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第2章:第二学院創設編
第15話:最強賢者は素振りをさせる
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俺の指示した素振り千回をいう言葉に、四人の顔が引きつった。
「どうした? たった千回だぞ?」
その辺の壁を削って固めた剣を千回振るだけ。なにも一万回やれとか十万回やれと言っているわけではないのだ。ウォーミングアップは大切だからな。
あ、そうか! まだ肝心なことを言ってなかったな。やれやれ、俺も詰めが甘い。
「ああっ! すまんすまん、素振りの前にまずは準備運動からだよな。ほら、今からやるぞ」
「そ、そういうことじゃなくてっ!」
「うん? どうしたリーナ、そんなに焦って」
「手始めに素振り千回って……ちょっと厳しすぎない!?」
「私も同感だな。ユーヤ、それはちょっとやりすぎだと思う」
エリスまでそんなことを言う。
「俺が七歳かそのくらいの時は父さんの指示で毎日素振り一万回やっていたものだが、そんなに厳しいのか?」
父さんは剣を使うにしろ、魔法を使うにしろ、体力は大切だと言っていた。
実際に毎日素振りを続けた俺はその指導が正しかったのだと理解している。毎日続けることで筋力はもちろん、精神力を育むことができる。
それ以外にも、剣を振っている間に理想の剣筋が見えてきたり、魔力操作の最適なやり方さえわかってくる。十五歳になる頃には、世界の理すらも理解できそうなところまできた。
毎日一万回の素振りに比べれば、千回なんてどうということはない。本当にちょっとしたウォーミングアップのつもりだったのだが。
「普通素振りは百回くらいなんですっ! 千回なんて、終わったらクタクタになって動けなくなるわよ! ユーヤが異常なだけ!」
「お、俺が異常だと……!」
まさかこんなことを言われるとは思わなかった。
だが、確かに素振り一万回ってのは多いよなぁ。これが異世界の常識だと思っていたからすんなり受け入れることができたけど、そうじゃないなら無茶ぶりに感じてしまうのかもしれない。
剣士レイジス――父さんの常識も結構おかしかったらしい。
「はぁ、なら今日のメニューは変更にしておくか」
四人の間に安堵の息が漏れた。
「じゃあ素振り一万回ということにしよう! まずは慣れることから始めないとな!」
「やっぱりおかしいわよ!」
リーナのツッコミに無視を決め込み、四人に土剣を渡す。
剣を渡されると四人は『はぁ』と溜息をつくと、諦めて素振りを開始した。
◇
四人が素振りを開始して一時間が経った。
全員汗だくで、苦しそうに喘ぎながら素振りを続けている。
速度は遅いが、これならなんとか今日中に一万回のノルマを終えられるだろう。
俺も四人に交じって素振りをしていた。
一時間ほどで素振りは一万回を超えている。一万回くらいではまったくしんどくない。世界の理を見つけ出すにはまだ年単位の時間がかかりそうだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……はあぁっ!」
エリスは剣士ということで素振りには慣れているのだろう。現時点の回数は千回といったところだが、まだ余裕を残している。
それに対して、リーナとレム、アミは本当に苦しそうだ。
リーナはまだペースを一定に保てているものの、レムとアミの二人はペースも落ちている。
……なんで苦しみながらやってるんだろう?
「も、もう限界です……っ!」
レムはその言葉を最後に素振りを辞め、地面に寝転がった。
ひんやりとした地面で身体を涼めるには良い頃合いだ。
俺は素振りを一旦辞め、レムのもとに向かった。
「レム、よく頑張ったな。水を飲んでおけ」
【水創造】で水を創造し、レムの口にゆっくりと流し込んでやる。
レムは水を飲み干すと、
「あ、ありがとうございます。……で、でもその……怒らないんですか?」
「何をだ?」
俺がどうして怒る必要があったのだろう。思い当たることが一つもない。
今日レムと会ってからやったことと言えば、ダンジョンに来て素振りをやらせたことくらいだ。
レムの素振り回数はおよそ七百回ほど。ここでギブアップして、水分補給をしている。
これのどこに怒る要素があるんだ?
「だって、一万回できずにギブアップしちゃいましたし……」
「ああ、そんなことを気にしてたのか」
「え!? できなくていいんですか?」
「いや、今日中に一万回やらせるつもりだよ」
「じゃあ……どうして」
「俺は一度も休憩を挟むなとは言ってないはずなんだがな」
俺は連続で一万回やれとは言っていない。今日初めて一万回素振りにチャレンジする者にできるはずがないからな。俺はできないことはやらせない。できないことをやらせる指導者は馬鹿だと知っているのだ。
「え、じゃあ休憩をしてもいいんですか!?」
「もちろんだ。ただし今日中に一万回やってもらうがな」
「な、なぁんだ……」
レムはぐったりと肩を落とした。
「私も休憩します……」
ふむ、アミも休憩するのか。ほら、水だ。
「私ももう限界……」
なんだ、リーナもか。
「私もちょっと休憩を……水を頼む」
あれれ? なんか急にみんな休憩に入ったなぁ。
まあ今のペースなら一万回達成できそうだしいいんだが。
ついでに俺も休憩しておこうか。疲れてないけど。
「どうした? たった千回だぞ?」
その辺の壁を削って固めた剣を千回振るだけ。なにも一万回やれとか十万回やれと言っているわけではないのだ。ウォーミングアップは大切だからな。
あ、そうか! まだ肝心なことを言ってなかったな。やれやれ、俺も詰めが甘い。
「ああっ! すまんすまん、素振りの前にまずは準備運動からだよな。ほら、今からやるぞ」
「そ、そういうことじゃなくてっ!」
「うん? どうしたリーナ、そんなに焦って」
「手始めに素振り千回って……ちょっと厳しすぎない!?」
「私も同感だな。ユーヤ、それはちょっとやりすぎだと思う」
エリスまでそんなことを言う。
「俺が七歳かそのくらいの時は父さんの指示で毎日素振り一万回やっていたものだが、そんなに厳しいのか?」
父さんは剣を使うにしろ、魔法を使うにしろ、体力は大切だと言っていた。
実際に毎日素振りを続けた俺はその指導が正しかったのだと理解している。毎日続けることで筋力はもちろん、精神力を育むことができる。
それ以外にも、剣を振っている間に理想の剣筋が見えてきたり、魔力操作の最適なやり方さえわかってくる。十五歳になる頃には、世界の理すらも理解できそうなところまできた。
毎日一万回の素振りに比べれば、千回なんてどうということはない。本当にちょっとしたウォーミングアップのつもりだったのだが。
「普通素振りは百回くらいなんですっ! 千回なんて、終わったらクタクタになって動けなくなるわよ! ユーヤが異常なだけ!」
「お、俺が異常だと……!」
まさかこんなことを言われるとは思わなかった。
だが、確かに素振り一万回ってのは多いよなぁ。これが異世界の常識だと思っていたからすんなり受け入れることができたけど、そうじゃないなら無茶ぶりに感じてしまうのかもしれない。
剣士レイジス――父さんの常識も結構おかしかったらしい。
「はぁ、なら今日のメニューは変更にしておくか」
四人の間に安堵の息が漏れた。
「じゃあ素振り一万回ということにしよう! まずは慣れることから始めないとな!」
「やっぱりおかしいわよ!」
リーナのツッコミに無視を決め込み、四人に土剣を渡す。
剣を渡されると四人は『はぁ』と溜息をつくと、諦めて素振りを開始した。
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四人が素振りを開始して一時間が経った。
全員汗だくで、苦しそうに喘ぎながら素振りを続けている。
速度は遅いが、これならなんとか今日中に一万回のノルマを終えられるだろう。
俺も四人に交じって素振りをしていた。
一時間ほどで素振りは一万回を超えている。一万回くらいではまったくしんどくない。世界の理を見つけ出すにはまだ年単位の時間がかかりそうだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……はあぁっ!」
エリスは剣士ということで素振りには慣れているのだろう。現時点の回数は千回といったところだが、まだ余裕を残している。
それに対して、リーナとレム、アミは本当に苦しそうだ。
リーナはまだペースを一定に保てているものの、レムとアミの二人はペースも落ちている。
……なんで苦しみながらやってるんだろう?
「も、もう限界です……っ!」
レムはその言葉を最後に素振りを辞め、地面に寝転がった。
ひんやりとした地面で身体を涼めるには良い頃合いだ。
俺は素振りを一旦辞め、レムのもとに向かった。
「レム、よく頑張ったな。水を飲んでおけ」
【水創造】で水を創造し、レムの口にゆっくりと流し込んでやる。
レムは水を飲み干すと、
「あ、ありがとうございます。……で、でもその……怒らないんですか?」
「何をだ?」
俺がどうして怒る必要があったのだろう。思い当たることが一つもない。
今日レムと会ってからやったことと言えば、ダンジョンに来て素振りをやらせたことくらいだ。
レムの素振り回数はおよそ七百回ほど。ここでギブアップして、水分補給をしている。
これのどこに怒る要素があるんだ?
「だって、一万回できずにギブアップしちゃいましたし……」
「ああ、そんなことを気にしてたのか」
「え!? できなくていいんですか?」
「いや、今日中に一万回やらせるつもりだよ」
「じゃあ……どうして」
「俺は一度も休憩を挟むなとは言ってないはずなんだがな」
俺は連続で一万回やれとは言っていない。今日初めて一万回素振りにチャレンジする者にできるはずがないからな。俺はできないことはやらせない。できないことをやらせる指導者は馬鹿だと知っているのだ。
「え、じゃあ休憩をしてもいいんですか!?」
「もちろんだ。ただし今日中に一万回やってもらうがな」
「な、なぁんだ……」
レムはぐったりと肩を落とした。
「私も休憩します……」
ふむ、アミも休憩するのか。ほら、水だ。
「私ももう限界……」
なんだ、リーナもか。
「私もちょっと休憩を……水を頼む」
あれれ? なんか急にみんな休憩に入ったなぁ。
まあ今のペースなら一万回達成できそうだしいいんだが。
ついでに俺も休憩しておこうか。疲れてないけど。
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