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第三幕:継ぐ者として生きる
第48話:風の記憶を持つ人へ
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編集部からのメールの件名は、こうだった。
「《風のあとで》書籍化のご相談」
一瞬、画面を見つめたまま指が止まった。
スクロールして本文を読み進める。
反応は良好、初版の部数も少なからず見込めそうだという。
紙の本として、あの物語が世に出る――その事実が、あかりの胸にじんわりと広がった。
思えば、ずっと“届かないもの”として始まった物語だった。
AIが出力した断片。
過去の記憶。
語られなかった言葉。
そして、それらを静かに拾い上げるように書いた日々。
それが今、読者の手に渡る“かたち”になる。
(あの物語は、私ひとりの言葉じゃない)
あかりは、メールに返信する前に一つの提案を添えることにした。
件名:RE: 書籍化のご相談
このたびは書籍化のお話をいただき、誠にありがとうございます。
《風のあとで》という作品は、私にとって“綴じた物語”であると同時に、
誰かから受け取った“始まりの断片”でもありました。
そのため、一点ご相談があります。
著者名義を「柚木あかり」としてご紹介いただく際、
可能であれば、書籍情報のどこかに「共著」の形式を取れないかと考えております。
「柚木あかり + 秋葉翔吾(表記なし)」というかたちで、
あくまで明記はせず、けれど“ふたりで完成させた物語”という背景を
表紙や奥付、紹介文などのどこかに滲ませることができたらと願っております。
本作を読んでくださる方の中には、
“もうひとりの存在”を感じ取ってくださる方がいるかもしれません。
そんな風に、本の中で“声の継承”が生きていてほしいと願っています。
どうぞご検討いただけましたら幸いです。
柚木あかり
返信が届いたのは、それから三日後だった。
編集者からの文章は、冒頭から率直だった。
正直、最初は少し戸惑いました。
いまどき“共著”で名前を伏せるという形式は、あまり聞いたことがありません。
でも――作品をすべて拝読したあと、納得しました。
この物語は、“誰かと一緒に書かれた”ものなのだと。
名前のない共著者がいたことが、ページのあちこちに確かに息づいていました。
だから、ご提案の件、ぜひその方向で進めさせてください。
メールの末尾には、こう添えられていた。
「本のどこかに、“もうひとりの存在”が感じられるように、丁寧に仕上げます」
あかりは、ほっと息をついた。
それは過去への執着ではなかった。
秋葉翔吾という名前を、過剰に残したいわけでもない。
ただ、あの物語の中にはたしかに、彼の“声”があった。
書かなかった人と、書いた人。
語らなかった人と、語り継いだ人。
そのふたりの間に生まれた、語られたものと語られなかったものの共鳴。
それが《風のあとで》という物語だった。
――そしてそれは、これから誰かが読む“最初のページ”になる。
机の上に、あの便箋がある。
「物語の続きを、どうかあなたの手で」とだけ書かれた、名前のない手紙。
今思えば、あれこそが“共著の署名”だったのかもしれない。
あかりは、新しいファイルをひらいた。
そこに、これから綴る自分自身の物語がある。
けれど《風のあとで》は、これでほんとうに閉じる。
表紙の見えないところで、
名前のないもうひとりとともに書いた物語。
それが、風の記憶を持つ人へ贈る、静かな一冊になる。
「《風のあとで》書籍化のご相談」
一瞬、画面を見つめたまま指が止まった。
スクロールして本文を読み進める。
反応は良好、初版の部数も少なからず見込めそうだという。
紙の本として、あの物語が世に出る――その事実が、あかりの胸にじんわりと広がった。
思えば、ずっと“届かないもの”として始まった物語だった。
AIが出力した断片。
過去の記憶。
語られなかった言葉。
そして、それらを静かに拾い上げるように書いた日々。
それが今、読者の手に渡る“かたち”になる。
(あの物語は、私ひとりの言葉じゃない)
あかりは、メールに返信する前に一つの提案を添えることにした。
件名:RE: 書籍化のご相談
このたびは書籍化のお話をいただき、誠にありがとうございます。
《風のあとで》という作品は、私にとって“綴じた物語”であると同時に、
誰かから受け取った“始まりの断片”でもありました。
そのため、一点ご相談があります。
著者名義を「柚木あかり」としてご紹介いただく際、
可能であれば、書籍情報のどこかに「共著」の形式を取れないかと考えております。
「柚木あかり + 秋葉翔吾(表記なし)」というかたちで、
あくまで明記はせず、けれど“ふたりで完成させた物語”という背景を
表紙や奥付、紹介文などのどこかに滲ませることができたらと願っております。
本作を読んでくださる方の中には、
“もうひとりの存在”を感じ取ってくださる方がいるかもしれません。
そんな風に、本の中で“声の継承”が生きていてほしいと願っています。
どうぞご検討いただけましたら幸いです。
柚木あかり
返信が届いたのは、それから三日後だった。
編集者からの文章は、冒頭から率直だった。
正直、最初は少し戸惑いました。
いまどき“共著”で名前を伏せるという形式は、あまり聞いたことがありません。
でも――作品をすべて拝読したあと、納得しました。
この物語は、“誰かと一緒に書かれた”ものなのだと。
名前のない共著者がいたことが、ページのあちこちに確かに息づいていました。
だから、ご提案の件、ぜひその方向で進めさせてください。
メールの末尾には、こう添えられていた。
「本のどこかに、“もうひとりの存在”が感じられるように、丁寧に仕上げます」
あかりは、ほっと息をついた。
それは過去への執着ではなかった。
秋葉翔吾という名前を、過剰に残したいわけでもない。
ただ、あの物語の中にはたしかに、彼の“声”があった。
書かなかった人と、書いた人。
語らなかった人と、語り継いだ人。
そのふたりの間に生まれた、語られたものと語られなかったものの共鳴。
それが《風のあとで》という物語だった。
――そしてそれは、これから誰かが読む“最初のページ”になる。
机の上に、あの便箋がある。
「物語の続きを、どうかあなたの手で」とだけ書かれた、名前のない手紙。
今思えば、あれこそが“共著の署名”だったのかもしれない。
あかりは、新しいファイルをひらいた。
そこに、これから綴る自分自身の物語がある。
けれど《風のあとで》は、これでほんとうに閉じる。
表紙の見えないところで、
名前のないもうひとりとともに書いた物語。
それが、風の記憶を持つ人へ贈る、静かな一冊になる。
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