AIが書いたその物語は、かつて誰かの人生だった

るいす

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第二幕:真相と再会なき対話

第36話:創作とは、誰のものか

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 メールの件名は、淡々としていた。

【掲載ご相談】創作ウェブマガジン「EX-Lit」編集部より

 あかりは画面を開き、内容を読み進める。
 そこには《風のあとで》を読んだ編集者からの掲載オファーが綴られていた。

 作品に強く惹かれたこと、
 “現代における人とAIの言葉の関係”を扱った先鋭的なテーマであること、
 そして連載というかたちで読者と共有したいという申し出。

 胸が高鳴った。
 読者の感想が届いたときとはまた違う、
 “公的に認められる”という実感が、静かにあかりの中に広がった。

 だが、メールの末尾に添えられた一文が、彼女の指先を止めた。

※掲載の際は「本作はAI生成物を再構成した創作である旨」を明記することが条件となります。

 その一行を読み終えたとき、あかりの中にわずかな違和感が生まれた。

 AI生成物――
 たしかに、最初はそうだった。
 《風のあとで》の原型は、校正バイトの中で出会ったAIによる小説だった。
 秋葉の過去が混じったような、誰かの記憶のような、奇妙に“知っている”物語。

 でも、今あかりの中にある《風のあとで》は、それだけじゃない。

 それは秋葉翔吾の断片から始まり、
 AIの模倣文を通じて記憶を辿り、
 そして自分自身の言葉で語り直した、“再構成”ではない創作だった。

 (これは……AIが書いた物語じゃない)

 そう強く思った。

 AIは確かにきっかけだった。
 でも、その断章を物語にしたのは、自分だ。
 書くことで、秋葉と対話し、
 読み手と繋がり、自分自身と向き合った。

 その時間は、誰にも模倣できないものだった。

 画面を閉じ、あかりは深く息を吸った。
 そして、自分自身に問いかける。

 (この物語の“書き手”は、誰なのか)

 AIか。秋葉か。それとも自分か。

 明確な答えは、きっと誰にも出せない。
 けれど、あかりの中にはひとつだけ、確信があった。

 この物語は、経験から生まれた。

 AIは、データを再構成する。
 秋葉は、語らなかった言葉を残した。
 でも、それらを“生きた言葉”にしたのは、自分の経験だった。

 あの夜の風、交わらなかった言葉、
 そして、誰かのために書こうとしたあの時間。

 それがなければ、この物語は生まれなかった。

 あかりはメール画面を開き直し、返事を書いた。

件名:RE: 掲載ご相談の件

このたびは《風のあとで》に目を留めていただき、誠にありがとうございます。
お申し出をとても光栄に感じております。
けれど、大変恐縮ながら、今回のお話は辞退させていただければと思います。

理由は、私にとってこの物語が「AI生成物の再構成」ではなく、
“人間としての経験から生まれた物語”だからです。

AIの断片がきっかけであっても、
私は自分の言葉で、ひとつの人生を描いたつもりです。

だからこそ、
これは“AIに書かされた物語”ではなく、
“自分が書いた物語”として、静かに残したいのです。

ご理解いただけましたら幸いです。

柚木あかり

 送信を終えたあと、あかりはふうっと小さく息を吐いた。
 もしかしたら、掲載というチャンスを逃したのかもしれない。
 でも、それ以上に大切なことを守れた気がしていた。

 創作とは、誰のものか。
 それは、たとえどんな経路で始まっても、
 最後に**「これは自分が語った」と言えるかどうか**で決まるのだ。

 あかりは新しい原稿ファイルを開いた。
 名前も決まっていない、最初の白いページ。

 でも、そのページの前に座る自分は、はっきりと知っていた。

 次に書く物語もまた、自分の経験から生まれる。

 そして、それはきっと誰かに届く。
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