討妖の執剣者 ~魔王宿せし鉐眼叛徒~ (とうようのディーナケアルト)

LucifeR

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† 九の罪――殺し屋殺し(漆)

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「くく、くっくっくっ……ふはははははは!」
 捕縛されたベリアルは、高らかに哄笑する。
「人間は動植物を殺し、食べるために管理しますねえ。さらに動物園、水族館などと見世物とする。自分たちも獣の一員に過ぎないということを忘れ、正しいと信じてやまない。人間こそが魔王」
 その言辞に、黙したまま多聞を眺めていた象山も口を開いた。
「他のあらゆる生物はバランスを保っているが、人間だけが生態系を崩す。結果どれ程の種を絶滅に追いやってきたか。この空をご覧あれ。これ程の星があるのに唯一、地球にのみ生物は存在を許された。地球によって生み出された人間が、母なる地球を滅ぼそうとしている等、理不尽な話と思われぬか? 理不尽は理不尽な力によって正されるものよ。自滅する愚かな人間をに裁きを下し、他の生物を救う――それが、人間という罪深き存在に生まれた私にできる罪滅ぼし」
「わたくしに言わせれば、そもそも人間だって動物と大差ありませんよ。男は女のことしか考えず、女が見ているのは金。強いオスについていかないとエサをいっぱい取って来てもらえませんからね。それを恋だの夢だのと飾り立てて高尚なものであるかのように語る猿の分際で虫や家畜を罪悪感もなしに殺す。では、その人間を殺していけないと誰が言えるのでしょうか。悪魔われらなき世と調子づいたようですが、どれだけ奇麗ごとを並べようが世界は弱肉強食に変わりない――――」
 悪魔は多聞を覗き込み、威圧的な低音で付け加える。
「しょせん肉なんだよ、お前たちは」
 象山は、満足気に包帯をほどき始めた。
「そして、死の前では如何なる人間とて平等。喜多村さん、貴殿は大陸で何を見てこられた。力が全て、これは揺るがぬ理だ」
 その風体を一瞥し、多聞は磔られたもう一人に告げる。
「……柚木くん、残念だ」
「私もです」
 柚木であったそれは、そう一言のみ返すと、栗毛の青年へと見る見るうちに姿を変え、拘束術式を四散させた。
「だからついて来るなって言ったんだけどね」
「部下にとり憑いた私への怒りを抑え、あくまで標的を仕留めるため一対一に持ち込む冷静で合理的な判断。さすがです」
 急激に室温が上昇してゆく。
「……少佐、貴方のそういうところ――大嫌いでした」
 言い放つとベリアルは、指先に灯った火を槍状に尖らせ、多聞に投擲した。薄暗い部屋は赤々と照らし出され、着弾した箇所から、さらに発火。瞬く間に、多聞は猛炎に呑まれた。紅蓮に染まる視界。
「こんなところで炎術か。こりゃー消火しないといけないなあ」
 火の海から呟きが発せられた直後、
「あ。火、借りたよ」
 一面の紅焔は途端に立ち消え、平然と煙草を手に、無傷の多聞が佇んでいた。
「おやおや、困りましたね。彼を焼却処分するまでに建物がなくなりかねない」
 驚いた様子もなく、ベリアルは無数の魔法陣を現出させる。
「我が結界を侮るな。地獄大公のもてる総てを解き放つこと、許可しよう」
 親指と人差し指で摘んだ怪しげに輝く指環をかざし、象山が宣言した。
「男子に二言なし。信じますよ」
 不敵な笑みを浮かべ、夥しい瘴気を立ち上らせる烈火の支配者。
「いやー、激しい運動は久々なんで――喫煙者にはこたえそうだ」
 多聞は一息つくと、煙草を携帯灰皿へと押し込み、ガンブレードに持ち替えた。


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