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第二幕:真相と再会なき対話
第19話:あなたに書かれた私
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あかりはその原稿のタイトルを見た瞬間、胸の奥に何かがざわつくのを感じた。
《風が吹いたあと、まだ》
AIsisの出力ログの中でも、とくに評価が高かった“試作作”として社内で扱われていたファイル。
その内容は、やや叙情的な青春短編――だが、読み進めていくうちに、あかりはページをめくる手を止めた。
登場人物の描写が、あまりにも具体的だった。
それも、自分自身のことのように。
彼女は、話すときに一度まばたきをして、視線を少しだけ外す。
けれど、答えを待つときだけは、まっすぐに見つめてくる。
その目が、やけに印象に残っていた。
大学時代、秋葉と会話したとき――たしかに自分はそうしていた。
誰かと話すときは緊張して、視線をそらす。
でも、真剣な話だけは、きちんと相手の目を見て伝えようとしていた。
「べつに、分かってもらわなくてもいい。でも、分かってほしかったなって思うことは、あるんだよ」
その一節で、あかりの中の記憶がはっきりと呼び覚まされた。
(これ、私が……言った)
大学三年の春。
創作ノートを見せるのが恥ずかしくて、サークルの帰り道にそう言ったのを覚えている。
秋葉はうなずいただけで、何も言わなかったけれど――それを、彼は覚えていたのだ。
そして、それを文章として残していた。
読み進めると、その作品は特に大きな展開もなく、
ただ「彼」と「彼女」がすれ違ったまま別れる物語だった。
ラストシーン、風が吹いたあとに、彼女はひとりで座っている。
彼女は静かに笑って、言った。
「忘れてくれてもいいけど、全部なかったことにはしないで」
(それも……私が言った)
それは、別れでも何でもない普通の帰り道で。
秋葉にノートを返すとき、冗談半分で言ったひとことだった。
けれどそれは、彼の中で“物語のラスト”として、書き残されていた。
(私は……彼の物語の中にいた)
ただのモデルじゃない。
ただの偶然でもない。
彼が書いた、唯一の“恋愛未満”の短編。
それは、秋葉翔吾が“あかり”という存在を、言葉にして封じた物語だったのだ。
だがそれは今、彼の手ではなくAIの出力として形を変え、あかりの目の前に現れている。
もしかすると、彼自身がその物語を“直接手渡すことはできない”と悟ったからこそ、AIに預けたのかもしれない。
あるいは、それすらも拒絶しようとして、あの作品も後に“削除された作品群”の一つとして、封じられていた可能性すらある。
AIは忘れない。
どれだけ削除されても、痕跡を記録し続ける。
そして、それを拾ってしまう者がいる。
あかりは、そうして拾ってしまった。
彼が書いた、自分。
彼の記憶の中に、物語の中に、**“存在していた自分”**を。
(わたしは……読者じゃなかった。書かれてた)
その重みが、言葉にならないまま胸の奥に沈んでいく。
ただの探し物ではない。
誰かの記憶の中に、物語として残っていた自分自身と向き合う――それは、思っていた以上に深い沈黙を抱えることだった。
けれど、あかりは立ち止まらなかった。
それでも、彼の物語を、継いでいきたい。
今度は、“私自身の声”で、それを語り直すために。
《風が吹いたあと、まだ》
AIsisの出力ログの中でも、とくに評価が高かった“試作作”として社内で扱われていたファイル。
その内容は、やや叙情的な青春短編――だが、読み進めていくうちに、あかりはページをめくる手を止めた。
登場人物の描写が、あまりにも具体的だった。
それも、自分自身のことのように。
彼女は、話すときに一度まばたきをして、視線を少しだけ外す。
けれど、答えを待つときだけは、まっすぐに見つめてくる。
その目が、やけに印象に残っていた。
大学時代、秋葉と会話したとき――たしかに自分はそうしていた。
誰かと話すときは緊張して、視線をそらす。
でも、真剣な話だけは、きちんと相手の目を見て伝えようとしていた。
「べつに、分かってもらわなくてもいい。でも、分かってほしかったなって思うことは、あるんだよ」
その一節で、あかりの中の記憶がはっきりと呼び覚まされた。
(これ、私が……言った)
大学三年の春。
創作ノートを見せるのが恥ずかしくて、サークルの帰り道にそう言ったのを覚えている。
秋葉はうなずいただけで、何も言わなかったけれど――それを、彼は覚えていたのだ。
そして、それを文章として残していた。
読み進めると、その作品は特に大きな展開もなく、
ただ「彼」と「彼女」がすれ違ったまま別れる物語だった。
ラストシーン、風が吹いたあとに、彼女はひとりで座っている。
彼女は静かに笑って、言った。
「忘れてくれてもいいけど、全部なかったことにはしないで」
(それも……私が言った)
それは、別れでも何でもない普通の帰り道で。
秋葉にノートを返すとき、冗談半分で言ったひとことだった。
けれどそれは、彼の中で“物語のラスト”として、書き残されていた。
(私は……彼の物語の中にいた)
ただのモデルじゃない。
ただの偶然でもない。
彼が書いた、唯一の“恋愛未満”の短編。
それは、秋葉翔吾が“あかり”という存在を、言葉にして封じた物語だったのだ。
だがそれは今、彼の手ではなくAIの出力として形を変え、あかりの目の前に現れている。
もしかすると、彼自身がその物語を“直接手渡すことはできない”と悟ったからこそ、AIに預けたのかもしれない。
あるいは、それすらも拒絶しようとして、あの作品も後に“削除された作品群”の一つとして、封じられていた可能性すらある。
AIは忘れない。
どれだけ削除されても、痕跡を記録し続ける。
そして、それを拾ってしまう者がいる。
あかりは、そうして拾ってしまった。
彼が書いた、自分。
彼の記憶の中に、物語の中に、**“存在していた自分”**を。
(わたしは……読者じゃなかった。書かれてた)
その重みが、言葉にならないまま胸の奥に沈んでいく。
ただの探し物ではない。
誰かの記憶の中に、物語として残っていた自分自身と向き合う――それは、思っていた以上に深い沈黙を抱えることだった。
けれど、あかりは立ち止まらなかった。
それでも、彼の物語を、継いでいきたい。
今度は、“私自身の声”で、それを語り直すために。
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