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第二幕:真相と再会なき対話
第35話:わたしの名前で、物語を始める
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パソコンを起動し、新規ドキュメントの作成画面を開いた。
ファイル名はまだ空白。タイトル未定。登場人物も設定していない。
けれど、あかりの中にはもう、たしかな“始まり”の気配があった。
《風のあとで》の連載が完結して数週間。
少しずつ、生活のリズムが戻ってきた。
部屋の空気も落ち着きを取り戻し、夜更かしも減った。
けれど、ひとつだけ戻ってこなかったものがある。
――静けさ。
心の中にあった“語る必要のない時間”の静けさが、今はもう消えていた。
新しい物語が生まれたがっている気配が、胸の奥をずっとざわつかせていた。
そして、あかりはようやくその声に応えることにした。
構想メモのノートを開く。
そこには、ポツポツと記された言葉たちがある。
思いつきのようなフレーズ、感情の断片、風景のイメージ。
「誰にも届かない声でも、書くことには意味がある」
「失う前にしか見えないものがある」
「言葉はいつも、遅れて届く」
「それでも人は、書かずにはいられない――」
最後の一文に、あかりは視線を止めた。
それは《風のあとで》を書き終えた直後、夜の川沿いを歩いた日のこと。
自分の中にふと湧きあがった感覚を、メモとして残していた。
秋葉との記憶、AIとの対話、創作という行為の重み。
それらを経た今、ようやく“この一文”から物語を立ち上げる準備が整っていた。
秋葉が遺したものではなく、
誰かに求められた物語でもなく、
ただ、自分の中から生まれた言葉で語る物語。
それが、次に書くべき作品だった。
あかりは、一度パソコンから手を離れ、深く呼吸をした。
そして、別のウィンドウを開いた。
――小説投稿サイトのアカウント登録画面。
名前をどうするか、一瞬だけ迷った。
ペンネーム。
匿名でもいい。別名でもいい。
けれど、あかりは自然と手を動かしていた。
入力欄に浮かんだ文字は、
柚木あかり
それは、記憶の中の“登場人物”ではなく、
いまこの場所で言葉を綴ろうとしている、“作者”としての自分の名前だった。
確認ボタンを押すと、ページが切り替わり、アカウントが作成された。
画面の右上に、小さく表示される「柚木あかり」の文字。
それを見た瞬間、胸の奥で何かがカチリと音を立てて切り替わった。
もう、誰かの続きを書く人ではない。
もう、誰かの記憶に寄り添うためだけに言葉を綴る人ではない。
これから綴る物語は、私自身のものだ。
原稿フォルダを開き、新しいファイルを作成する。
ファイル名はまだ「Untitled_01」。
でも、その空白が今は嬉しい。
このページには、まだ誰の声もいない。
これからすべてを、自分の声で語ることができる。
カーソルが画面の左上で点滅していた。
あかりはその点滅をじっと見つめ、そして小さく頷いた。
風は止んだ。
物語は終わった。
――けれどいま、“私の物語”が始まる。
ファイル名はまだ空白。タイトル未定。登場人物も設定していない。
けれど、あかりの中にはもう、たしかな“始まり”の気配があった。
《風のあとで》の連載が完結して数週間。
少しずつ、生活のリズムが戻ってきた。
部屋の空気も落ち着きを取り戻し、夜更かしも減った。
けれど、ひとつだけ戻ってこなかったものがある。
――静けさ。
心の中にあった“語る必要のない時間”の静けさが、今はもう消えていた。
新しい物語が生まれたがっている気配が、胸の奥をずっとざわつかせていた。
そして、あかりはようやくその声に応えることにした。
構想メモのノートを開く。
そこには、ポツポツと記された言葉たちがある。
思いつきのようなフレーズ、感情の断片、風景のイメージ。
「誰にも届かない声でも、書くことには意味がある」
「失う前にしか見えないものがある」
「言葉はいつも、遅れて届く」
「それでも人は、書かずにはいられない――」
最後の一文に、あかりは視線を止めた。
それは《風のあとで》を書き終えた直後、夜の川沿いを歩いた日のこと。
自分の中にふと湧きあがった感覚を、メモとして残していた。
秋葉との記憶、AIとの対話、創作という行為の重み。
それらを経た今、ようやく“この一文”から物語を立ち上げる準備が整っていた。
秋葉が遺したものではなく、
誰かに求められた物語でもなく、
ただ、自分の中から生まれた言葉で語る物語。
それが、次に書くべき作品だった。
あかりは、一度パソコンから手を離れ、深く呼吸をした。
そして、別のウィンドウを開いた。
――小説投稿サイトのアカウント登録画面。
名前をどうするか、一瞬だけ迷った。
ペンネーム。
匿名でもいい。別名でもいい。
けれど、あかりは自然と手を動かしていた。
入力欄に浮かんだ文字は、
柚木あかり
それは、記憶の中の“登場人物”ではなく、
いまこの場所で言葉を綴ろうとしている、“作者”としての自分の名前だった。
確認ボタンを押すと、ページが切り替わり、アカウントが作成された。
画面の右上に、小さく表示される「柚木あかり」の文字。
それを見た瞬間、胸の奥で何かがカチリと音を立てて切り替わった。
もう、誰かの続きを書く人ではない。
もう、誰かの記憶に寄り添うためだけに言葉を綴る人ではない。
これから綴る物語は、私自身のものだ。
原稿フォルダを開き、新しいファイルを作成する。
ファイル名はまだ「Untitled_01」。
でも、その空白が今は嬉しい。
このページには、まだ誰の声もいない。
これからすべてを、自分の声で語ることができる。
カーソルが画面の左上で点滅していた。
あかりはその点滅をじっと見つめ、そして小さく頷いた。
風は止んだ。
物語は終わった。
――けれどいま、“私の物語”が始まる。
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