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第二幕:真相と再会なき対話
第18話:もしも、君がまだ創作を愛しているなら
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社内見学会が終わったその夜、あかりは再びAIsisの出力ログにアクセスしていた。
開発会社の公開資料やバグレポートの断片を拾い集め、彼女なりの仮設ルートを通して閲覧可能になっていた一部の開発者用ログ。
澄川空――つまり、秋葉翔吾の名義で管理されている形跡のある記録群の中に、「自動削除記録」という不可解なログ一覧が残っていた。
タイトルは記されておらず、すべて無機質なファイルコードで羅列されていた。
draft-yk03alpha
memo_sora_last-v2
tbd-story-sleep03
nighttalk_unshared
そして、その最後にあった1行。
wind_afterlight_v0.9(status: deleted by admin / user = sumikawa_sora)
その名前に、あかりは息を止めた。
《wind afterlight》――《風のあとで》の初期稿と思しきファイル。
そのステータスは、「ユーザー自身による削除」。
管理者=澄川空、つまり秋葉翔吾。
(……自分で、消したんだ)
AIが出力した文章を、自らの手で削除した――それは、ある意味で“AIに託した”のではなく、AIに封じたことを意味していた。
さらにいくつかの削除済ファイルについて調べていくうちに、あかりはふと、ある記憶を思い出した。
大学三年の春。
秋葉が小声で言っていたことがある。
「たぶん、俺の書いてるものって、他人に読まれたくないやつなんだよ。だから完成しないのかもな」
照れとも、諦めともつかない調子だった。
その時の彼の目は、妙に遠くを見ていた。
(じゃあ、AIに学習させたのは……ほんとうに“残したかったから”じゃない?)
もしかすると、AIという冷たく無機質なシステムの中に“閉じ込めた”のかもしれない。
誰にも読まれず、誰にも届かず、ただそこに存在する“未完の言葉”として。
封じ込めることで、秋葉は過去を手放そうとしたのではないか。
読まれることを前提としない、物語の“埋葬”。
そのことに気づいたとき、あかりの中にあった“受け取った喜び”は、静かに軋みを上げ始めた。
(私は……彼の望まなかったものを、読んでしまった?)
封印されたはずの原稿。
削除されたはずの言葉。
にもかかわらず、AIはそれを再構成し、あかりの元へと運んだ。
それは偶然かもしれない。
あるいは――届いてしまった“遺書”だったのかもしれない。
けれど、あかりの胸の奥に、それでも拭えない思いが残っていた。
もしも、君がまだ創作を愛しているなら――
あのとき彼に、そう問いかけることができていたなら。
いや、今この瞬間に、もしそれを言葉にできるなら――。
あかりはそっと、ノートを開き、ペンを走らせた。
「わたしはまだ、あなたの物語を読んでいたいと思っています」
それは返事ではなかった。
問いかけでも、主張でもなかった。
ただ一つの、願いのような“声”だった。
開発会社の公開資料やバグレポートの断片を拾い集め、彼女なりの仮設ルートを通して閲覧可能になっていた一部の開発者用ログ。
澄川空――つまり、秋葉翔吾の名義で管理されている形跡のある記録群の中に、「自動削除記録」という不可解なログ一覧が残っていた。
タイトルは記されておらず、すべて無機質なファイルコードで羅列されていた。
draft-yk03alpha
memo_sora_last-v2
tbd-story-sleep03
nighttalk_unshared
そして、その最後にあった1行。
wind_afterlight_v0.9(status: deleted by admin / user = sumikawa_sora)
その名前に、あかりは息を止めた。
《wind afterlight》――《風のあとで》の初期稿と思しきファイル。
そのステータスは、「ユーザー自身による削除」。
管理者=澄川空、つまり秋葉翔吾。
(……自分で、消したんだ)
AIが出力した文章を、自らの手で削除した――それは、ある意味で“AIに託した”のではなく、AIに封じたことを意味していた。
さらにいくつかの削除済ファイルについて調べていくうちに、あかりはふと、ある記憶を思い出した。
大学三年の春。
秋葉が小声で言っていたことがある。
「たぶん、俺の書いてるものって、他人に読まれたくないやつなんだよ。だから完成しないのかもな」
照れとも、諦めともつかない調子だった。
その時の彼の目は、妙に遠くを見ていた。
(じゃあ、AIに学習させたのは……ほんとうに“残したかったから”じゃない?)
もしかすると、AIという冷たく無機質なシステムの中に“閉じ込めた”のかもしれない。
誰にも読まれず、誰にも届かず、ただそこに存在する“未完の言葉”として。
封じ込めることで、秋葉は過去を手放そうとしたのではないか。
読まれることを前提としない、物語の“埋葬”。
そのことに気づいたとき、あかりの中にあった“受け取った喜び”は、静かに軋みを上げ始めた。
(私は……彼の望まなかったものを、読んでしまった?)
封印されたはずの原稿。
削除されたはずの言葉。
にもかかわらず、AIはそれを再構成し、あかりの元へと運んだ。
それは偶然かもしれない。
あるいは――届いてしまった“遺書”だったのかもしれない。
けれど、あかりの胸の奥に、それでも拭えない思いが残っていた。
もしも、君がまだ創作を愛しているなら――
あのとき彼に、そう問いかけることができていたなら。
いや、今この瞬間に、もしそれを言葉にできるなら――。
あかりはそっと、ノートを開き、ペンを走らせた。
「わたしはまだ、あなたの物語を読んでいたいと思っています」
それは返事ではなかった。
問いかけでも、主張でもなかった。
ただ一つの、願いのような“声”だった。
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