俺がいつのまにか勇者になるまで

カフェイン

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第2話 現実世界

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 俺は歩きながら親父のガラパゴス携帯へ電話をかけた。
 少し戸惑いつつコール音を聞いていると、突然野太い声が聞こえてきた。

「おーひろきか! どーした電話なんか珍しいな!」

 父親が出て突然俺の名を呼んだ。
 オレオレ詐欺とは無縁な父の声の後ろで、元気に雑談してる母やパートの人達の笑い声が聞こえる。

「たまに声聞きたいなと思ってさ……」

「そうか嬉しいな、お前は元気でやってるか?」
「まぁボチボチやってるよ、親父も元気そうで何より」

「そっか、彼女くらいできたか?いるなら早く連れてこい」
「仲良くしてくれてる子はいるよ、そのうちな」

「お前が彼女連れてくるの楽しみにしてるからな、今年の夏は帰ってくるのか?」
「仕事がボチボチ忙しいからなぁ、まだちょっと分からないわ」

 出て早々質問攻め、心配してくれてるんだな、と思いながら息を吐くように嘘をつく。だがこれは、親を心配させないための嘘なのでついてもいい嘘なのだ!

「そうかー、まぁ、いつでも遊びに来いな」
「わかったよ。それよりかーちゃんいる?」

「おーちょっとまってれ」

 まぁバツが悪い。

 大学を辞めてしまった俺に文句を言うわけでもなく、こんなにやさしい親父に、辞めてしまったうしろめたさがある手前、俺には仕送り再開やその理由、感謝や謝罪をこの親父に電話口で話すのは無理がある。

「あら、ひろきー元気にしてっかい?」
「体には気を付けてるよ、かーちゃ」
「こっちはピンピンしとるよーあはははは」

 被せ気味に元気アピールをしてくる元気な母は父と違って話しやすい。
 でも畑仕事は何気に重労働だ。母も歳だけに、息子に心配かけないよう無理に明るく振る舞っているようにも感じる。

 親孝行……しないといけないよなぁ。

「そっか、元気そうでなにより」

 しかし、雑談も悪くは無いんだが親が無料通話アプリを使ってない手前、電話代が嵩むのは避けたいので早々に本題に入ることにする。

「そいやさ、俺の口座に金送ってくれた?」

「はー? あんた大学辞めたんだからそんな事するわけないでしょ、それにそんなお金ある訳ないでしょ、なにあんた!悪い事でもしたんかい? アッハハハ」

よく笑う母だ。

「いや悪い事はしてないけど、なんか10万くらい振り込まれてたんだよ」
「さすが都会やね、もう振り込まれたんかい、こっちはまだで待ち遠しいわよ」

「ん? かーちゃんこの金、何か分かる?」
「あんたニュースくらい見んしゃいよ、あれでしょ、ベーシックなんとか」

「ほぁ? ベーシック? ……インカムの事?」
「そうそうそれ、今月から始まったっしょ?順次支給とかテレビでいっとったわ」

 テレビなんかまったく見ないので知らなかった。
 確かに噂では聞いていたが一ミリも思いつかなかった。
 なんか色々政治家がギャーギャーやっているのは何となく気づいていた。
 選挙にもいかず、テレビもみない、ニュースにも興味のない俺は、そんな話が進んでいることにまったく無頓着だったのだ。

 そう言えばだいぶ前に申請書みたいな紙に口座を書いた記憶がうっすら残っている。あれがこれだったのか。

「そ、そうなのか! そっか。わかった有難う」
「あんた! 彼女はやく連れてきなさいよ」

「ああ、そのうちそうするよ。いや、それだけ聞きたかったんだ、ありがとな。かーちゃんも体に気をつけてな」

「そうかい? まぁこっちは大丈夫だから、あんたも無理しないで元気でね」

 とりあえず聞きたいことは聞いた、電話代が嵩む前に早々に話を切り上げて電話を終わらせたが、心を込めた感謝や謝罪はまた別の機会になってしまった。

「そうか……ベーシックインカムが始まったのか……」

 大学を中退し、今のバイトを始め引きこもり状態になって早1年半、元々大学に入ったのもキャンパスライフを楽しみたいとかそんな理由だったが、入って早々遊び惚けてしまった俺は世間から取り残されてしまった。

 そもそも大学入学前から、テレビなんてものは見ていなかったのだ。

 その後も期間工の様な職場を行き来しながらネットとゲームばかりしていた。
 ネットとはいえ、興味のない事は調べることもせず一人世間から孤立している気持ちに自分なりの正義を多いかぶせて、俺は幸せだと言い聞かせていた。

 そんな中降ってわいたようなベーシックインカム発動の大ニュース。

 せっかくそれなりの大学に入っていたのに、引きこもって全てを棒に振っていた俺は、日本に起きた一大事を全く知らなかった訳だ。

 複雑な心境だった。

 両親の愛情に答えられない罪悪感と同時に、突然降ってきた大金で顔がにやけながら部屋へ戻り、俺はまた何もない冷蔵庫を開ける。

 こうして俺は僅かな大金を手にし、世界の変化によって起こされる大きな波に飲み込まれていく事に、まだ何も気が付いてないのであった。
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