2 / 38
第2話 現実世界
しおりを挟む
俺は歩きながら親父のガラパゴス携帯へ電話をかけた。
少し戸惑いつつコール音を聞いていると、突然野太い声が聞こえてきた。
「おーひろきか! どーした電話なんか珍しいな!」
父親が出て突然俺の名を呼んだ。
オレオレ詐欺とは無縁な父の声の後ろで、元気に雑談してる母やパートの人達の笑い声が聞こえる。
「たまに声聞きたいなと思ってさ……」
「そうか嬉しいな、お前は元気でやってるか?」
「まぁボチボチやってるよ、親父も元気そうで何より」
「そっか、彼女くらいできたか?いるなら早く連れてこい」
「仲良くしてくれてる子はいるよ、そのうちな」
「お前が彼女連れてくるの楽しみにしてるからな、今年の夏は帰ってくるのか?」
「仕事がボチボチ忙しいからなぁ、まだちょっと分からないわ」
出て早々質問攻め、心配してくれてるんだな、と思いながら息を吐くように嘘をつく。だがこれは、親を心配させないための嘘なのでついてもいい嘘なのだ!
「そうかー、まぁ、いつでも遊びに来いな」
「わかったよ。それよりかーちゃんいる?」
「おーちょっとまってれ」
まぁバツが悪い。
大学を辞めてしまった俺に文句を言うわけでもなく、こんなにやさしい親父に、辞めてしまったうしろめたさがある手前、俺には仕送り再開やその理由、感謝や謝罪をこの親父に電話口で話すのは無理がある。
「あら、ひろきー元気にしてっかい?」
「体には気を付けてるよ、かーちゃ」
「こっちはピンピンしとるよーあはははは」
被せ気味に元気アピールをしてくる元気な母は父と違って話しやすい。
でも畑仕事は何気に重労働だ。母も歳だけに、息子に心配かけないよう無理に明るく振る舞っているようにも感じる。
親孝行……しないといけないよなぁ。
「そっか、元気そうでなにより」
しかし、雑談も悪くは無いんだが親が無料通話アプリを使ってない手前、電話代が嵩むのは避けたいので早々に本題に入ることにする。
「そいやさ、俺の口座に金送ってくれた?」
「はー? あんた大学辞めたんだからそんな事するわけないでしょ、それにそんなお金ある訳ないでしょ、なにあんた!悪い事でもしたんかい? アッハハハ」
よく笑う母だ。
「いや悪い事はしてないけど、なんか10万くらい振り込まれてたんだよ」
「さすが都会やね、もう振り込まれたんかい、こっちはまだで待ち遠しいわよ」
「ん? かーちゃんこの金、何か分かる?」
「あんたニュースくらい見んしゃいよ、あれでしょ、ベーシックなんとか」
「ほぁ? ベーシック? ……インカムの事?」
「そうそうそれ、今月から始まったっしょ?順次支給とかテレビでいっとったわ」
テレビなんかまったく見ないので知らなかった。
確かに噂では聞いていたが一ミリも思いつかなかった。
なんか色々政治家がギャーギャーやっているのは何となく気づいていた。
選挙にもいかず、テレビもみない、ニュースにも興味のない俺は、そんな話が進んでいることにまったく無頓着だったのだ。
そう言えばだいぶ前に申請書みたいな紙に口座を書いた記憶がうっすら残っている。あれがこれだったのか。
「そ、そうなのか! そっか。わかった有難う」
「あんた! 彼女はやく連れてきなさいよ」
「ああ、そのうちそうするよ。いや、それだけ聞きたかったんだ、ありがとな。かーちゃんも体に気をつけてな」
「そうかい? まぁこっちは大丈夫だから、あんたも無理しないで元気でね」
とりあえず聞きたいことは聞いた、電話代が嵩む前に早々に話を切り上げて電話を終わらせたが、心を込めた感謝や謝罪はまた別の機会になってしまった。
「そうか……ベーシックインカムが始まったのか……」
大学を中退し、今のバイトを始め引きこもり状態になって早1年半、元々大学に入ったのもキャンパスライフを楽しみたいとかそんな理由だったが、入って早々遊び惚けてしまった俺は世間から取り残されてしまった。
そもそも大学入学前から、テレビなんてものは見ていなかったのだ。
その後も期間工の様な職場を行き来しながらネットとゲームばかりしていた。
ネットとはいえ、興味のない事は調べることもせず一人世間から孤立している気持ちに自分なりの正義を多いかぶせて、俺は幸せだと言い聞かせていた。
そんな中降ってわいたようなベーシックインカム発動の大ニュース。
せっかくそれなりの大学に入っていたのに、引きこもって全てを棒に振っていた俺は、日本に起きた一大事を全く知らなかった訳だ。
複雑な心境だった。
両親の愛情に答えられない罪悪感と同時に、突然降ってきた大金で顔がにやけながら部屋へ戻り、俺はまた何もない冷蔵庫を開ける。
こうして俺は僅かな大金を手にし、世界の変化によって起こされる大きな波に飲み込まれていく事に、まだ何も気が付いてないのであった。
少し戸惑いつつコール音を聞いていると、突然野太い声が聞こえてきた。
「おーひろきか! どーした電話なんか珍しいな!」
父親が出て突然俺の名を呼んだ。
オレオレ詐欺とは無縁な父の声の後ろで、元気に雑談してる母やパートの人達の笑い声が聞こえる。
「たまに声聞きたいなと思ってさ……」
「そうか嬉しいな、お前は元気でやってるか?」
「まぁボチボチやってるよ、親父も元気そうで何より」
「そっか、彼女くらいできたか?いるなら早く連れてこい」
「仲良くしてくれてる子はいるよ、そのうちな」
「お前が彼女連れてくるの楽しみにしてるからな、今年の夏は帰ってくるのか?」
「仕事がボチボチ忙しいからなぁ、まだちょっと分からないわ」
出て早々質問攻め、心配してくれてるんだな、と思いながら息を吐くように嘘をつく。だがこれは、親を心配させないための嘘なのでついてもいい嘘なのだ!
「そうかー、まぁ、いつでも遊びに来いな」
「わかったよ。それよりかーちゃんいる?」
「おーちょっとまってれ」
まぁバツが悪い。
大学を辞めてしまった俺に文句を言うわけでもなく、こんなにやさしい親父に、辞めてしまったうしろめたさがある手前、俺には仕送り再開やその理由、感謝や謝罪をこの親父に電話口で話すのは無理がある。
「あら、ひろきー元気にしてっかい?」
「体には気を付けてるよ、かーちゃ」
「こっちはピンピンしとるよーあはははは」
被せ気味に元気アピールをしてくる元気な母は父と違って話しやすい。
でも畑仕事は何気に重労働だ。母も歳だけに、息子に心配かけないよう無理に明るく振る舞っているようにも感じる。
親孝行……しないといけないよなぁ。
「そっか、元気そうでなにより」
しかし、雑談も悪くは無いんだが親が無料通話アプリを使ってない手前、電話代が嵩むのは避けたいので早々に本題に入ることにする。
「そいやさ、俺の口座に金送ってくれた?」
「はー? あんた大学辞めたんだからそんな事するわけないでしょ、それにそんなお金ある訳ないでしょ、なにあんた!悪い事でもしたんかい? アッハハハ」
よく笑う母だ。
「いや悪い事はしてないけど、なんか10万くらい振り込まれてたんだよ」
「さすが都会やね、もう振り込まれたんかい、こっちはまだで待ち遠しいわよ」
「ん? かーちゃんこの金、何か分かる?」
「あんたニュースくらい見んしゃいよ、あれでしょ、ベーシックなんとか」
「ほぁ? ベーシック? ……インカムの事?」
「そうそうそれ、今月から始まったっしょ?順次支給とかテレビでいっとったわ」
テレビなんかまったく見ないので知らなかった。
確かに噂では聞いていたが一ミリも思いつかなかった。
なんか色々政治家がギャーギャーやっているのは何となく気づいていた。
選挙にもいかず、テレビもみない、ニュースにも興味のない俺は、そんな話が進んでいることにまったく無頓着だったのだ。
そう言えばだいぶ前に申請書みたいな紙に口座を書いた記憶がうっすら残っている。あれがこれだったのか。
「そ、そうなのか! そっか。わかった有難う」
「あんた! 彼女はやく連れてきなさいよ」
「ああ、そのうちそうするよ。いや、それだけ聞きたかったんだ、ありがとな。かーちゃんも体に気をつけてな」
「そうかい? まぁこっちは大丈夫だから、あんたも無理しないで元気でね」
とりあえず聞きたいことは聞いた、電話代が嵩む前に早々に話を切り上げて電話を終わらせたが、心を込めた感謝や謝罪はまた別の機会になってしまった。
「そうか……ベーシックインカムが始まったのか……」
大学を中退し、今のバイトを始め引きこもり状態になって早1年半、元々大学に入ったのもキャンパスライフを楽しみたいとかそんな理由だったが、入って早々遊び惚けてしまった俺は世間から取り残されてしまった。
そもそも大学入学前から、テレビなんてものは見ていなかったのだ。
その後も期間工の様な職場を行き来しながらネットとゲームばかりしていた。
ネットとはいえ、興味のない事は調べることもせず一人世間から孤立している気持ちに自分なりの正義を多いかぶせて、俺は幸せだと言い聞かせていた。
そんな中降ってわいたようなベーシックインカム発動の大ニュース。
せっかくそれなりの大学に入っていたのに、引きこもって全てを棒に振っていた俺は、日本に起きた一大事を全く知らなかった訳だ。
複雑な心境だった。
両親の愛情に答えられない罪悪感と同時に、突然降ってきた大金で顔がにやけながら部屋へ戻り、俺はまた何もない冷蔵庫を開ける。
こうして俺は僅かな大金を手にし、世界の変化によって起こされる大きな波に飲み込まれていく事に、まだ何も気が付いてないのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる