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四話 夢
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「なぁ雪ちゃん」
どこかで聞いたような声が耳朶を打った。声をした方を見て、俺はこれは夢だと分かる。
全体的にぼやけた視界の中に、かつての俺とクラスメイトだろう人物が教室で話をしていた。
クラスメイトが気軽に話しかけ来ているという事は、転校生が来る前だろう。
「なーに、――。今お菓子食べるのに忙しんだけど。大事な話じゃないなら後でにしてよ」
ノイズが掛かって相手の名前が聞き取れない。この人は誰なのだろう。金髪だという事しかよくわからない。
「ひどっ、酷いわ雪ちゃん。でもそんな所もええわぁ」
「五月蠅い似非関西人。で? 話は何?」
「結局話は聞いてくれるんよね、雪ちゃんは。あんな……」
そこで俺は夢から覚めた。
「なんだったんだろ……今の」
かつての友と復讐対象以外で1000年前の事を思い出すことなどなかったのに。
「ここに、来たからなのか……?」
1000年前の事を思い出さなかったというのは、少し語弊がある。思い出さなかったのではない、思い出せなかったのだ。
俺にとっての大事は、復讐と自分の大切な存在の者達。それ以外はどうでもよかったし、それ以外考える余裕すらなかった。
人間を一時期恨んでいた当時なら尚更。いざ落ち着いた時には記憶は風化していた。
俺は思い出していくのだろうか。かつてのクラスメイトのことなど、復讐対象である瀬那 隼人と転校生、そしてかつての友である晴明しか知らない。
いくら余裕がなかったとは言え、忘れたという事はたいしたことのない存在なのだろう。
夢に出てきた金髪の男が少し引っかかりながらも、俺は自己完結する。
時計を見ると時刻は7時。後30分で晴明がくる。
のそのそとベッドから降り、俺は身支度する。
髪は主様から貰った紫色の髪結い紐で項の辺りでくくる。
そろそろ晴明が来る時刻なため、俺はスクールバッグをもって戸締りをする。
カードキーをブレザーのポケットに仕舞っていると、タイミング良く晴明が来た。
「おはよ、晴明」
「あぁ、おはよう。早いな、まだ寝ていると思っていたんだが」
晴明がそう言うのも無理はない。俺の寝起きは最悪なため、起こされない限り目は覚めない。
「まぁ、そういう時もあるでしょ。晴明、朝ご飯は食べてきた?」
「食べたが……そういうお前はどうなんだ?」
「知ってるでしょ、妖怪にとって人間の飲食なんてただの嗜好品でしかないの」
「知ってるが、お前どうするんだ? 朝と夕飯は寮で自炊ってことでも大丈夫だろうが昼はそうもいかないだろ」
晴明の言葉に納得する。流石に一人でこの広い学園をお昼の時だけふらふらするのは気が引ける。絶対に迷子になって帰れないなくなりそうだ。
かと言って晴明と食べるにしても一人だけで晴明に食べさせるのも気が引ける。
「適当に何かつまむよ」
「いくら腹が減っていないからと言ってケーキだけっていうのは無しだからな」
「うぐっ」
何でわかってしまうのだろう。嗜好品は嗜好品らしく手軽に楽しみたかったというのに。
これも長年の付き合いの所為だろうか。伊達に数十年友ではないからな。
「この学園は無駄に広いから時間がかかる。そろそろ行くぞ」
晴明に促され俺も歩みを進める。
長年の友と考えていると、ふと思った。
「そう言えばさ、晴明」
「なんだ?」
「ここにあいつ等もいるの?」
すると晴明は視線をずらして無言になった。
その様子にいるのだろうと確信した。かつての友たちが。
なんとなく確信していた。晴明と出会った時のような既視感を、あいつ等にも感じていた。
一人は遠目でしか見たことがなかったため、確信は持てなかったがもう一人は自信を持ってご先祖様に違いないと晴明と同様に思っていた。
「何で黙ってたの」
じっと晴明を見つめると、晴明は気まずそうにおずおずと口を開いた。
「だって……、言ったら雅斗はすぐにあいつ等の所にいって俺から離れるだろ?」
とても不安げな顔に、俺は思わず吹きそうになった。なんて恥ずかしいことを言うんだこのワンコは。
もはやクールキャラじゃないだろう、ただの大型のワンコだと思わず突っ込みたくなった。
抑えていたつもりだったが笑いが口から零れてしまう。
「クッ、大丈夫だ。そんなことはないから安心しろ。俺の予想が当たっているなら、あいつ等ってそんなにクラスメイトの晴明ほど身近じゃないでしょ」
俺の予想が正しければ、一人は結構な規模の親衛隊持ちだ。関われば制裁対象になりかねない。もう一人も人気が高い。それに俺よりも年上の立場にいるだろうし授業でしか関わる機会は少ないかもしれないのだから。
「そうか? 雅斗なら問題がない気がするが」
つまり予想は当たっているようだった。
ぐちぐちと未だ何か言っているが、俺は右から左に通す。
校舎ではチラチラと視線を感じながらも気にしないようにする。きっと晴明に気がある奴らだろう。
時々野太い男の興奮した声が聞こえたが気にしない。俺は何も聞いていないと自身に言い聞かせる。
漸く職員室に着き、風紀委員会の用事がある晴明と教室でまた話す約束をして別れる。
とりあえず、職員室のドアをノックして入る。
「失礼します。今日から転校することになっている烏丸 雅斗です。担任の先生はいますか?」
勿論この台詞は京なまりだ。
「俺だ」
声のした方を見て、俺は思わず笑みが零れた。
「やっぱり、かもっちゃんやわ」
「誰がかもっちゃんだ、誰が」
出席簿らしい薄いファイルで軽く頭をはたかれるも全く痛くない。
やはり変わらない。雪斗の担任の教師だった賀茂 雅幸。
「じゃあ、忠行って呼んだ方がええ?」
そしてかつての友である、賀茂 忠行。彼がその人に違いない。
髪の色は1000年前より明るいし、見た目もホストっぽくなっているが、それ以外は忠行そのものだった。
「忠行はやめてくれ、忠行は。雅幸でいい」
やはり本人だった。
「今のホストみたいな格好にその名前はあわひんしね」
「ホストって、おい……」
目を座らせながらも雅幸は苦笑した。
「お前こそその訛りはどうした」
「俺、京都出身何で」
俺はにやりと笑みを浮かべた。何か企んでいる風に見ただろう。
「まぁ何にせよ、おかえり。雅斗。この時がくるのを首を長くしてまっていたよ」
そう俺の耳元で囁く。久々に聞く雅幸の声は低くて心地良い。
「……っ?!」
ふいに、耳に柔らかい何かがふれぞわっとする。ちゅっ、というリップ音を立ててそれは離れた。
思わず雅幸から身を引いて、俺は触れられた左耳を抑える。じっと睨み付けるも、きっと顔は真っ赤になっているから効果はないだろう。
「なっ、なにすんの!」
「ハハッ、相変わらず耳が弱いな雅斗。ほら、ぼうっとすんな。そろそろ行くぞ。もう少しでホームルームの時間だ」
誰のせいだと思わず言いそうになるも、職員室で騒ぐわけもいかないため黙って雅幸についていく。
クラスは2-Aと書かれていた。
呼ばれたら入ってくるようにと指示をされ、俺はドアの前に立つ。
中から聞こえてくる声は騒がしい。
「キャー先生抱いてー!」
「先生! 転校生って美人? それともイケメン?!」
はて、ここに女子はいただろうか。そう思ってしまうくらいの黄色い声が野太い声に交じって聞こえてくる。
1000年振り過ぎて気おくれしてしまう。
「静かにしろーお前ら。……ほら、烏丸入ってこい」
やる気のない声は教師であった頃から変わらないが、烏丸と呼ばれることに新鮮に思う。
ドアを開けて入ると、辺りは静まり返った。
思わずたじろぎそうになりながらも、何とか教卓の所までいき、雅幸の隣に立つ。
隣の雅幸は苦笑していた。
「おら、お前ら。お前らが見惚れすぎて烏丸が困ってるぞ」
すると固まっていた空気が再び流れる。するとどっと声が上がる。
「肌白! マジ美人!」
「どこの化粧水つかってるの?!」
「動作が優雅すぎるんだけど! 姫って呼んでもいい?!」
「つーか抱きてぇ!」
「僕は抱いてほしい!」
あまりの勢いに俺は雅幸の後ろに思わず隠れる。
誰かこれを収拾する人はいないのだろうか。頼みの綱の晴明も、まだ風紀委員会の用事が終わっていないのかいなかった。
隣の雅幸も面倒くさいという顔をして頼りになりそうにない。さっき見たいに鎮めてくれると一番助かるのだけれど。
ここは自分で何とかするしかあるまい。
俺は雅幸の背中から出て静かに口を開いた。
「えっと……」
聞こえるか怪しかったが、クラスメイト達はすぐさま聞き取り口を閉じた。興奮の色は収まっていなかったけれど、聞こうという姿勢が窺われた。
「京都の高校から転校してきました、烏丸 雅斗といいます。よろしゅうお願いします」
にこりとサービスで微笑む。雪斗の時よりは多少顔も良いから、お目汚しにはならないだろう。
すると「うおぉぉお!」と野太い声が上がる。
あぁ、サービスをしなければ良かったと後悔しても後の祭りである。
「烏丸、お前の席は窓際の後ろから3つめの席だ。おい夏目、烏丸はまだ教科書が届いていないから見せてやってくれ」
「まかせときぃ」
金髪の、一見チャラいイケメンがこちらに手を振ってきた。
俺もそれに返すように微笑む。
自分の席に着き、俺は隣のそいつを見る。
「よろしゅうな。俺、夏目 翔って言うねん。翔って呼びぃ」
そういうと、何故か翔は綺麗な鳶色の瞳で俺をじっと見つめてきた。それに既視感を覚え、不思議に思いながらも俺は言葉を返す。
「こちらこそよろしゅう。俺も雅斗でええよ。まさか関西出身の人がいると思わんかったわぁ」
「俺? 関西出身ちゃうよ。俺似非関西人なんよ」
「……え?」
「いやぁ、ほんまもんの訛りはちゃうなぁ。やっぱりほんまもんには敵わへん。それともただ単に京なまりと違うだけなんかなぁ。雰囲気ちゃうわ」
関心したように言う翔に思わず唖然とする俺。
俺の反応が面白のかくすくすと笑う翔はとんでもない事を俺の耳元で囁いた。
「久しぶりに会えて嬉しいで、雪ちゃん」
俺は思わず息を呑み、ただ翔を見つめる事しかできなかった。
どこかで聞いたような声が耳朶を打った。声をした方を見て、俺はこれは夢だと分かる。
全体的にぼやけた視界の中に、かつての俺とクラスメイトだろう人物が教室で話をしていた。
クラスメイトが気軽に話しかけ来ているという事は、転校生が来る前だろう。
「なーに、――。今お菓子食べるのに忙しんだけど。大事な話じゃないなら後でにしてよ」
ノイズが掛かって相手の名前が聞き取れない。この人は誰なのだろう。金髪だという事しかよくわからない。
「ひどっ、酷いわ雪ちゃん。でもそんな所もええわぁ」
「五月蠅い似非関西人。で? 話は何?」
「結局話は聞いてくれるんよね、雪ちゃんは。あんな……」
そこで俺は夢から覚めた。
「なんだったんだろ……今の」
かつての友と復讐対象以外で1000年前の事を思い出すことなどなかったのに。
「ここに、来たからなのか……?」
1000年前の事を思い出さなかったというのは、少し語弊がある。思い出さなかったのではない、思い出せなかったのだ。
俺にとっての大事は、復讐と自分の大切な存在の者達。それ以外はどうでもよかったし、それ以外考える余裕すらなかった。
人間を一時期恨んでいた当時なら尚更。いざ落ち着いた時には記憶は風化していた。
俺は思い出していくのだろうか。かつてのクラスメイトのことなど、復讐対象である瀬那 隼人と転校生、そしてかつての友である晴明しか知らない。
いくら余裕がなかったとは言え、忘れたという事はたいしたことのない存在なのだろう。
夢に出てきた金髪の男が少し引っかかりながらも、俺は自己完結する。
時計を見ると時刻は7時。後30分で晴明がくる。
のそのそとベッドから降り、俺は身支度する。
髪は主様から貰った紫色の髪結い紐で項の辺りでくくる。
そろそろ晴明が来る時刻なため、俺はスクールバッグをもって戸締りをする。
カードキーをブレザーのポケットに仕舞っていると、タイミング良く晴明が来た。
「おはよ、晴明」
「あぁ、おはよう。早いな、まだ寝ていると思っていたんだが」
晴明がそう言うのも無理はない。俺の寝起きは最悪なため、起こされない限り目は覚めない。
「まぁ、そういう時もあるでしょ。晴明、朝ご飯は食べてきた?」
「食べたが……そういうお前はどうなんだ?」
「知ってるでしょ、妖怪にとって人間の飲食なんてただの嗜好品でしかないの」
「知ってるが、お前どうするんだ? 朝と夕飯は寮で自炊ってことでも大丈夫だろうが昼はそうもいかないだろ」
晴明の言葉に納得する。流石に一人でこの広い学園をお昼の時だけふらふらするのは気が引ける。絶対に迷子になって帰れないなくなりそうだ。
かと言って晴明と食べるにしても一人だけで晴明に食べさせるのも気が引ける。
「適当に何かつまむよ」
「いくら腹が減っていないからと言ってケーキだけっていうのは無しだからな」
「うぐっ」
何でわかってしまうのだろう。嗜好品は嗜好品らしく手軽に楽しみたかったというのに。
これも長年の付き合いの所為だろうか。伊達に数十年友ではないからな。
「この学園は無駄に広いから時間がかかる。そろそろ行くぞ」
晴明に促され俺も歩みを進める。
長年の友と考えていると、ふと思った。
「そう言えばさ、晴明」
「なんだ?」
「ここにあいつ等もいるの?」
すると晴明は視線をずらして無言になった。
その様子にいるのだろうと確信した。かつての友たちが。
なんとなく確信していた。晴明と出会った時のような既視感を、あいつ等にも感じていた。
一人は遠目でしか見たことがなかったため、確信は持てなかったがもう一人は自信を持ってご先祖様に違いないと晴明と同様に思っていた。
「何で黙ってたの」
じっと晴明を見つめると、晴明は気まずそうにおずおずと口を開いた。
「だって……、言ったら雅斗はすぐにあいつ等の所にいって俺から離れるだろ?」
とても不安げな顔に、俺は思わず吹きそうになった。なんて恥ずかしいことを言うんだこのワンコは。
もはやクールキャラじゃないだろう、ただの大型のワンコだと思わず突っ込みたくなった。
抑えていたつもりだったが笑いが口から零れてしまう。
「クッ、大丈夫だ。そんなことはないから安心しろ。俺の予想が当たっているなら、あいつ等ってそんなにクラスメイトの晴明ほど身近じゃないでしょ」
俺の予想が正しければ、一人は結構な規模の親衛隊持ちだ。関われば制裁対象になりかねない。もう一人も人気が高い。それに俺よりも年上の立場にいるだろうし授業でしか関わる機会は少ないかもしれないのだから。
「そうか? 雅斗なら問題がない気がするが」
つまり予想は当たっているようだった。
ぐちぐちと未だ何か言っているが、俺は右から左に通す。
校舎ではチラチラと視線を感じながらも気にしないようにする。きっと晴明に気がある奴らだろう。
時々野太い男の興奮した声が聞こえたが気にしない。俺は何も聞いていないと自身に言い聞かせる。
漸く職員室に着き、風紀委員会の用事がある晴明と教室でまた話す約束をして別れる。
とりあえず、職員室のドアをノックして入る。
「失礼します。今日から転校することになっている烏丸 雅斗です。担任の先生はいますか?」
勿論この台詞は京なまりだ。
「俺だ」
声のした方を見て、俺は思わず笑みが零れた。
「やっぱり、かもっちゃんやわ」
「誰がかもっちゃんだ、誰が」
出席簿らしい薄いファイルで軽く頭をはたかれるも全く痛くない。
やはり変わらない。雪斗の担任の教師だった賀茂 雅幸。
「じゃあ、忠行って呼んだ方がええ?」
そしてかつての友である、賀茂 忠行。彼がその人に違いない。
髪の色は1000年前より明るいし、見た目もホストっぽくなっているが、それ以外は忠行そのものだった。
「忠行はやめてくれ、忠行は。雅幸でいい」
やはり本人だった。
「今のホストみたいな格好にその名前はあわひんしね」
「ホストって、おい……」
目を座らせながらも雅幸は苦笑した。
「お前こそその訛りはどうした」
「俺、京都出身何で」
俺はにやりと笑みを浮かべた。何か企んでいる風に見ただろう。
「まぁ何にせよ、おかえり。雅斗。この時がくるのを首を長くしてまっていたよ」
そう俺の耳元で囁く。久々に聞く雅幸の声は低くて心地良い。
「……っ?!」
ふいに、耳に柔らかい何かがふれぞわっとする。ちゅっ、というリップ音を立ててそれは離れた。
思わず雅幸から身を引いて、俺は触れられた左耳を抑える。じっと睨み付けるも、きっと顔は真っ赤になっているから効果はないだろう。
「なっ、なにすんの!」
「ハハッ、相変わらず耳が弱いな雅斗。ほら、ぼうっとすんな。そろそろ行くぞ。もう少しでホームルームの時間だ」
誰のせいだと思わず言いそうになるも、職員室で騒ぐわけもいかないため黙って雅幸についていく。
クラスは2-Aと書かれていた。
呼ばれたら入ってくるようにと指示をされ、俺はドアの前に立つ。
中から聞こえてくる声は騒がしい。
「キャー先生抱いてー!」
「先生! 転校生って美人? それともイケメン?!」
はて、ここに女子はいただろうか。そう思ってしまうくらいの黄色い声が野太い声に交じって聞こえてくる。
1000年振り過ぎて気おくれしてしまう。
「静かにしろーお前ら。……ほら、烏丸入ってこい」
やる気のない声は教師であった頃から変わらないが、烏丸と呼ばれることに新鮮に思う。
ドアを開けて入ると、辺りは静まり返った。
思わずたじろぎそうになりながらも、何とか教卓の所までいき、雅幸の隣に立つ。
隣の雅幸は苦笑していた。
「おら、お前ら。お前らが見惚れすぎて烏丸が困ってるぞ」
すると固まっていた空気が再び流れる。するとどっと声が上がる。
「肌白! マジ美人!」
「どこの化粧水つかってるの?!」
「動作が優雅すぎるんだけど! 姫って呼んでもいい?!」
「つーか抱きてぇ!」
「僕は抱いてほしい!」
あまりの勢いに俺は雅幸の後ろに思わず隠れる。
誰かこれを収拾する人はいないのだろうか。頼みの綱の晴明も、まだ風紀委員会の用事が終わっていないのかいなかった。
隣の雅幸も面倒くさいという顔をして頼りになりそうにない。さっき見たいに鎮めてくれると一番助かるのだけれど。
ここは自分で何とかするしかあるまい。
俺は雅幸の背中から出て静かに口を開いた。
「えっと……」
聞こえるか怪しかったが、クラスメイト達はすぐさま聞き取り口を閉じた。興奮の色は収まっていなかったけれど、聞こうという姿勢が窺われた。
「京都の高校から転校してきました、烏丸 雅斗といいます。よろしゅうお願いします」
にこりとサービスで微笑む。雪斗の時よりは多少顔も良いから、お目汚しにはならないだろう。
すると「うおぉぉお!」と野太い声が上がる。
あぁ、サービスをしなければ良かったと後悔しても後の祭りである。
「烏丸、お前の席は窓際の後ろから3つめの席だ。おい夏目、烏丸はまだ教科書が届いていないから見せてやってくれ」
「まかせときぃ」
金髪の、一見チャラいイケメンがこちらに手を振ってきた。
俺もそれに返すように微笑む。
自分の席に着き、俺は隣のそいつを見る。
「よろしゅうな。俺、夏目 翔って言うねん。翔って呼びぃ」
そういうと、何故か翔は綺麗な鳶色の瞳で俺をじっと見つめてきた。それに既視感を覚え、不思議に思いながらも俺は言葉を返す。
「こちらこそよろしゅう。俺も雅斗でええよ。まさか関西出身の人がいると思わんかったわぁ」
「俺? 関西出身ちゃうよ。俺似非関西人なんよ」
「……え?」
「いやぁ、ほんまもんの訛りはちゃうなぁ。やっぱりほんまもんには敵わへん。それともただ単に京なまりと違うだけなんかなぁ。雰囲気ちゃうわ」
関心したように言う翔に思わず唖然とする俺。
俺の反応が面白のかくすくすと笑う翔はとんでもない事を俺の耳元で囁いた。
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