温泉地の謎 25 完

女性は美しく変貌して 24

　広場にはママ友や子どもたちが、テーブルを求めてランチにやってくる。その中に異様な光景のカップルに焦点が合った。

若い男を連れて歩く婦人。キラキラと輝くジュエリーを身に付けた派手な格好。中田もその光景に、すぐに気付き表情を変えたのだ。何十年も隠し通した、すれ違いの人生の終結を見たようでもある。

その目立つ女性は、奥さんに間違いないようで、夫である中田は背を向けたのだ。

桃子は目の前の出来事は、スクリーンの中での事のように錯覚をしてしまう。これは現実ではあり得ない作られたシーンだと・・、気付いたのは、中田と半信半疑の桃子だけである。遠めで見る中田の奥さんは愛を確かめ合うように、若い男と見つめ合っている。

一方、何も知らないミツは立ち上がりニアミス。しかし近くを通っても、お互い同窓生とは分からない。さすがに長い年月、女性は美しく変貌して、誰だか分からないというのか。

トイレからミツが戻ると「あの2人妖しくない ? 」と、ちらっと見て中田に耳打ちしているようだ。

中田は見ることなく後ろ向きで「俺たちも妖しく見られているのかもね」そういうセリフに思えた。それが証拠に顔を隠すように、中田が立ち上がる。

桃子は、中田の後を追うより、顔の知らない中田の奥さんの隣のテーブルに移動した。後ろ向きに腰掛けたら大接近する。 ランチ時、人が増えて来ていたので、何の不自然でもないのだ。

スマホで音楽でも聴いてるようにイヤホンを両耳に付けていたが、もちろん音楽などは聴いてはいなかったので、会話はよく聞こえてくる。

中田の奥さんって、どんな人なのだろうかと集中した。聞こえる声は若々しくてお互い名前を呼び捨てしている。

それで親密な関係なのは分かるが、男は桃子と同じくらいの40代前半にみえたので、中田と私の逆バージョンカップルなのかと笑いを堪えた。

 でも桃子は中田を「中田さん」とか「中田先生」と言ってるし、呼び捨てにはしていない。

ところが、ここに居る男は年下なのに奥さんを「アキ」と呼び捨てしているので関係は肉体関係もあり得た。

聞き耳を立てていると、奥さんが「今日泊まる ? 」と、何処かに泊まるらしい。それは阿吽の呼吸で分かっているようで、何処かに泊まるらしかった。翌日は泊まった場所から出勤なんだぁと想像出来たら、呆れてしまいそれ以上興味がなくなってしまう。

それにしても、中田はミツと何処に行ったのだろうか。あんなに楽しそうにしている姿は、今でも確実に交際をしているのが分かる。では、なぜ交換日記を燃やしてしまった？つづく