌?」
「いえ……そんな……夢みたい」
「悪夢って意味かしら?」
「……そ…………そんな先輩!」
「ジョークよ、ジョーク。 そんなに泣きそうな顔なさらないで?」
くすくす笑いながら慈愛を込めて続ける。
「本当にあなたってかわいい……とっても揶揄い甲斐があって」
とんでもない発言で、留加も佑美以外が言ったのだったら、その相手をひっぱたいていただろう。
「先輩……」
「さっきから先輩ばっかりね?」
佑美は軽く首を傾げて
「もしかしてあたくしの名前、忘れられてしまったかしら?」
と尋ねた。
「い、いいえ! 冴島佑美先輩」
「『先輩』は、もういらなくてよ? それに旧姓も。 あたくしたち、卒業したり、結婚してからもう随分経つでしょう?」
「は、はい」
「素直で可愛いわねあなたって」
何かを思い出したように
「留加さん? ちゃんと覚えていてよ?」
そう口にする。
「え? はい? 何を?」
「あなたからいただいた、とても愛らしいお手紙のこと」
留加は本当に心臓が止まるかと思った。
「ゆ……佑美さん……それって」
「あなたの気持ち、とっても嬉しかった」
目を伏せ、感慨深そうにそう告げる。
「その気持ちに応えて差しあげたかったけど、あなたってばそれ以来、あたくしを避けてるみたいなんだもの、淋しかったわ」
「いや……その……そういう訳じゃ」
無論のこと、留加にとってそういう手紙を出してしまったのが当時は恥ずかしかったのである。 いや、今現在も継続している模様だ。
「そうこうするうちに今の主人にプロポーズされて今に至るわけだけど。 でも、決してあなたのことを忘れたわけじゃなくってよ? あたくしたち、仲良くできるわよね?」
「は、はい!」
「学生時代以上に?」
「も、もちろんです!」
「よかった!」
佑美に両手を握られ、嬉しさのあまり舞い上がりそうな留加。 だが続けて
「それじゃあ恒太郎くんとも仲直りしてね」
という注文を聞かされ、完全に目が点になった。
「………………………………………………………………は? はいぃ?」
あらためていうが、恒太郎とは留美の父親の名前である。
つまり、要するに、端的に言って、留加のつれあい(だった(過去形)……と留加自身は思っている)の陸上自衛隊幕僚長のことであった。
佑美は、事態を引っ掻きまわすのが趣味のようなところがある。
本人に言わせれば、
「ちょっとばかりおせっかいなだけでしてよ? うふ」
だそうだが。
ここの所は佑の意見としては
「その『うふ』が怖い……」
ということになる。
だが、厄介なことに、その『うふ』に佑の父・英介は惚れたらしい。
そういうわけだから、佑は悪い星の下に生まれてしまった、としか言いようがないのであった。
あまつさえ、佑の妹の冴英は、また見事に佑美の血をもろに受け継いだ、と言っていいほど、英介や佑に似ていなかった。
まるっきり似ていないと言えば語弊があるが、佑美の方によりよく似ているというのは事実なのである。
だから、佑がとんでもない目に遭うのは何の不思議もない、と言える。
だが今の場合、佑の受難に言及していても仕方がない。
いいほど言及している気もするのだが、そこはご了承の程を。
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