33 / 50
第二幕:真相と再会なき対話
第33話:誰かが綴る、その続きを
しおりを挟む
ある日、あかりはいつものようにSNSの通知を開き、目を疑った。
《#風のあとで_自分の章》
見慣れないタグが、投稿一覧に並んでいた。
初めは誰かの感想用の派生かと思ったが、開いてみて、あかりは息をのんだ。
それは、「二次創作」だった。
あかりが書いた《風のあとで》の世界観を引き継ぎ、
“別の登場人物の視点”や“あの夜のもうひとつの出来事”として描かれた物語。
「風が止んだあと、私はベンチに座っていた。あの人が戻ってくるとは思っていなかったのに」
「透明だった人の視点で、語り直してみました」
「『風のあとで』の隣で起きていた、名前のない物語を書きました」
いずれも無名のアカウント。
文章は洗練されているわけではなかったけれど、どこか真剣だった。
読みながら、あかりの胸の奥がじわじわと熱を帯びていった。
(……綴られてる)
《風のあとで》という物語が、誰かの記憶に引っかかり、
その誰かが、今度は自分の言葉で“続きを語っている”。
それは、まるで炎のようだった。
焚き火の火が別の枝に燃え移り、次々と灯が連なっていく。
もともとは秋葉翔吾の原稿の断片。
AIの出力、あかりの再構成、そして今、まったく別の創作者たちの声。
そのすべてが、風のように繋がっていた。
あかりはページを閉じられなかった。
ひとつ、またひとつとタグを追い、そこに込められた言葉を辿っていく。
「誰かを思って書くって、こういうことなのかもしれない」
「風のあとで、立ち上がったのは私だった――そう思いたくて書きました」
「AIの時代だけど、人が書く意味を久しぶりに感じました」
どの投稿も、あかりの名前を出していなかった。
作者不詳のように、匿名のまま綴られていた。
けれど、あかりにはわかる。
これらの物語が、あの《風のあとで》から生まれたということが。
(あの物語が、歩き始めたんだ)
誰かひとりのために書いた物語が、
誰かの手によって続けられ、広がり、増えていく。
それは、ただの「人気」や「反響」とは違っていた。
物語が、本当に誰かの中で生き始めたという証だった。
あかりはふと、秋葉翔吾――澄川空の言葉を思い出す。
「言葉ってさ、自分の声を離れて初めて、本当の意味を持つのかもな」
かつて彼が残した“未完の声”は、あかりによって語られ、
そして今また、知らない誰かによって語り継がれている。
そのことが、あかりにはたまらなくうれしかった。
もう、この物語は自分ひとりのものじゃない。
秋葉のものでも、AIの記録でもない。
それは、“語りたい”と思った誰かの中で、再び物語になっていた。
あかりはそっと、ノートを閉じた。
そして新しいページを開く。
次に書く物語は、もう《風のあとで》とは関係ない。
でも、あの物語が教えてくれたことは、全部ここにある。
誰かを思って言葉を綴ること。
届かないかもしれない誰かに向けて書くこと。
それが、物語というものの本質だと、今はもう迷いなく言える。
そして、いつか誰かが――
その続きを、また綴るかもしれない。
《#風のあとで_自分の章》
見慣れないタグが、投稿一覧に並んでいた。
初めは誰かの感想用の派生かと思ったが、開いてみて、あかりは息をのんだ。
それは、「二次創作」だった。
あかりが書いた《風のあとで》の世界観を引き継ぎ、
“別の登場人物の視点”や“あの夜のもうひとつの出来事”として描かれた物語。
「風が止んだあと、私はベンチに座っていた。あの人が戻ってくるとは思っていなかったのに」
「透明だった人の視点で、語り直してみました」
「『風のあとで』の隣で起きていた、名前のない物語を書きました」
いずれも無名のアカウント。
文章は洗練されているわけではなかったけれど、どこか真剣だった。
読みながら、あかりの胸の奥がじわじわと熱を帯びていった。
(……綴られてる)
《風のあとで》という物語が、誰かの記憶に引っかかり、
その誰かが、今度は自分の言葉で“続きを語っている”。
それは、まるで炎のようだった。
焚き火の火が別の枝に燃え移り、次々と灯が連なっていく。
もともとは秋葉翔吾の原稿の断片。
AIの出力、あかりの再構成、そして今、まったく別の創作者たちの声。
そのすべてが、風のように繋がっていた。
あかりはページを閉じられなかった。
ひとつ、またひとつとタグを追い、そこに込められた言葉を辿っていく。
「誰かを思って書くって、こういうことなのかもしれない」
「風のあとで、立ち上がったのは私だった――そう思いたくて書きました」
「AIの時代だけど、人が書く意味を久しぶりに感じました」
どの投稿も、あかりの名前を出していなかった。
作者不詳のように、匿名のまま綴られていた。
けれど、あかりにはわかる。
これらの物語が、あの《風のあとで》から生まれたということが。
(あの物語が、歩き始めたんだ)
誰かひとりのために書いた物語が、
誰かの手によって続けられ、広がり、増えていく。
それは、ただの「人気」や「反響」とは違っていた。
物語が、本当に誰かの中で生き始めたという証だった。
あかりはふと、秋葉翔吾――澄川空の言葉を思い出す。
「言葉ってさ、自分の声を離れて初めて、本当の意味を持つのかもな」
かつて彼が残した“未完の声”は、あかりによって語られ、
そして今また、知らない誰かによって語り継がれている。
そのことが、あかりにはたまらなくうれしかった。
もう、この物語は自分ひとりのものじゃない。
秋葉のものでも、AIの記録でもない。
それは、“語りたい”と思った誰かの中で、再び物語になっていた。
あかりはそっと、ノートを閉じた。
そして新しいページを開く。
次に書く物語は、もう《風のあとで》とは関係ない。
でも、あの物語が教えてくれたことは、全部ここにある。
誰かを思って言葉を綴ること。
届かないかもしれない誰かに向けて書くこと。
それが、物語というものの本質だと、今はもう迷いなく言える。
そして、いつか誰かが――
その続きを、また綴るかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
10年ぶりに現れた正ヒロインが強すぎて、10年来のダメ系幼馴染型ヒロインが敗北しそうな件について。
神崎あら
青春
10年ぶりに再会した彼女はまさに正ヒロインと呼ぶにふさわしい容姿、性格、人望を手にしていた。
それに対して10年間一緒にいた幼馴染は、堕落し酒に溺れ、泰平の世話なしには生きられないペットのような生き物になっている。
そんな対照的な2人のヒロインが戦う(一方的にダメ幼馴染が社会的にボコられる)物語が今始まる!!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる