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第1章:魔法学院入学編

第4話:最強賢者は悩まされる

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 俺は14歳11か月になった。あと1か月すれば成人となる歳だ。
 あれから平穏な月日が流れ、すくすくと俺と姉、それに弟は成長していった。

 俺もレベルがずいぶんと上がったと思う。
 ステータスウィンドウがないので確かめることはできないが、剣術では父さんと良い勝負ができるまでになり、魔法に関してはかなり上達した。

「僕は兄さんが跡継ぎだなんて認めない!」

 12歳になった弟のグレンは、最近になってこのようなことを言うようになっていた。
 庭先で言わなくてもいいのに。

「兄さんは所詮『賢者』なんだよ。家を守るのは一番強い人がなるべきだ!」

 あの可愛かった弟がこうなってしまうとは……月日というものは残酷なものだな。
 それにしても、俺は家を継ぐとも継がないとも言っていないのだがこう迫られては困ってしまう。
 原因は多分父さんだろうなとは思うのだが。

「家っていうのは長男が継ぐものなんだよ、グレン。……それに、ユーヤは『賢者』であっても決して弱くない。俺が認めた男だ」

 剣術の稽古にやってきたレイジスがグレンに説明する。
 ――いつも通りの流れだ。

「僕は……僕は『狂戦士』なんだ! 『賢者』に負けるわけない! 兄さん、勝負してよ」

「はあ、わかったよ」

 まったくいつもと同じ流れである。
 グレンが力いっぱい剣を振ってくるので、俺は身体能力だけでかわし、剣で撃ち合い、最後には背後を取る。これで俺の勝ちだ。

「これで満足か?」

「くそ……! くそっ! ……僕だって二年早く生まれていれさえすれば!」

 グレンは悔しそうに吐き捨てた。
 心中で突っ込ませてもらうと、今のグレンでは二年前の俺にも勝てなかったように思う。
 グレンが言い訳を連呼しながら去っていくのを確認すると、レイジスが横に座るよう促す。
 俺はレイジスの隣に座った。

「すまんな。……どうやらグレンはコンプレックスを持っているようなんだ。『賢者』は弱いと信じ切っている。……まあ、ユーヤが規格外なだけなんだが、気に入らないらしいな」

 まあ、一般的に弱いとされている賢者に手も足も出ないとなればこうなるのもわからないではない。

「けど、なんでグレンは家を継ぎたいんだろう。父さんは何か知ってる?」

「ユーヤに対するコンプレックスがそうしてるんだろう。ちょっと前まで長男だからユーヤが家を継ぐのは仕方ないとアイツも言ってたんだ。……だが、ユーヤに力で及ばないことがわかると腐ってしまった」

 グレンは家を継ぎたかった。でも、長男は俺だから自分がなれないのは仕方ないと思った。でも、自分が継げないのは次男だからじゃなく、弱い職業であるのはずの『賢者』よりも弱いから。
 そう思ったグレンは躍起になって反抗しているということか。
 おそらくは思春期特有の反抗期というやつだろうが、難しい問題だな。

「父さんは俺に家を継いでほしいと思ってるってこと?」

「俺は正直言って、ユーヤでもグレンでもどっちでもいいんだ。二人とも家が好きなのはわかっているし、任せられる。だが、ユーヤは長男で、職業には恵まれなかったが実力は本物だ。俺としてはお前を差し置いてグレンに任せることはできない」

「……わかった。ありがとう」

 つまり、レイジスは俺に遠慮しているということだ。俺が家を継ぎたいと思っていると勘違いしている。確かに俺はこの家が好きだ。けれど、一生この地に縛られるのも御免こうむりたい。
 俺はこのLLOとそっくりなこの世界のことをもっと知りたいのだ。

 そんな思いを胸にしまい、今日もレイジスとの剣術の稽古に精を出した。

 ☆

 稽古が終わると、外が騒がしくなっていた。

「出たぞおおおおおお! 魔物が! ブラックベアーが出たぞ!」

 夕食の時間なので、剣術の稽古を終えて庭から家に戻ろうとしていた俺とレイジスは足を止めた。
 レイジスが大急ぎで庭を離れ、家の前で騒いでいる連中の一人を捕まえる。
 俺もレイジスについていった。

「どういうことだ! 詳しく教えてくれ!」

 騒いでいるのは銀色の装備に身を包んだ男だった。
 見た目で判断するに、どうやら衛兵のうちの一人らしい。衛兵が騒いでいるという事は……あまり状況は良くないと判断する。

「レイジスさん! 実は……町の門の前までブラックベアーが迫ってきていまして……衛兵を集めているのですがかなり苦戦しています。ですので、住民を直ちに安全なところに避難させようと大急ぎで動いています!」

「場所は門なんだな!?」

 レイジスは興奮しているのか、かなりの大声で聞き返した。

「はい、門です!」

「よし、今すぐ態勢を整えて俺とユーヤで向かう。衛兵にはそれまで何としても持ちこたえるように伝えろ!」

「は、はい! ありがとうございます!」

 男が駆けて行ったことを確認するとレイジスは俺に頭を下げた。

「ユーヤ、勝手に名前を出してすまなかったな。……お前の力を貸してほしい」

 ……そんなこと気にしてたのか。

「いや、俺だってこの町を大切に思ってる。来るなと言われても行く気だったよ」

「そうか、それは心強い。頼むぞ」

「うん」

 短いやりとりを終えると、すぐに踵を返し、家に装備を取りに行く。
 そのついでに母のサーシャと姉のセリカ、弟のグレンに避難するよう指示を出す。

 ガサッガサッ。

 背後で、何か人影がいたような気配がした。
 反射的に後ろを振り返るが、――人はいなかった。
 ……気のせいか? まあ、そんなことより急がないと。

 剣を用意し、防具に着替えるとすぐに家族を集めた。
 サーシャとセリカは既にリビングに集まっていた。
 だが、弟のグレンの姿だけが見えない。

「グレンはどこに行った!?」

 血相を変えてサーシャに尋ねるレイジス。

「それが、さっき急いで外に出て行って……」

「なんだと!?」

 急いで外に出て行った人影……あれがグレンなのだとしたら。
 衛兵が集まってもどうにかできないような敵に向かっていったのだとしたら。
 グレンの命が危ない。

「父さん! いますぐ向かおう!」

「そ、そうだな! サーシャとセリカは避難所に行ってくれ! 俺たちは必ず魔物を倒して戻ってくる!」

 俺たちは大急ぎで門に向かって走った。
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