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第三章 人類の賭け
Day39 カウントダウン・リハーサル
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《NASA/PDCO オペレーションルーム》
モニターの一つに、
白地に黒字のシンプルなタイムラインが映っていた。
〈OMEGA X-DAY:Day36〉
・T-03:00 各国宇宙機関ブリーフィング
・T-00:10 IMPACT WINDOW開始
・T+00:08 信号受信(光速度遅延)
・T+00:15 軌道偏向量の一次評価
・T+01:00 二次評価/メディアブリーフィング
フライトディレクターが説明する。
「今日は“Day36本番”と同じ流れで、
フルリハーサルをやります。」
「アストレアAからのテレメトリは
シミュレーションですが、
タイミングも回線の切り替えも
すべて“本番仕様”です。」
アンナ・ロウエルは
腕を組み、画面を見つめていた。
「メディアブリーフィングの想定質問も
更新されてるわね。」
広報担当が頷く。
「“成功した場合”と“失敗した場合”、
それぞれで想定される質問を
IAWNとSMPAG側とも共有しました。」
「“成功時”は
“今後のプラネタリーディフェンス体制は?”
“次のオメガが来たらどうする?”」
「“失敗時”は……
“なぜもっと早く気づけなかったのか”
“ツクヨミに間に合うのか”
“責任はどこにあるのか”。」
アンナは
小さく息を吐いた。
「どちらにしても、
“ここが終わりじゃない”って
伝えなきゃいけないのよね。」
「“一発勝負の花火”じゃなくて、
“これからも続く防衛の一歩目”だって。」
フライトディレクターが
手元のカウントダウンを確認する。
「ではこれより、
IMPACT WINDOW T-10分からの
リハーサルに入ります。」
「――これは練習です。
でも、ここまで来ると
本番とほとんど変わりません。」
室内の空気が
静かに張り詰めていく。
《JAXA/ISAS 相模原キャンパス/共同ブリーフィング準備室》
壁のスクリーンには、
NASAから送られてきた
アストレアAの軌道図と、
JAXA側で描いたツクヨミの候補軌道。
白鳥レイナは、
リモコンでスライドを切り替えながら
スタッフに指示を出していた。
「Day36当日の
共同ブリーフィング用資料、
もう少し“中高生にも分かる言葉”に
落として。」
「“ΔV”とか“運動量保存則”は
図と一緒なら一回くらい出していいけど、」
「“結局どれくらい進路がズレたのか”を
メートルとキロで
はっきり示した方がいい。」
若手がメモを取りながら言う。
「“ツクヨミ”の説明は
どこまで出しますか。」
「“何トンで、どのくらいの速度で”とか。」
レイナは
少し考えてから答えた。
「ざっくりでいい。」
「質量も速度も
“アストレアAと同じくらいか
少し小さい”ぐらいの説明で。」
「大事なのは、
“一発でダメでも二発目がある”って
世界に伝わること。」
「細かい数字は
専門家とマニアが
あとから論文でいくらでも見るから。」
会議室の隅で、
広報担当が口を挟む。
「官邸からは、
“Day36の中継で
“プラネタリーディフェンス”という言葉を
一度は入れてほしい”という要望です。」
「“一度でいいの?”」
レイナが苦笑する。
「せっかくだから三回くらい言いましょう。」
「“プラネタリーディフェンス”、
“地球防衛は継続的な仕事です”、
“今回が最初の実戦です”――」
「この三つは、
必ずセットで。」
若手が、
スクリーンの端に
小さく文字を打ち込んだ。
〈XデーのDay36まで、あと3日。〉
《欧州・とあるニュース専門チャンネル》
スタジオのバックパネルには、
地球とオメガ、
アストレアAを描いたCG。
キャスターが
軽快な英語で話している。
「オメガXデーが近づく中、
各国では“同じ瞬間をどこで見るか”が
すでに話題になっています。」
「ヨーロッパでは、
多くの都市で“パブリックビューイング”が
予定されています。」
画面が切り替わり、
パリの広場に設置されつつある
巨大スクリーンが映る。
「ここではDay36、
市民が広場に集まり、
NASAやESAの中継を
一緒に見上げる予定です。」
市の担当者がインタビューに答える。
『人は、
一人きりで不安になるより、
誰かと一緒に空を見上げた方が
少しはましですから。』
『“成功を祈る集会”になればいい。
もし悪い結果になっても、
ここにいた人たちは
“隣に誰かがいた”ことを
覚えていてくれるでしょう。』
別のカットでは、
ドイツの教会で
“Xデー平和ミサ”の準備をする神父、
イタリアの海辺の町で
“最後かもしれないサンセットライブ”と
銘打たれた音楽イベントの
ポスターが映る。
スタジオに戻り、
キャスターが続ける。
「一方で、
“オメガXデーパーティー”のような
イベントには
批判も集まっています。」
「“恐怖を飲み込むための笑い”なのか、
“終末の商業化”なのか。」
「Xデーを
“祝うべきかどうか”という議論は、
世界中で続いています。」
《黎明教団・とある信者の部屋》
六畳一間の狭いワンルーム。
壁には、
赤い円と白線の教団シンボルが描かれた
布ポスター。
ノートPCの画面には、
天城セラの配信アーカイブ。
「……Xデーの瞬間、
あなたはどこにいますか。」
セラの声が
穏やかに響く。
「テレビの前。
人混みの中。
仕事場。
ベッドの中。」
「どこであっても、
“あなたの魂がどこを向いているか”が
いちばん大事です。」
「オメガは
“破壊の光”ではなく、
“選別の光”です。」
「“この世界に
しがみつこうとする人”と、」
「“一度すべてを手放して
新しい世界を迎え入れようとする人”。」
「Xデーは、
その境目の一歩目です。」
画面の前で、
若い男が静かにうなずいた。
(仕事も、
家族も、
何一つうまくいかなかった。)
(俺がどれだけ頑張っても、
世界は何も変わらなかった。)
(“一度全部ゼロになればいい”と
本気で思ったことだってある。)
セラは続ける。
「Day36、
私たちは集い、
静かに目を閉じます。」
「宇宙の意思に
身を委ねるために。」
「“恐怖から逃げるため”ではなく、
“恐怖の向こう側を見るため”。」
男は、
手元のスマホで
教団のグループチャットを開いた。
〈Xデー当日、
本部の瞑想会場に行きます。〉
そう打ち込んでから、
一瞬だけ指が止まる。
(本当は、
ちょっとだけ“アストレアA”も見たい。)
(でも、
あれを“応援する側”に
立ってしまったら――)
彼は一度文章を消し、
打ち直した。
〈Day36、
オンラインで参加します。
一人ですが、
祈ります。〉
送信ボタンを押すと、
すぐにスタンプがいくつも返ってきた。
〈“選ばれた人”は
場所を問いません〉
そんな文字の入ったものもあった。
(選ばれた人。
本当に、
そんなものになれるのか。)
男は、
窓の外の夜空を見上げた。
《新聞社・社会部》
桐生誠のデスクに、
最新の〝Xデー関連特集〟のゲラが
積み上がっている。
『Xデーまであと3日――
世界はどこで、その瞬間を待つのか』
『パブリックビューイング、祈り、
そして“見ない自由”』
若手記者が
ページをめくりながら言った。
「すごいですね……
一斉に“同じ時間”を
世界中が気にしてる。」
「ワールドカップ決勝でも
ここまではなかったかも。」
桐生は
ボールペンを弄びながら言う。
「“同じ瞬間”を見るってことは、
“同じ記憶”を持つってことだ。」
「“あの日、どこにいた?”って
この先何十年も
言い合うことになる。」
「“ツクヨミが飛ぶかもしれない日”より、
まず“アストレアAのXデー”が
“世界の記念日”になる。」
若手が苦笑した。
「“記念日”って言葉、
ちょっと怖いですね。」
「成功すれば祝日みたいに扱われて、
失敗したら……」
「歴史の教科書の
黒いページか。」
桐生は、
モニター隅の数字を見た。
〈オメガまで、あと39日。
Xデー(Day36)まで、あと3日。〉
(あと三日で、
世界中が一斉に息を止める。)
(そのあと、
どうやって息を継ぎ直すのか――
誰も本当には分かっていない。)
彼は新しいメモを開き、
一行だけ打ち込んだ。
〈“同じ瞬間を待つ世界は、
同じ明日を思い描けているだろうか。”〉
Day39。
オメガの衝突予測日まで39日、
XデーのDay36まで、あと3日。
本作はフィクションであり、実在の団体・施設名は物語上の演出として登場します。実在の団体等が本作を推奨・保証するものではありません。
This is a work of fiction. Names of real organizations and facilities are used for realism only and do not imply endorsement.
モニターの一つに、
白地に黒字のシンプルなタイムラインが映っていた。
〈OMEGA X-DAY:Day36〉
・T-03:00 各国宇宙機関ブリーフィング
・T-00:10 IMPACT WINDOW開始
・T+00:08 信号受信(光速度遅延)
・T+00:15 軌道偏向量の一次評価
・T+01:00 二次評価/メディアブリーフィング
フライトディレクターが説明する。
「今日は“Day36本番”と同じ流れで、
フルリハーサルをやります。」
「アストレアAからのテレメトリは
シミュレーションですが、
タイミングも回線の切り替えも
すべて“本番仕様”です。」
アンナ・ロウエルは
腕を組み、画面を見つめていた。
「メディアブリーフィングの想定質問も
更新されてるわね。」
広報担当が頷く。
「“成功した場合”と“失敗した場合”、
それぞれで想定される質問を
IAWNとSMPAG側とも共有しました。」
「“成功時”は
“今後のプラネタリーディフェンス体制は?”
“次のオメガが来たらどうする?”」
「“失敗時”は……
“なぜもっと早く気づけなかったのか”
“ツクヨミに間に合うのか”
“責任はどこにあるのか”。」
アンナは
小さく息を吐いた。
「どちらにしても、
“ここが終わりじゃない”って
伝えなきゃいけないのよね。」
「“一発勝負の花火”じゃなくて、
“これからも続く防衛の一歩目”だって。」
フライトディレクターが
手元のカウントダウンを確認する。
「ではこれより、
IMPACT WINDOW T-10分からの
リハーサルに入ります。」
「――これは練習です。
でも、ここまで来ると
本番とほとんど変わりません。」
室内の空気が
静かに張り詰めていく。
《JAXA/ISAS 相模原キャンパス/共同ブリーフィング準備室》
壁のスクリーンには、
NASAから送られてきた
アストレアAの軌道図と、
JAXA側で描いたツクヨミの候補軌道。
白鳥レイナは、
リモコンでスライドを切り替えながら
スタッフに指示を出していた。
「Day36当日の
共同ブリーフィング用資料、
もう少し“中高生にも分かる言葉”に
落として。」
「“ΔV”とか“運動量保存則”は
図と一緒なら一回くらい出していいけど、」
「“結局どれくらい進路がズレたのか”を
メートルとキロで
はっきり示した方がいい。」
若手がメモを取りながら言う。
「“ツクヨミ”の説明は
どこまで出しますか。」
「“何トンで、どのくらいの速度で”とか。」
レイナは
少し考えてから答えた。
「ざっくりでいい。」
「質量も速度も
“アストレアAと同じくらいか
少し小さい”ぐらいの説明で。」
「大事なのは、
“一発でダメでも二発目がある”って
世界に伝わること。」
「細かい数字は
専門家とマニアが
あとから論文でいくらでも見るから。」
会議室の隅で、
広報担当が口を挟む。
「官邸からは、
“Day36の中継で
“プラネタリーディフェンス”という言葉を
一度は入れてほしい”という要望です。」
「“一度でいいの?”」
レイナが苦笑する。
「せっかくだから三回くらい言いましょう。」
「“プラネタリーディフェンス”、
“地球防衛は継続的な仕事です”、
“今回が最初の実戦です”――」
「この三つは、
必ずセットで。」
若手が、
スクリーンの端に
小さく文字を打ち込んだ。
〈XデーのDay36まで、あと3日。〉
《欧州・とあるニュース専門チャンネル》
スタジオのバックパネルには、
地球とオメガ、
アストレアAを描いたCG。
キャスターが
軽快な英語で話している。
「オメガXデーが近づく中、
各国では“同じ瞬間をどこで見るか”が
すでに話題になっています。」
「ヨーロッパでは、
多くの都市で“パブリックビューイング”が
予定されています。」
画面が切り替わり、
パリの広場に設置されつつある
巨大スクリーンが映る。
「ここではDay36、
市民が広場に集まり、
NASAやESAの中継を
一緒に見上げる予定です。」
市の担当者がインタビューに答える。
『人は、
一人きりで不安になるより、
誰かと一緒に空を見上げた方が
少しはましですから。』
『“成功を祈る集会”になればいい。
もし悪い結果になっても、
ここにいた人たちは
“隣に誰かがいた”ことを
覚えていてくれるでしょう。』
別のカットでは、
ドイツの教会で
“Xデー平和ミサ”の準備をする神父、
イタリアの海辺の町で
“最後かもしれないサンセットライブ”と
銘打たれた音楽イベントの
ポスターが映る。
スタジオに戻り、
キャスターが続ける。
「一方で、
“オメガXデーパーティー”のような
イベントには
批判も集まっています。」
「“恐怖を飲み込むための笑い”なのか、
“終末の商業化”なのか。」
「Xデーを
“祝うべきかどうか”という議論は、
世界中で続いています。」
《黎明教団・とある信者の部屋》
六畳一間の狭いワンルーム。
壁には、
赤い円と白線の教団シンボルが描かれた
布ポスター。
ノートPCの画面には、
天城セラの配信アーカイブ。
「……Xデーの瞬間、
あなたはどこにいますか。」
セラの声が
穏やかに響く。
「テレビの前。
人混みの中。
仕事場。
ベッドの中。」
「どこであっても、
“あなたの魂がどこを向いているか”が
いちばん大事です。」
「オメガは
“破壊の光”ではなく、
“選別の光”です。」
「“この世界に
しがみつこうとする人”と、」
「“一度すべてを手放して
新しい世界を迎え入れようとする人”。」
「Xデーは、
その境目の一歩目です。」
画面の前で、
若い男が静かにうなずいた。
(仕事も、
家族も、
何一つうまくいかなかった。)
(俺がどれだけ頑張っても、
世界は何も変わらなかった。)
(“一度全部ゼロになればいい”と
本気で思ったことだってある。)
セラは続ける。
「Day36、
私たちは集い、
静かに目を閉じます。」
「宇宙の意思に
身を委ねるために。」
「“恐怖から逃げるため”ではなく、
“恐怖の向こう側を見るため”。」
男は、
手元のスマホで
教団のグループチャットを開いた。
〈Xデー当日、
本部の瞑想会場に行きます。〉
そう打ち込んでから、
一瞬だけ指が止まる。
(本当は、
ちょっとだけ“アストレアA”も見たい。)
(でも、
あれを“応援する側”に
立ってしまったら――)
彼は一度文章を消し、
打ち直した。
〈Day36、
オンラインで参加します。
一人ですが、
祈ります。〉
送信ボタンを押すと、
すぐにスタンプがいくつも返ってきた。
〈“選ばれた人”は
場所を問いません〉
そんな文字の入ったものもあった。
(選ばれた人。
本当に、
そんなものになれるのか。)
男は、
窓の外の夜空を見上げた。
《新聞社・社会部》
桐生誠のデスクに、
最新の〝Xデー関連特集〟のゲラが
積み上がっている。
『Xデーまであと3日――
世界はどこで、その瞬間を待つのか』
『パブリックビューイング、祈り、
そして“見ない自由”』
若手記者が
ページをめくりながら言った。
「すごいですね……
一斉に“同じ時間”を
世界中が気にしてる。」
「ワールドカップ決勝でも
ここまではなかったかも。」
桐生は
ボールペンを弄びながら言う。
「“同じ瞬間”を見るってことは、
“同じ記憶”を持つってことだ。」
「“あの日、どこにいた?”って
この先何十年も
言い合うことになる。」
「“ツクヨミが飛ぶかもしれない日”より、
まず“アストレアAのXデー”が
“世界の記念日”になる。」
若手が苦笑した。
「“記念日”って言葉、
ちょっと怖いですね。」
「成功すれば祝日みたいに扱われて、
失敗したら……」
「歴史の教科書の
黒いページか。」
桐生は、
モニター隅の数字を見た。
〈オメガまで、あと39日。
Xデー(Day36)まで、あと3日。〉
(あと三日で、
世界中が一斉に息を止める。)
(そのあと、
どうやって息を継ぎ直すのか――
誰も本当には分かっていない。)
彼は新しいメモを開き、
一行だけ打ち込んだ。
〈“同じ瞬間を待つ世界は、
同じ明日を思い描けているだろうか。”〉
Day39。
オメガの衝突予測日まで39日、
XデーのDay36まで、あと3日。
本作はフィクションであり、実在の団体・施設名は物語上の演出として登場します。実在の団体等が本作を推奨・保証するものではありません。
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