AIが書いたその物語は、かつて誰かの人生だった

るいす

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第一幕:違和感と記憶

第7話:封印されたブログ

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 《あいつ、昔ブログやってたんだよ。知ってた?》

 それは、文芸サークル時代の同期・小林からの返信メッセージの中に、何気なく書かれていた一文だった。

「ブログ……?」

 あかりは思わず声に出していた。
 秋葉翔吾が文章を公開していたことは知っていた。合同誌やサークル内の小冊子、文学賞への応募作――だが、“個人のブログ”という記憶はなかった。

《大学の頃だよ。短い文章を週に一回くらい。詩っぽいのとか、散文。すぐ消えたけど。》

《タイトルは?》とあかりが尋ねると、数分後に返ってきた。

《たしか「灰色の余白」だったと思う。URLはもう覚えてない。ごめん。》

 あかりはすぐにパソコンを開き、「灰色の余白 秋葉翔吾 ブログ」と検索窓に打ち込んだ。
 しかし、案の定ヒットはしなかった。
 ブログサービスそのものが既に閉鎖されている可能性もある。SNS時代の今、数年前の個人ブログの痕跡はあまりに淡い。

 けれど、消えたサイトを遡るための手段が、まだ一つ残されていた。

「ウェブアーカイブ……」

 かつてネットに存在したページを記録する非公式のアーカイブサービス。
 あかりはURLの断片を頼りに、推測されるリンクをいくつか入力し、該当ページを探し当てた。
 そして、見つけた。

 ――[ha1re-yohaku.blog.xx/2022-03-entry01.html]

 画面に表示されたのは、既に消えた個人ブログの断片。
 簡素なテンプレート、余白の多い構成、モノクロのタイトルバナー。
 そして、その投稿の冒頭には、こう書かれていた。

 風のあとに残るのは、気配だけだ。
 音も、言葉も、もう届かない。
 それでも、彼の声が風にまぎれて聞こえた気がした。

 ――完全に、一致していた。
 あの《風のあとで》の書き出しと、まったく同じ一節が、ここにある。

 それは偶然でも、引用でもない。
 AIが書いた原稿の“最初の一行”は、このブログに書かれていた一文と一致しているのだ。

 あかりは画面をスクロールする。ブログの投稿は十数件。
 短い詩や、日記のような断片、物語の原型のような語り。
 けれど、最後の更新は2023年の春で止まっていた。

(……AIが学習したのは、この文章だったの?)

 AIsisは、公開されていた時期のあるテキストを無差別に学習する。
 それはつまり、秋葉翔吾が一時的に公開していたこのブログの文章も、学習対象に含まれていたということだ。

 あの物語は、秋葉が書いた。
 少なくとも、その一部は確実に彼の手によるものだった。

 だが、それは彼が“他人に読ませることを望んだ形”ではない。
 未完成のまま、感情の途中で、誰にも評価されることのない場所に置かれていた言葉たち。
 それをAIが拾い上げ、組み替え、まったく別の文脈で“創作物”として提示してきた。

(秋葉の言葉が、無断で使われていた……)

 そう気づいた瞬間、胸の奥にひどく苦いものがこみ上げてきた。

 彼がどうして筆を折ったのかは知らない。
 けれど、“書くこと”に対して誠実だった彼が、この状況を望んでいたとは思えなかった。

 あかりは震える指先で、アーカイブのページを閉じた。
 パソコンの画面が暗転する。静かな部屋に、彼女の呼吸音だけが残る。

 これはもう、個人的な興味ではない。
 読んでしまったからには、知ってしまったからには――向き合わなければならない。

 秋葉翔吾の、失われた物語に。
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