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就職
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私の話を聞き終えた領主様は恐ろしい表情をなさっていた。
「その従兄を逮捕出来るぞ?」
「父の兄家族にそんなことは出来ません。私がいなくなれば解決します。
賃貸も考えましたが、部屋を借りて住所を教えない訳にはいきません。教えたら従兄は押しかけるでしょう。邪魔する者がいない分 危険なのです」
「だが、強姦は犯罪だ」
「私は純潔です。…昨夜は手で慰めろと。明日の夜は口を使えと…だから直ぐに住み込みで働きたかったのです」
「看病は出来るんだな?他には?」
「凝ったものは作れませんが料理です。後は刺繍と繕い物でしたら」
「ボケてしまった女性の世話は可能か?」
「それは初めてですので教えて頂かないと。それによく分かりませんので出来ますとお答えすることができません。お仕事でしたらやれるだけのことはいたします」
「では、今から荷物を纏めに行くぞ」
「はい?」
「気が変わって今夜ということもある。最後までしたくなって理性が飛ぶかもしれない。それに夜に引っ越すのは不自然だ。
急遽住み込みが決まって明日から働いてもらうと私が言いに行けば誰も反対出来ない。どうする?」
「お病気の方のお家は近いのですか?」
「近い」
「よろしくお願いします」
領主様が馬車を回してくださり、宿屋の前に停車させた。
領主様は先に降りて手を差し伸べてくださった。
宿屋に入ると伯母さんが領主様を見て驚いた。
「りょ、領主様!?」
「ご主人を呼んで欲しい」
「はい、直ぐに」
呼びに行かせるとすぐに伯父さんが駆けつけた。
「領主様っ、何か」
「実は、介護の手が足りなくてね。町役場に行ったら丁度彼女が職探しに来ていたのだよ。朝からでも働けるというので、急だがお願いしたんだ。今から引っ越すので彼女に荷物をまとめさせたい」
「そうでしたか。
アイリーン、部屋に行って急いで荷物を纏めなさい」
「はい」
急いで荷物を纏めに行った。少しすると領主様が部屋まで来て荷物を運ぶのを手伝ってくださった。
「では、彼女は連れて行くよ」
「よろしくお願いします」
「あの、アイリーンの職場は何処でしょう」
「私の屋敷だ」
え!?領主様のお屋敷!?
「アイリーンは貴族様のお屋敷に勤めた経験はございませんが」
「母が病気で、世話をする人が足りないんだよ。1人じゃないから大丈夫だ。彼女も承知している」
「伯父さん、伯母さん、数日でしたがありがとうございました」
「たまには手紙を書きなさい」
「はい。では失礼します」
「アイリーン?」
ビクッ
聞きたくない声に血の気が引いていく。
「ライル、領主様の前よ」
「ようこそ領主様。
アイリーン、荷物を持って何処へ?」
「アイリーンは仕事が決まって引っ越すのよ」
「宿に居ればいいじゃないか!俺が養うって言ってるのに!」
「ライル!」
「いい加減にしないか!」
「ライル。もう彼女は雇用契約書を交わしているんだ。止めることはできない。
君は彼女の親でも夫でもない。適切な距離を取りたまえ。いくら従兄妹でも距離感を間違えると破滅を招くぞ」
「っ!」
「りょ、領主様、ようこそ」
「彼女は?」
「息子の妻のケイトです」
「ライル。妻がいるのなら尚更だ。妻を大事にするといい。では失礼。アイリーン、行くぞ」
「はい」
怖かった…
馬車が走り出すとやっと深く息を吸えた。
「怖かったな」
「領主様がいらしてくださったので助かりました。ありがとうございます」
「執着が酷そうだな。
外出は独りでは出さない。私の許可を取りなさい。あの男が面会に来ても理由を付けて断らせる。会わせるとしても一対一では会わせない。分かったね?」
「はい…」
「ホッとしたか?」
「すみません…泣いてばかりで」
「泣きたくもなるさ。ゆっくり元気になればいい」
「ありがとうございます」
少しして大きなお屋敷が見えてきた。
「あれが私の屋敷だ」
「本当に私なんかが働かせていただいてもよろしいのでしょうか」
「私の目に狂いはない。君なら立派にやっていけるよ」
「頑張ります」
今度こそやり直せますように。
「その従兄を逮捕出来るぞ?」
「父の兄家族にそんなことは出来ません。私がいなくなれば解決します。
賃貸も考えましたが、部屋を借りて住所を教えない訳にはいきません。教えたら従兄は押しかけるでしょう。邪魔する者がいない分 危険なのです」
「だが、強姦は犯罪だ」
「私は純潔です。…昨夜は手で慰めろと。明日の夜は口を使えと…だから直ぐに住み込みで働きたかったのです」
「看病は出来るんだな?他には?」
「凝ったものは作れませんが料理です。後は刺繍と繕い物でしたら」
「ボケてしまった女性の世話は可能か?」
「それは初めてですので教えて頂かないと。それによく分かりませんので出来ますとお答えすることができません。お仕事でしたらやれるだけのことはいたします」
「では、今から荷物を纏めに行くぞ」
「はい?」
「気が変わって今夜ということもある。最後までしたくなって理性が飛ぶかもしれない。それに夜に引っ越すのは不自然だ。
急遽住み込みが決まって明日から働いてもらうと私が言いに行けば誰も反対出来ない。どうする?」
「お病気の方のお家は近いのですか?」
「近い」
「よろしくお願いします」
領主様が馬車を回してくださり、宿屋の前に停車させた。
領主様は先に降りて手を差し伸べてくださった。
宿屋に入ると伯母さんが領主様を見て驚いた。
「りょ、領主様!?」
「ご主人を呼んで欲しい」
「はい、直ぐに」
呼びに行かせるとすぐに伯父さんが駆けつけた。
「領主様っ、何か」
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「そうでしたか。
アイリーン、部屋に行って急いで荷物を纏めなさい」
「はい」
急いで荷物を纏めに行った。少しすると領主様が部屋まで来て荷物を運ぶのを手伝ってくださった。
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「よろしくお願いします」
「あの、アイリーンの職場は何処でしょう」
「私の屋敷だ」
え!?領主様のお屋敷!?
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「伯父さん、伯母さん、数日でしたがありがとうございました」
「たまには手紙を書きなさい」
「はい。では失礼します」
「アイリーン?」
ビクッ
聞きたくない声に血の気が引いていく。
「ライル、領主様の前よ」
「ようこそ領主様。
アイリーン、荷物を持って何処へ?」
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「宿に居ればいいじゃないか!俺が養うって言ってるのに!」
「ライル!」
「いい加減にしないか!」
「ライル。もう彼女は雇用契約書を交わしているんだ。止めることはできない。
君は彼女の親でも夫でもない。適切な距離を取りたまえ。いくら従兄妹でも距離感を間違えると破滅を招くぞ」
「っ!」
「りょ、領主様、ようこそ」
「彼女は?」
「息子の妻のケイトです」
「ライル。妻がいるのなら尚更だ。妻を大事にするといい。では失礼。アイリーン、行くぞ」
「はい」
怖かった…
馬車が走り出すとやっと深く息を吸えた。
「怖かったな」
「領主様がいらしてくださったので助かりました。ありがとうございます」
「執着が酷そうだな。
外出は独りでは出さない。私の許可を取りなさい。あの男が面会に来ても理由を付けて断らせる。会わせるとしても一対一では会わせない。分かったね?」
「はい…」
「ホッとしたか?」
「すみません…泣いてばかりで」
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「ありがとうございます」
少しして大きなお屋敷が見えてきた。
「あれが私の屋敷だ」
「本当に私なんかが働かせていただいてもよろしいのでしょうか」
「私の目に狂いはない。君なら立派にやっていけるよ」
「頑張ります」
今度こそやり直せますように。
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