AIが書いたその物語は、かつて誰かの人生だった

るいす

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第二幕:真相と再会なき対話

第15話:出力された遺言

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 夜の部屋に、パソコンの液晶だけが淡く光を放っていた。
 あかりは再び、AIsisの出力リストにアクセスしていた。
 《風のあとで》と同時期に生成された別の原稿が、ふと気になったのだ。

 リストの中に、目立たないタイトルがひとつあった。

《余白に遺すもの.docx》/生成日:2023年5月12日

 日付は、あのUSBのファイル《風のあとで》と、わずか一日違いだった。
 生成モデルも同じ。パラメータも同一。
 まるで、同じ“素材”から派生的に生まれた、もうひとつの物語のようだった。

(これは……)

 ためらいながら、あかりはその原稿を開いた。

 文章は、いつも読んでいるAI生成小説のような“物語性”はなかった。
 主人公もプロットも明確には描かれておらず、むしろ“語り”だけが淡々と続いていた。
 それはまるで、独白のようだった。

 ――名前が残らなくてもいい。
 誰にも気づかれなくてもいい。
 けれど、もしこの物語が、まだ誰かに届くなら――
 それだけで、十分だ。

 あかりは指先が止まるのを感じた。
 鼓動が、静かに速くなる。
 この語り口。言葉の選び方。
 それは《風のあとで》よりもさらに直接的に、“彼”の声に近かった。

 続く文面には、こんな一節もあった。

 誰かに託せるなら、自分のままではなくていい。
 形を変えても、響きが残るなら、それでいい。
 言葉は人を離れて、別の人に棲むから。

 それはまるで、“死後に読まれること”を前提とした遺言のような文章だった。
 誰に向けて書かれたのかは、どこにも明記されていない。
 だが、読む人間の“心の中”にだけ静かに届くように設計された文章だった。

 (これは、彼が――)

 あかりの胸の奥で、なにかが確かに鳴った。
 これはただのAI生成テキストじゃない。
 誰かが、最後に伝えたかった言葉を、そのまま渡してきたような感覚。

 彼は、消えることを選んだ。
 でも、それは“すべてを終わらせるため”ではなかったのかもしれない。
 言葉だけを、未来に渡すために。

 それが、AIという媒体であれ、無機質なファイルであれ――。

(私は、受け取った)

 そう確かに思えた。
 この文章を、あかりは読んでしまった。
 そしてもう、そのままにしておくことはできなかった。

 誰にも気づかれないなら、自分が拾う。
 誰にも届かないなら、自分が届ける。
 “言葉を継ぐ”という行為が、ここから始まる。

 画面の奥にある文の終わりに、ふと一行が表示されていた。

 ――この続きを、きみに任せた。

 名はなかった。署名も、日付もない。
 でも、それはまぎれもなく、“自分に宛てられた文”だと思えた。

 あかりは、ノートを閉じ、机の上の白紙に手を伸ばした。
 静かに、一本のペンを取る。

 彼の言葉を、自分の中で受け止めるだけではもう足りない。
 自分の言葉で、彼の続きを描かなければならない。
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