討妖の執剣者 ~魔王宿せし鉐眼叛徒~ (とうようのディーナケアルト)

LucifeR

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† 十六の罪――父の手(伍)

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「いいかい? お前自身で考え、決断し、行動するんだ。正しいと思う通りに生きろ。それが、僕からの最後の指令だ」
 消え去る間際、悲痛な表情の桜花に、彼は伝える。
「そんな……また多聞さんと生きたいって、ずっとずっと思ってたのに……!」
 彼女は必死に手を伸ばすが、もはや多聞の存在はなく――――
「僕は――お前の正義を、あっちから見ているよ」
 空虚なそらに、言葉と雪だけが残った。
 一同は、ただ黙したまま空間を眺めている。桜花もしばし、呆然と固まっていたが、一言、
「……さようなら、お父さんヒーロー――――」
 と、囁いた。


 閑静な部屋を、一筋の薄墨がゆったりと横切る。茅原は無機質な天井を仰いで、軽く溜息をついた。
「……まあ人間だからこそ、なにが起きるかわかったもんじゃないんだよねー」
 緩やかに身を乗り出し、無言で窓外に見入っている象山の耳元で続ける。
「誰もが人間の本質こたえを理解しようとして、かなわずに苦しむ。そして――人を超えることで手を伸ばすわけだね」
 彼は向き直ろうともしない。が、
「そう……あのときのキミのように」
 と、友が付け加えた刹那、包帯から垣間見えるその隻眼が、僅かに動いた。


「……遂に、この日が来てしまったか――――」
 仄暗い地下道に木霊する、青年の独白。
(来てしまった……? 何を憂うのだろう。人類の未来に至る道を拓く第一歩にして、不可欠の門出というに、何故こうも後ろ髪を引かれるのか? 覚悟も準備も決した以上、あとは我が魔道の果てに答えが示されるのみ)
 切れ長の両目を伏せ、自問する。
「そうやってとまどうのも人間の証だと、実感していたところかな?」
 聞き慣れた声に、彼は顔を上げた。
「登輝……!?」
 不敵に佇む影から、細く煙が流れている。
「ボクに黙ってぬけがけかい? ずっとがんばってた研究の成果を見せてくれないとは冷たいなー」
 そう呼びかけつつ革靴の音を反響させ、軽やかに近づいて顔を覗き込むと――――
「……やめなよ。キミには似合わないって」
 男は、低く告げた。
「いかに友の申し出といえど、退く訳にはいかない。人を超越せずして、人の世を救済には導けぬと、説いてきたではないか。我が悲願にかける想い――お前が最もよく存じている筈だ」
 静かに、しかし切実に訴えかける象山を正視する彼。
「だからこそ、だよ」
 そのまなざしは、あまりにも哀しげで、どこまでも真摯で、誰よりも強い意志で満ちていた。


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