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59話 白夜の終わり

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「これがレベルプラチナ。人間と堕天使の融合ともいえる力だ」

 灰色とも銀色とも取れるそのオーラからは凄まじいプレッシャーを感じる。

「さあ、魔剣フルレを返してもらおうか」

 プラチナと呼ぶオーラを纏い、先ほどまでの所有者である御堂の傍に佇む魔剣を奴は手にする。その蒼色に輝く剣を恍惚な目で眺めながら、

「君を排除すれば、この世界は私のものになるな」

 バルサロッサは地を蹴って向かってきた。

 速い!

 僕は即座に応戦する。

「地獄の炎斬ヘルスパーダ!」

 業火の斬撃の後には、奴の姿が消えていた。躱したのかと思った瞬間、無数の黒炎弾が僕を襲う。すかさず飛んでそれをやり過ごしたが、左の肩に鋭敏な衝撃を感じた。
 バルサロッサの空中での胴回し回転蹴りだ。

 僕は地面に急降下するが、

「ぐっ!」

 叩きつけられる寸前になんとかとどまった。地面に激突するダメージは避けられた。
 奴は余裕の笑みを浮かべて、僕の眼前に降り立つ。
左肩に痛みが走る。かまいたちにでも裂かれたような切り傷がいくつかできていた。

「肩とはいえ、緑風の旋風脚をくらって、その程度のダメージとはさすがゴールドの魔装ですね」

 強い! おそらく、今の僕と互角以上の魔力を秘めている。余裕の笑みはそこからくるものだろう。

 しかし、ここでバルサロッサを倒さなければ本当にこの世界は奴の手に……。

「うおおおおお!」

 僕は魔装全開でイフリートを携え、奴へ飛び出した。黄金色のオーラを放ちながら。

 バルサロッサは魔剣を手に構えた。

 僕と奴は大地から空中へと移動しながら、数合打ちあう。いや、正確には奴が僕の攻撃を捌いている。もちろん、お互い魔装させているので、接触のたびに大きな光がまだ薄暗い辺りを照らすように飛び散る。

「ははは、なかなかの剣技じゃないか! 学園で練度したのかな!?」

 確かに奴の言う通りだ。学園で体術以外も、ある程度の武器の扱いはする。なぜなら、いつか悪魔の極みであるレベルレッドになれることを夢見て。

「うおらぁ!」
「気迫は認めますが、当たらなければ意味がないですよ」
「くっ!」

 僕はイフリートの業火の斬撃を幾度も繰り出すが、奴にはヒットしない。奴と再び数合打ち合う。
 しかし、徐々に後手後手に回り、奴の斬撃を受け止めるのが精一杯になってくる。
 次の瞬間、バルサロッサは僕の剣を自分の剣で絡め取るように弾き飛ばした。

「しまった!」
「これまでだ……」

 バルサロッサは両手で剣を握り、力一杯振り下ろす。刹那の出来事で防ぎようがない。

 ごめん、リン……みんなを守れなくて……。

 僕は覚悟した時、身体からなにかが抜け出すような感覚に捉われた。
 次の瞬間、魔剣フルレによる氷の斬撃を数え切れないほどの黒い蝶が受け止めるように舞っていた。

「なに!?」

 バルサロッサは驚きから目を見開いた。
 その黒蝶は僕がよく知るものだった。

「ここよ!」

 そう彼女の声が聞こえた気がした。

 僕はすべての魔力を右手に込める。得意の雷系魔法の発勁での一撃。

「赤御雷アカミカヅチ!」

 紅の閃光がバルサロッサを貫く。その刹那、奴の身体から電撃が迸る。

「ぐあああああぁぁぁぁ!!!!!……そんな……私が……こん……な所で」

 そう言葉を残し、奴は数秒後、黒い塵と化した。

「はあはあはあ」

…………やったのか……。

 そうだ! さっきの黒蝶はリンが! リンはもしかしたら、生きてるんじゃないのか!? 淡い期待を膨らませて彼女の元へと向かう。

 しかし、期待はあっさりと裏切られ、倒れているはずの場所に彼女の姿は忽然と消えていた……。
 そうか……あの黒蝶は僕を守る為にリンが空間魔法であの別れる際に施してくれたものだったのだ。

 僕は一人、その場で立ち尽くした。

 白夜はやがて終わりを告げ、長い夢から覚めるように陽が登り始める。僕の心はぽっかりと穴が開いたまま……。
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