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† 二の罪――我が背負うは、罪に染まりし十字架(肆)
しおりを挟む「過去の事実は変えられない。だが、その意味なら未来で変えようがある――生きてりゃ絶望ぐらいするよ。そこで、そこから、そういうときこそ、この先どう動くかなんじゃないかな」
「またアドラー心理学ですか。変えたくても……その動くための力が、ぼくには――」
「強者ほど力に頼ってはいけない。暴力はさらなる暴力を生むだけだし」
「だから……頼る力もないんですよ、ぼくは! 多聞さんに近づこうとがんばってきたけど、多聞さんにとどくどころか、信雄にすら追い抜かれようとしている……!」
俯いて少女は喚く。
桜花は妖屠の殉職と補充に伴う各班再編で、指揮・育成のためと実働部隊から退かされた世界ランク九位の多聞に代わり、史上最年少の隊長となった。二代目隊長の十八位・桜花と副隊長の二十六位・信雄以外は、ランク外の新人妖屠五人に、仕事を回されていないエージェントたちを取ってつけただけの戦力。かつて多くのランカーたちを擁し、日本支部の中核をなしていたチーム多聞丸は、もはや過去のものだった。
「弱くちゃいけないのかい? 虫や草花だって懸命に生きてるんだ。弱くても生きようと最善を尽くす彼らに失礼だろう」
紫煙を吐き出すと、多聞は続ける。
「この世がオオバコ相撲だとしよう。いくら腕力があっても、拾ったオオバコがもろけりゃ切れちゃうよね。逆に非力なら非力なりのやり口があるんじゃないかな」
そう語る上司を、鉛色の横顔で流し見る彼女。
「ぼくに、卑怯者になれと……言うんですか――――」
煙草をくわえ直し、多聞は黙したまま場を後にした。
「……不味い――酒が不味い日はろくなことが起きん」
ミリタリーカラーのテーラードジャケットを羽織り、カウンターに身を預けて呟く男が一人。小柄で少年のように見える容貌ながら、落ち着いた組み合わせを着こなしている。
「隣に宜しいか」
是非に先んじて腰かけた相手もまだ十代のようだが、バーにいても違和感のないほどに大人びていた。正確には、浮世離れしている、と表したほうが適切だろう。
「……お前、ずいぶんと殺しているな」
向き直りもせず、煙管に手を添えると、男は問い返した。
「それも百や千なんて半端な数じゃない。わかるさ。職業柄、人殺しの匂いは見逃さない。だが、お前は殺し屋なんてものじゃないようだ……たとえば――人間とは異なる理に存在する者」
そう言って彼は、横に座った少年の影ができるはずであろう位置に目を落とす。
「そういえば今日、とある男により魔王とやらが召喚されたんだとよ」
煙管男は続けながら、揚げスパゲティの一本を手に取ると、くるくると回して差し出した。
「……悪魔は嫌いか?」
「ああ。いや、好きか嫌いかで言えば――戦ってみたい」
無口な後客からの質問に、今までの気だるげな声へ僅かに色を乗せて返答する。
「ほう。なれば貴様が出会えば――」
「この俺様とどちらが強いか、試してみたいもんだね」
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