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† 一の罪――堕天使斯く顕現す(弐)
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「おいあんた、んなことが許されると――」
「政府直属にゃゆるされんだよォ! ここァ日本だぞ。従わねェってのか?」
振り向きざまに俺の鼻先へ、赤銅色のトンファーが突きつけられた。先端には銃口が開いている。しかし、撃鉄がない――これもデスペルタル、なのか……?
「のっ、信雄……!」
慌てふためいて三条が駆け寄ってきた。
「ああ、あのメスガキかァ。結構いい女に育ってんな」
得物を解除すると、彼女の顎を掴む林原。
「おい、いい加減に――」
「……体制側と対立しても、なんも得はしないよ」
咄嗟に魔力推進で割って入ろうとしたが、多聞さんに片手で易々と制されてしまった。
「林原くん、そのくらいにしておいてもらえるかな。君も職務中だろう。女の子に気を取られて万が一のことがあったらどうするさ」
口調こそ普段の彼と同じく軽いものの、仲間でも息を呑む目力で前に出る。
「はん、俺がんなドジふむか。だいたい女だと思っていながら、んな仕事やらせてんならまた驚きだぜ」
しばらく睨み合っていたが、林原は溜息をつくと部屋を後にした。
「ほんっと、あの人あいかわらずほんとありえない……! ちょっと強いからって、なんなのあの態度」
ビルを出てからも、三条の苛立ちは収まらない。
「ま、コーヒーでも飲んで落ち着こう」
「さっすが隊長―、部下想いっすね」
「ま、もう隊長は桜花くんなんだけどねー。そして奢るとは言ってないけどねー」
数分前とは一変して、今は気が抜けた中年らしい、いつもの多聞さんに他ならなかった。
「……よくその歳でんな子供騙しな甘ったりーもん食えますね」
「大人騙しよりはマシじゃん。余計なオシャレ気どりで変なもの入れてないほうが好きなんだ」
目についたカフェでテーブルを囲む。
「……あの踏み込み、あいつも人間じゃ――それに、三条のこと知ってるっぽかったけど」
「あー、政府直属の武力警察、ヘルシャフト長官・林原政俊。うちの元五位の妖屠だよ。ほら、妖屠って怪魔の残滓が濃く残ってる被害者を実験にかけて、彼らを憎む心が強いとなれるじゃん? 組織を離れても、その想いがある限り、力は使い続けられるわけ」
「何が支配だか……厚顔無恥もこじらせると死に至る病だよ、まったく。国に支配されている側のくせして」
三条が嫌そうに付け加えた。
「……元ってことは――」
「まあ競争に敗れ去ったってことさ。自分のデスペルタルにキル・ザ・キングなんて名前つけちゃうような人だし、よく言えば上昇志向が強いから、挑まずにいられないんだよねー。ただ、あまりに相手が悪すぎた」
海外の支部だろうか? あのレベルに勝てる人間がいるなんて、つくづく恐ろしい組織だ。
「うちの世界ランカーでも最上位の七名――断罪の七騎士って、聞いたことあるよね。あの上位三人はもはや人間であって人間をやめてる」
「あー、使い魔も必要とせず、己の肉体と武器で戦うから騎士って呼ばれてんでしたっけ」
「まあ他にも使役しない派は多いよ。リスクあるからねー。悪魔召喚にいたっては禁じられてるし」
「んな代償がデカいんすか?」
「無名の悪魔ですら危険らしいからねー。おじさんも興味はあったんだけど、昔の同僚がさ、信玄餅を開けるときクシャミが出る呪い受けちゃって、もう無理だなって」
信玄餅なんて、数えるほどしか食べない気がする。
「七つの大罪にあたる悪魔は中でもエグいと言われてるね。アスモデウスは生殖機能、ベルフェゴールは信頼、マモンは金運を対価に持ってっちゃうんだって。ま、背伸びしても人間に御せるのはこれぐらいが限界らしいよ」
「……それ以上の悪魔は、なにを……?」
三条が恐る恐る尋ねた。不機嫌そうに口を閉ざしていたのかと思いきや、ケーキを食べるのに夢中だったらしい。
「ベルゼブブは魂。そして……史上最強の悪魔で地獄の頂点に君臨する魔王、ルシファーは――――」
「政府直属にゃゆるされんだよォ! ここァ日本だぞ。従わねェってのか?」
振り向きざまに俺の鼻先へ、赤銅色のトンファーが突きつけられた。先端には銃口が開いている。しかし、撃鉄がない――これもデスペルタル、なのか……?
「のっ、信雄……!」
慌てふためいて三条が駆け寄ってきた。
「ああ、あのメスガキかァ。結構いい女に育ってんな」
得物を解除すると、彼女の顎を掴む林原。
「おい、いい加減に――」
「……体制側と対立しても、なんも得はしないよ」
咄嗟に魔力推進で割って入ろうとしたが、多聞さんに片手で易々と制されてしまった。
「林原くん、そのくらいにしておいてもらえるかな。君も職務中だろう。女の子に気を取られて万が一のことがあったらどうするさ」
口調こそ普段の彼と同じく軽いものの、仲間でも息を呑む目力で前に出る。
「はん、俺がんなドジふむか。だいたい女だと思っていながら、んな仕事やらせてんならまた驚きだぜ」
しばらく睨み合っていたが、林原は溜息をつくと部屋を後にした。
「ほんっと、あの人あいかわらずほんとありえない……! ちょっと強いからって、なんなのあの態度」
ビルを出てからも、三条の苛立ちは収まらない。
「ま、コーヒーでも飲んで落ち着こう」
「さっすが隊長―、部下想いっすね」
「ま、もう隊長は桜花くんなんだけどねー。そして奢るとは言ってないけどねー」
数分前とは一変して、今は気が抜けた中年らしい、いつもの多聞さんに他ならなかった。
「……よくその歳でんな子供騙しな甘ったりーもん食えますね」
「大人騙しよりはマシじゃん。余計なオシャレ気どりで変なもの入れてないほうが好きなんだ」
目についたカフェでテーブルを囲む。
「……あの踏み込み、あいつも人間じゃ――それに、三条のこと知ってるっぽかったけど」
「あー、政府直属の武力警察、ヘルシャフト長官・林原政俊。うちの元五位の妖屠だよ。ほら、妖屠って怪魔の残滓が濃く残ってる被害者を実験にかけて、彼らを憎む心が強いとなれるじゃん? 組織を離れても、その想いがある限り、力は使い続けられるわけ」
「何が支配だか……厚顔無恥もこじらせると死に至る病だよ、まったく。国に支配されている側のくせして」
三条が嫌そうに付け加えた。
「……元ってことは――」
「まあ競争に敗れ去ったってことさ。自分のデスペルタルにキル・ザ・キングなんて名前つけちゃうような人だし、よく言えば上昇志向が強いから、挑まずにいられないんだよねー。ただ、あまりに相手が悪すぎた」
海外の支部だろうか? あのレベルに勝てる人間がいるなんて、つくづく恐ろしい組織だ。
「うちの世界ランカーでも最上位の七名――断罪の七騎士って、聞いたことあるよね。あの上位三人はもはや人間であって人間をやめてる」
「あー、使い魔も必要とせず、己の肉体と武器で戦うから騎士って呼ばれてんでしたっけ」
「まあ他にも使役しない派は多いよ。リスクあるからねー。悪魔召喚にいたっては禁じられてるし」
「んな代償がデカいんすか?」
「無名の悪魔ですら危険らしいからねー。おじさんも興味はあったんだけど、昔の同僚がさ、信玄餅を開けるときクシャミが出る呪い受けちゃって、もう無理だなって」
信玄餅なんて、数えるほどしか食べない気がする。
「七つの大罪にあたる悪魔は中でもエグいと言われてるね。アスモデウスは生殖機能、ベルフェゴールは信頼、マモンは金運を対価に持ってっちゃうんだって。ま、背伸びしても人間に御せるのはこれぐらいが限界らしいよ」
「……それ以上の悪魔は、なにを……?」
三条が恐る恐る尋ねた。不機嫌そうに口を閉ざしていたのかと思いきや、ケーキを食べるのに夢中だったらしい。
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