俺がいつのまにか勇者になるまで

カフェイン

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第1話 世界が変わった日

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 俺は、北村弘樹《きたむらひろき》

 現在友達や恋人もいない上、大学を中退し仕送りを止められた社会人。
 実家に帰ることもなく、週3日だけアルバイトという半ニート生活を続け、殆どの時間をネットやゲームなんかに費やしている半引きこもりだ。

 俺の様な奴は日本にごまんといるはずだと自分に言い聞かせ、罪悪感を感じることもなく日々怠惰に過ごしている負け組人間だが、これといった不満も無く、それなりに充実して生きていると思っている24歳の独身男である。

 そんな俺がネットゲームのイベントで寝不足が続いている今日この頃。
 それは突然、何の前触れもなく俺の身に降りかかってきた。





「ふあー」

 あちこち散らかった床に分厚い遮光カーテンを締め切っている部屋は、24時間いつも同じ明るさで、一見昼なのか夜なのか区別がつかない。

「ん、何時だ?……」

 俺は眠い目をこすり頭をかきながら壁にある時計を見上げた。

「昼の12時か……寝すぎだ。体が痛い。腹も減った」

 たしか昨晩は帰宅したのが22時。
 帰宅後夜飯も食わず寝てしまったため、目が覚めてすぐ空腹を感じた。
 まだ寝ぼけた顔で冷蔵庫をあけるが案の定何もない。

 何も入ってない事は知っているのになぜか冷蔵庫を開けてしまう。
 そうして何もない事を再確認すると一度閉める。
 そしてまた開けてさらに注意深く眺める。

 日常だ。

「うーん、何か買いに行くか……」

 簡単に身支度を済ませ近くのコンビニへ向かう事にする。
 玄関で素足にサンダルを履いて外に出ると、もう初夏を感じる日差しはモリモリと俺のHPを削り始めた。

「あっつ。春はどこ行ったんだよ、まったく」

 外に出ると一見、街は何も変わってないように見えた。
 何かが大きく変わったこの世界に気づく事もなく、俺はコンビニへ向かいだした。

 しかし100メートル先にあるコンビニに着く頃、財布を忘れている事に気付く。

 太陽がきつい。

 俺は週に3日、少し離れたバイト先への送迎バス乗り場まで自転車で通っているが、それ以外は日差しの入らない部屋に引きこもり怠惰な日々を繰り返している。

 だから、日中の日差しに腹が立つ。無駄な往復がなおしんどい。
 そうして井戸端会議中のママさんたちと目を合わせないよう通り過ぎる。

「……ねぇねぇ、お宅の旦那さんどうするの?」

「うーんうちでも話し合いしたんだけど、うちの旦那仕事辞めたいらしいのよ、でもそうなると旦那がうちにいることになるでしょ、気が重いわぁ」

 何の話をしているかは分からないが、平日の昼間から主婦は気楽なものである。

「お子さん2人いるんだし月30万くらいでしょ、うちは二人だからそういうわけにもいかなくてどうしようか困ってる所なのよね……」

 そんな話に聞き耳を立てたが、俺は特に何も疑問に思わず財布を取りに向かう。

「月30万か、いいねぇ……」

 ついぼやいてしまう。
 ちなみに俺の給料は1か月で手取り12万ちょい。
 たった週3のバイトでも18万くらい稼いではいるんだが、保険料や年金、所得税や奨学金という名の借金返済などが引かれた結果、手元にはそれしか残らない。

 そこから家賃や生活費を引くと貯金なんか一切できない。
 24歳でこの生活は正直辛いが、俺だけでは無いと自分に言い聞かせていた。

「はぁぁ、カネ、降ってこねぇかなぁ」

 死んだ魚の目をしながらそんなあり得ない出来事をぼやいてしまう。

 部屋につくと財布はすぐ見つかった。中には2000円と小銭が少し。
 月末の給料振り込みまであと1週間、2000円ではしのびない。

「ついでに降ろしてくるか……」

 財布を手に取りすぐにコンビニへ向かう。

「はぁぁ、ったく、コンビニが来いよ……」

 俺はまたHPを削りながら、背中を丸めて住宅街をとぼとぼと歩く。

「っしゃいせー」

 コンビニ店員の心のこもっていない雑な挨拶を聞き流し、まずはとATMへ向かい、おもむろにキャッシュカードを差し込む。

「いらっしゃいませご利用ありがとうございます」

 それを聞いた俺は、まわりに聞こえないようにまたぽつりとぼやく。

「俺が預けた金で金儲けしてるくせに、引き出す度に手数料取りやがって」

 まぁ、ぼやいてもしょうがない。
 俺は暗証番号を入力して僅かな残高からお金を降ろす。

「たしか1万位は入ってたはずなので1万円っと……」

 するとがしゃがしゃと音を立て、取り出し口に1万円札が出てきた。

「これで今月は行ける」

 最後に利用明細が出てきたが、受け取ってみてみるとそこには……。

 残高119185円……。

「ふぁ!?なんでこんなに残ってんだ?」

 当然入金される予定なんかないのに残高が10万円くらい多くなっている。

 超ラッキー!

 しかし俺にとって10万は超大金、1か月かけて稼ぐ金額に等しい。
 何の予定もない入金があったことで不安や恐怖も若干感じた。

 何かのミスかもしれないと思い、もう一度キャッシュカードを差し込む。

「残高はっと……やっぱり119185円、これ使っちゃって平気なのか?」

 不安を覚えつつもラッキーとばかりに、追加2万円を引き出しコンビニを後にした。

「ありやっしたー」

 驚いて腹が減っているのも忘れていた。
 何も買わずに出てきてしまったためか、コンビニ店員の雑なお礼を他所に、俺はすぐにスマホを取り出す。

 もしかしたら、親が仕送りを入れてくれたのかもしれない、と思ったのだ。

「実家に電話すんの久しぶりだなぁ……」

 両親は地方で小さいながらミカン農園を営んでいる。
 俺は大学への進学を理由に東京で一人暮らしをしていたが、大学を辞めた事で両親には合わせる顔が無い。大学へ通っている間は、親がなけなしの金を仕送りしてくれていた訳で、感謝の気持ちとバツの悪さが両親と疎遠にさせていた。

 だから、もし仕送りをくれたのなら謝罪とお礼を言わなくてはと思った。
 誕生日ってわけでもないのに、なぜ突然仕送りをくれたのか理由が知りたい。
それに感謝を伝えるだけなら、僅かな電話代で済む。

 今はちょうど昼時。ミカン畑の斜面でほっかむりをしたパートのジジババたちと昼飯弁当を食ってる頃だろう。

 こうして俺は、突然振り込まれた10万円の出所を探るべく、超久しぶりに実家へ電話をかけることにした。

「しかし、思ってみるもんだな、本当に金が降ってきた……」

 この時点ではそう考えたが、実はこの金、思わぬ所から降ってきていたのだった。
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