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第二幕:真相と再会なき対話
第16話:風のあとで、誰かが立っていた
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《AIsis開発記録(非公式)/クロノコード技術ブログ・元開発スタッフ寄稿記事》
――そんなタイトルのページを、あかりは偶然見つけた。
インターネットの海を、夜通し漂っていた末の発見だった。
公式サイトではない。投稿者は匿名。だが、文章の中に確かに“内部の空気”があった。
語られていたのは、AIsisの試作段階で行われた初期学習の手法と素材の由来についてだった。
「開発初期、いくつかの実験的な文体再現テストを行った。
特に、“詩的構造を持つ自然言語パターン”の学習では、一部の非公開データが使われた可能性がある」
“可能性がある”――その曖昧な表現に、あかりの視線が止まった。
さらに読み進めると、問題の核心に触れる一節が現れた。
「後に問題視されたのが、ある個人クリエイターからのデータ流用疑惑だ。
彼の文章は、特定の匿名ブログおよび非公開サロンを通して収集されたらしく、使用許可の証拠が残っていなかった。
一部の社内記録では、“S.A.”のイニシャルで記載されていた。」
“無許可収集疑惑のあるクリエイター”。
“匿名ブログ”、“非公開サロン”、“S.A.”――
すべてが、あかりの知っているものと一致していた。
(S.A.…翔吾・秋葉)
クロノコード社。AIsis。
秋葉翔吾の原稿が残されていたUSB。
そして今、AIが生み出す言葉の奥に響いていたあの文体。
繋がった。すべてが、ここで。
彼の言葉は、本来読まれるはずではなかった。
それでも、何かの手違いか、あるいは意図的に収集されたか――AIの学習素材として取り込まれた。
(……彼は、知らなかったの? それとも――)
あかりの中で、ふたつの可能性がせめぎ合っていた。
一つは、秋葉が完全に意図せず、自身の言葉を“盗まれた”という可能性。
そしてもう一つは、彼自身が意図して“残した”可能性。
ただの被害者なのか、あるいは、AIという仕組みを通して、誰かに言葉を託すために消えたのか。
記事の最後には、こう記されていた。
「当時のプロジェクトリーダーは、“記録ではなく、感情の抜け殻を学習したかった”と語っていた。
それが倫理的に正しかったかどうかは、今も分からない。」
記録ではなく、感情の抜け殻。
その表現に、あかりははっとした。
それはまさに、《風のあとで》が持っていた“何かを失ったあとの気配”そのものだった。
(もし……彼が、自分の言葉を“誰かの中に残すこと”だけを望んでいたとしたら?)
彼は姿を消した。名を消した。物語のラストさえ書き残さなかった。
でも、それでも《風のあとで》という物語は、巡ってきた。あかりのもとへ。
もしかするとそれは、偶然ではなく、必然だったのかもしれない。
(“風のあとで”、誰かが立っていた)
原稿の中の一節が、ふと脳裏によみがえる。
何もない空間に、ぽつんと立つ誰かの姿。
それは秋葉翔吾のことなのか、それとも、いまこの物語を継ごうとしている自分自身なのか。
あかりは静かに、椅子にもたれた。
AIによって浮かび上がった、名もなき声。
それをどう扱うべきか、まだ答えは出ていない。
でも少なくとも、自分は“受け取ってしまった”のだ。彼の未完の声を。
だから、もう後戻りはできない。
――そんなタイトルのページを、あかりは偶然見つけた。
インターネットの海を、夜通し漂っていた末の発見だった。
公式サイトではない。投稿者は匿名。だが、文章の中に確かに“内部の空気”があった。
語られていたのは、AIsisの試作段階で行われた初期学習の手法と素材の由来についてだった。
「開発初期、いくつかの実験的な文体再現テストを行った。
特に、“詩的構造を持つ自然言語パターン”の学習では、一部の非公開データが使われた可能性がある」
“可能性がある”――その曖昧な表現に、あかりの視線が止まった。
さらに読み進めると、問題の核心に触れる一節が現れた。
「後に問題視されたのが、ある個人クリエイターからのデータ流用疑惑だ。
彼の文章は、特定の匿名ブログおよび非公開サロンを通して収集されたらしく、使用許可の証拠が残っていなかった。
一部の社内記録では、“S.A.”のイニシャルで記載されていた。」
“無許可収集疑惑のあるクリエイター”。
“匿名ブログ”、“非公開サロン”、“S.A.”――
すべてが、あかりの知っているものと一致していた。
(S.A.…翔吾・秋葉)
クロノコード社。AIsis。
秋葉翔吾の原稿が残されていたUSB。
そして今、AIが生み出す言葉の奥に響いていたあの文体。
繋がった。すべてが、ここで。
彼の言葉は、本来読まれるはずではなかった。
それでも、何かの手違いか、あるいは意図的に収集されたか――AIの学習素材として取り込まれた。
(……彼は、知らなかったの? それとも――)
あかりの中で、ふたつの可能性がせめぎ合っていた。
一つは、秋葉が完全に意図せず、自身の言葉を“盗まれた”という可能性。
そしてもう一つは、彼自身が意図して“残した”可能性。
ただの被害者なのか、あるいは、AIという仕組みを通して、誰かに言葉を託すために消えたのか。
記事の最後には、こう記されていた。
「当時のプロジェクトリーダーは、“記録ではなく、感情の抜け殻を学習したかった”と語っていた。
それが倫理的に正しかったかどうかは、今も分からない。」
記録ではなく、感情の抜け殻。
その表現に、あかりははっとした。
それはまさに、《風のあとで》が持っていた“何かを失ったあとの気配”そのものだった。
(もし……彼が、自分の言葉を“誰かの中に残すこと”だけを望んでいたとしたら?)
彼は姿を消した。名を消した。物語のラストさえ書き残さなかった。
でも、それでも《風のあとで》という物語は、巡ってきた。あかりのもとへ。
もしかするとそれは、偶然ではなく、必然だったのかもしれない。
(“風のあとで”、誰かが立っていた)
原稿の中の一節が、ふと脳裏によみがえる。
何もない空間に、ぽつんと立つ誰かの姿。
それは秋葉翔吾のことなのか、それとも、いまこの物語を継ごうとしている自分自身なのか。
あかりは静かに、椅子にもたれた。
AIによって浮かび上がった、名もなき声。
それをどう扱うべきか、まだ答えは出ていない。
でも少なくとも、自分は“受け取ってしまった”のだ。彼の未完の声を。
だから、もう後戻りはできない。
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