AIが書いたその物語は、かつて誰かの人生だった

るいす

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第二幕:真相と再会なき対話

第26話:見えない読者に向けて

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 投稿ボタンを押した瞬間、心臓が少し跳ねた。
 カーソルがくるくると回り、白地のページに静かに「投稿完了」の文字が浮かぶ。

 あかりはSNSの個人アカウントに、完成させた『風のあとで』の冒頭3話を連載形式で投稿した。
 物語の舞台、登場人物、そして語られなかった気持ち。
 自分の記憶と秋葉の言葉と、いまの生活と――すべてを織り交ぜて書き上げた最初の3話だった。

 タイトルには、あえて「再構成」や「元ネタ」などの注釈は入れなかった。
 “無名の創作”として、ただそのまま出した。

 反応がなくてもいい。
 でも、もし誰かに届くなら――そう思った。

 使ったのは、もともと大学時代に使っていた創作用のアカウント。
 フォロワーは少なく、拡散されるような仕組みにはなっていない。
 でも、それでよかった。

 「この物語は、誰か一人に届けばいい」
 それが、書き始めたときからの変わらない願いだった。

 投稿してしばらくは、通知も何もなかった。
 いいねもゼロ。リツイートもゼロ。
 それでも不思議と焦りはなかった。

 自分の中にあった物語が“言葉になった”という事実が、あかりの胸に静かな手応えを与えてくれていた。

 日が傾きかけたころ、スマホが微かに震えた。
 画面を見ると、SNSの通知がひとつ届いている。

 @nameless_letter からコメントがあります。

 見知らぬアカウント。
 投稿欄には鍵もなく、アイコンも初期設定のまま。
 プロフィールには何も書かれていない。
 でも、そこに書かれていた“言葉”を見て、あかりの息が止まった。

「風が止んだあとに立っていた誰か」は、“呼びかけるように”立っていたのだと感じました。
 最初の段落だけで、静かな喪失と、それでも届いてほしいという意志が読み取れます。
 何かを失った語り手が、もう一度だけ“言葉で世界を作り直そうとしている”気がしました。
 丁寧に読ませていただきました。続きを楽しみにしています。

 数行の、決して派手ではないコメント。
 けれどその“言葉の選び方”と、“感情の触れ方”が、あまりに記憶と重なっていた。

 (この文体……)

 あかりは、大学時代の合評会を思い出していた。
 いつも誰よりも遅れてコメントを出して、
 誰よりも言葉を削り、余白に深く沈むように語っていた――秋葉翔吾の感想の癖。

 直接的な賛辞は使わない。
 でも、どこかで語り手の“祈り”にそっと手を伸ばすような語り口。

 この文章は、まぎれもなく――彼だった。

 もちろん、証拠はない。
 @nameless_letter が彼本人なのか、同じような感性を持った別人なのか、判断はできない。

 でも、確かに感じた。
 このコメントは、誰よりも“自分の物語の芯”を正確に読み取っていた。

 (読んでくれたんだ……)

 たとえ、名前を名乗らなくても。
 返事がこなくても。
 彼は、言葉を受け取ってくれた。
 そして、それに対して“言葉で返して”くれた。

 あかりはそっと画面を閉じた。
 そしてパソコンを開き、続きを書く準備を始めた。

 《風のあとで》は、もうただの“再構成”ではない。
 あかり自身が、記憶と祈りと未来を込めて語る物語だ。

 “見えない読者”に向けて、今、自分は確かに書いている。
 たった一人の、その誰かに届くことを願って――。
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