11 / 139
† 二の罪――我が背負うは、罪に染まりし十字架(参)
しおりを挟む多聞さんが差し出してきたガラス片に映っている自分に、言葉を失った。
銀に変色した髪は伸び、右眼も彼と同じく深い蒼を湛えている。あたかも俺がルシファーになってしまったかのようだが、その左眼は金色に明滅し、周囲の皮膚には孔雀の羽を思わせる紋様が焼き付いていた。
「どういう理屈なの…………」
「なんでもかんでも理屈で説明できたら、科学は宗教よりも多くの人から信仰されてるんじゃないかな。こんなにイメチェンして帰ったらみんな驚くだろうから、ヴィジュアル系バンドでも始めたってことにでもしてみればどうだい?」
「いやいや携帯も禁じられてるのにありえないでしょ」
「んなことより、とっとと立てよ。ちびったか?」
「へ……?」
俺の顔と差し伸べた手を、交互に凝視する三条。
「そ、そんなわけないもん……! 言われなくても立ちますーっ!」
そう言いつつも、口調とは裏腹にそっと握り返してきた。
「はは、若いっていいねー。ほら、後処理はなんとかしとくから、君はこの場を離れたほうがいい。幸い、彼はご丁寧に結界まで強化してくれてたみたいで、今のところバレてないと思うけどねー」
結界が解かれると、破壊された建物は元々なかった存在となる。外側に被害が皆無だったという事実を思い返して、これほどの大惨事を引き起こしてなお、彼が全力には遥か遠かったのだと実感させられた。
「お上には誤魔化しとくから二人は先に戻ってな。夜には傾向と対策を話し合おう。もちろん、お説教の後でね」
言われるとほどなく、ハッとしたように手を振りほどき、早足に歩き出す三条。苦笑いする上司に軽く挨拶し、俺も慌てて後を追った。
† † † † † † †
彼らが二手に分かれた後も、主役を奪われて久しい巨大電波塔から、並んで現場を眺望する二つの影。さすがに数キロも離れていては、多聞も気づかないようだ。
「ククク……いかがでしょうか? 地球の裏側よりいらしてみて」
鉄骨に腰かけて両足を揺らしつつ、粘着質の笑みを含ませて、群青色の外套を纏った優男が問いかける。
「フン。道化の悪趣味な遊戯だと思ってはいたが、少しは手応えがありそうじゃないか」
隣の威風堂々と佇立しながらも、子供のように軽やかな声の人物は紫煙を吐き出し、さらり、と――しかし、決して眼下から目を離すことなく述べた。
「それは何より。彼以外に、極東の地へわざわざお出でなさった理由ができたのなら――――」
栗色の長髪を靡かせて、座したまま男が続けた途端、稲妻のように殺気が奔る。
「……その減らず口、閉じられんなら手を貸すが」
煙管を口元より離し、横目で見遣る眼光は、刃物の如く鋭かった。
「おお怖い。命がいくつあっても足りなそうだ」
(……そういえば隊長、人外の力に頼ること、嫌ってたなあ――――)
降り始めた雨を、三条桜花は呆然と見つめている。
「彼が生還したことは喜ばしいが、同時に、遠い存在になってしまったことに対して複雑な気持ち――みたいな感じで合ってるかな、現隊長」
「……多聞さんは、いいんですか?」
背中越しに、彼女は尋ね返した。
「過去の事実は変えられない。だが、その意味なら未来で変えようがある――生きてりゃ絶望ぐらいするよ。そこで、そこから、そういうときこそ、この先どう動くかなんじゃないかな」
「またアドラー心理学ですか。変えたくても……その動くための力が、ぼくには――」
「強者ほど力に頼ってはいけない。暴力はさらなる暴力を生むだけだし」
「だから……頼る力もないんですよ、ぼくは! 多聞さんに近づこうとがんばってきたけど、多聞さんにとどくどころか、信雄にすら追い抜かれようとしている……!」
俯いて少女は喚く。
0
あなたにおすすめの小説
結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。
結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。
アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。
アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる