君がいない夏

るいす

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第2章:夢のノート

第10話:持ち込みという選択

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 完成に近づくにつれて、不思議な不安が増していった。
 ユウトは、夜の自室でラフ画と原稿を並べながら思っていた。

 「……これを、誰に読んでもらえばいいんだろう」

 作るだけじゃ、きっと意味がない。
 ミユキが見ていた“夢”は、きっと“届けること”まで含めてだった。

 翌日、ユウトは大学の図書館で「絵本 出版」「持ち込み」「自費出版」などのキーワードを検索していた。
 印刷会社や同人出版サイト、自費出版サポートなどが出てくる中――一つ、小さな出版社の名前が目に留まった。

 『KONOHA出版』

 規模は小さいが、手作り絵本の公募なども行っているらしい。
 学生や若手作家の支援もしていると書かれていた。

 その日の夜、ユウトは震える指でメールを書いた。
 簡単な自己紹介と、作品の概要、完成原稿があること、そして「一度見ていただけませんか」と。

 送信ボタンを押した瞬間、胸がドクンと鳴った。

 数日後、返信が届いた。

 件名:持ち込みの件について

 はじめまして、KONOHA出版 編集部の本木(モトキ)と申します。
 原稿の件、拝見しました。
 ご希望でしたら、一度お話を伺います。〇月〇日、14時、弊社オフィスにて。

 当日。
 都内の雑居ビルの4階、小さな出版社の一室。
 古びた木の扉を開けると、壁一面に絵本が並んだ棚が目に入った。

 ユウトは緊張で喉が渇いていた。
 受付の女性に案内され、会議室のような部屋で待つこと数分。

 ガチャ、とドアが開いた。

 「どうも、モトキです。あ、座ったままでいいよ」

 スーツ姿だがラフな印象の男性が現れた。
 眼鏡の奥にある視線は、鋭さと優しさの両方を持っているように見えた。

 ユウトは絵本の原稿を差し出し、震える声で話し始めた。
 ミユキのこと、絵本に込めた想い、未完成だった物語に自分の言葉を足したこと。

 モトキはページをめくりながら、じっと聞いていた。

 すべて話し終わったあと、静かな時間が流れた。

 「……うん。気持ちはすごく伝わってきたよ」

 モトキが口を開いた。

 「ただ、それと“本を出す”ってことは、また別の話なんだ」

 ユウトの喉がかすかに鳴った。

 「絵も言葉も、君の中には芯がある。でも……甘い」

 「えっ……」

 「悪いけど、これをそのまま出版できるレベルではない。レイアウト、ページ構成、読者への視点、何より完成度がまだ足りない」

 言葉は冷静で、淡々としていた。
 でも、突き放すような感じではなかった。

 「正直、この業界は気持ちだけじゃやってけない。売れるもの、届くものじゃなきゃ意味がないって言われる世界だよ」

 「……それでも、俺は……」

 言葉が震えた。

 「俺は、この絵本を、誰かに読んでもらいたいんです。彼女が、そう願ってたから……」

 その言葉に、モトキが少しだけ視線を上げた。

 数秒の沈黙のあと、彼はこう言った。

 「じゃあさ。もう一回、全部見直してごらん」
 「“気持ち”を残したまま、“読者”に向けて整える。それが作家の仕事だ」

 ユウトは、深くうなずいた。

 彼女の夢を、形にする。
 その道が簡単じゃないことを、ようやく実感した。

 でも今は、逃げ出すより――挑んでみたいと思った。
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