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せっかくの機会だから
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「分かってる。だが 好きな女を戦場へ向かわせる夫はいない」
ウィリアム様は真剣に私に訴えていた。
「ナディア様をお守りください。リタ、付いてきてくれる?」
「私の最優先事項はイレーヌ様の安全です。限界が見えましたらイレーヌ様を連れて逃げます。宜しいですね?」
リタを私の嫁ぎ先に連れてくる際、約束事があった。
ある程度のことは容認するが、対処しきれないほどの身の危険を感じたらリタの指示に従うこと。
気絶させてでも従わせますと言われた。
「分かっているわ」
守るにも限度があって、四方八方から矢を放たれたり四方八方を火の海にされたり、複数の手練れが襲ってきたり、対処しきれないほどの人数に襲われたら2人じゃどうにもならない。
予測が難しかった危険ならまだしも、予測できる 若しくは自ら危険に飛び込んで怪我をしたり命を落とせばリタが罪に問われてしまう。
私はブクリエ国王の妹の娘。その私を守れなければ、良くても貴族王族から雇用されることを禁じられ、最悪は死刑。
「もう…イレーヌ様ったら」
抱き付くと、リタは私の背中を撫でた。
リタはテーブルの上に地図を広げ、ゾルディアがどう攻め入ったのか予想し始めた。
ゾルディアは西 ルフレーは東で隣接している。
その2国を挟むように南にブクリエ 北にエルドラドが隣接している。
「ゾルディアが送り込んだ兵士が国境警備兵に紛れているのなら、ここのゲートから招き入れた可能性を疑うべきでしょう。だとすると、こちらから向かえばバロス城にもあの渓谷にも行く道に繋がります。馬車で通るのは難しい道ですが馬なら可能です。ここに小さな村があります。ここまで馬車を入れ拠点として騎馬兵をバロス城や渓谷に向かわせることが可能です。
当たりなら侵入に長けた者がバロス城を襲撃に来ます」
「ウィリアム様、出入口を封鎖して城壁の兵士を増やしてください。
城壁の上で火を焚き 大鍋で熱湯を作ってください」
「どうするのだ」
「剣は接近戦です。その前に熱湯を上からかけて弱らせます。突然熱湯が降ってくると思いませんから上を向いて登って来た者は顔面に受けるでしょう。目に火傷を負えば合格、さらに落ちて戦闘不能になれば最高です。それを潜り抜けた兵に弓を放ちます。何ヶ所かで焚いてください」
「分かった。指示しよう」
ウィリアム様が近衞騎士にバロス辺境伯への言伝を指示した後、ナディア様と地下に向かってもらった。
リタと急いで部屋に戻り服を着替えて装備を身に付けた。全ての矢尻に毒を塗る。
身体を麻痺させ呼吸困難を引き起こす植物毒、触れるだけで焼け爛れる植物毒、そして心臓を止めてしまう植物毒のブレンドに、更に糞尿を混ぜて塗った。矢尻の形は細長いが六つの返しが付いた特注品だ。ちゃんと刺されば強い力で引き抜く必要があり肉を引き裂いてしまう。内臓なら最悪だ。切開して抜くにも大きく開かなくてはならないし、毒の攻撃が待っている。そして不衛生な汚物が感染症を引き起こし命を取るか腐らすか。
かなり非道な武器になるが相手は命を狙っているのだから問題ない。逃げられても毒矢で確実に仕留めるためだ。
ビス卿を連れて城壁の上で下を観察した。
「イレーヌ様、あちらから来ます」
近くの兵士を集めた。
「皆 これは学習の場でもあるの。今のところ大軍で城攻めをしているわけではないから、慌てずにね。
梯子を用意していたら、ある程度まで登らせてから梯子を倒して。怪我をしたら登れなくなるから。
鉤縄の場合は先ず、熱湯をかけてみましょう。ゆっくりダラダラと顔に目掛けてかけてね。それでも落ちない場合は弓の練習に使いましょう。熱湯をかける人はメイドでもかまいません。かける役目の人の隣から射る準備をしましょう。ある程度の腕の持ち主は私が指名する場所を狙ってね。
ビス卿は近くで弓の引き方など参考にするように。途中で実践させるから」
目を輝かせた兵士達は弓の扱いが上手い順に並んだ。
熱湯かけ役に志願したのは料理人ジャンだった。そしてベテランメイドが数名。
“熱湯のプロです”と自負していた。
梯子が二台かけられた。同時に幾つかの鉤縄が投げられ、登ってくる。
「イレーヌ妃殿下、沸たった油ではダメなのですか?」
「掃除が大変だし、この人数だから遊びたいの。沸騰した油では早く決着がついて練習用の的にならないもの」
「かしこまりました」
そういうと、煮えたぎる熱湯をポットに移し登ってきた兵士に垂らした。
「ギャア!!」
「あつっ!!」
「うわっ!!」
「ぐあっ!!」
次々と登って来た敵兵が落ちていく。
「ジャンさん、すごいわ。見事に目に注いでいるわね」
「プロですから」
「あ、次の人は手にしてもらえない?
弓の練習をさせたいの」
「かしこまりました」
「貴方が一番上手いのよね?鼻を狙ってみて」
「お任せを」
片手にかけて怯んだところに矢を放つ。
「ぐあっ!!」
鼻に当たって落ちていった。
「さすがだわ。お名前は?」
「ウェスと申します」
「ウェス卿、今日、貴方に弓の先生をしてもらうわ。他の皆にも優しく教えてあげて。そうね、後3人は狙ったところに当たるまで。残りの人は体のどこかに矢が刺さって落ちたら合格よ」
「お任せください」
ジャンが熱湯を垂らし ウェス卿が弓の指導をしている間にも何度か梯子を倒していた。
「リタ、侵入は?」
「ございません。念のため、門はかんぬきの他に土嚢を積みました。間に盾を並べましたので土嚢袋を剣で破かれることはありません」
「では私達は遠くの獲物を狙いましょう。多分アレがリーダー格じゃない?」
「指示を出していますのでそうでしょう」
「私は左の側近らしき男とその後ろの2人の男の額を射抜くわ。リタはリーダー格の腿を狙って。左右の脚に射れたらお願い」
「かしこまりました」
私とリタで、城壁から離れたところで指示を出していた4人を射抜いた。
リーダー格の腿には左右一本ずつ矢が刺さり、抜こうとしたが抜けず、そのまま逃げていったが、少し進んだところで倒れた。
しっかり毒が効いてしまったようだ。
100名以上の敵兵を片付けた。
半分近く生き残っているが、高所から落ちているため、瀕死の者も多い。幸運な者は打ち身と重度の捻挫と毒無しの矢傷だけ。バロス辺境軍の矢は普通の矢で毒は塗っていないから当たりどころが悪くない限り生きていた。
バロス辺境伯親子は軍を率いて国境にいるので、城を任された責任者に、生き残りから情報を聞き出すようお願いした。
ウィリアム様は真剣に私に訴えていた。
「ナディア様をお守りください。リタ、付いてきてくれる?」
「私の最優先事項はイレーヌ様の安全です。限界が見えましたらイレーヌ様を連れて逃げます。宜しいですね?」
リタを私の嫁ぎ先に連れてくる際、約束事があった。
ある程度のことは容認するが、対処しきれないほどの身の危険を感じたらリタの指示に従うこと。
気絶させてでも従わせますと言われた。
「分かっているわ」
守るにも限度があって、四方八方から矢を放たれたり四方八方を火の海にされたり、複数の手練れが襲ってきたり、対処しきれないほどの人数に襲われたら2人じゃどうにもならない。
予測が難しかった危険ならまだしも、予測できる 若しくは自ら危険に飛び込んで怪我をしたり命を落とせばリタが罪に問われてしまう。
私はブクリエ国王の妹の娘。その私を守れなければ、良くても貴族王族から雇用されることを禁じられ、最悪は死刑。
「もう…イレーヌ様ったら」
抱き付くと、リタは私の背中を撫でた。
リタはテーブルの上に地図を広げ、ゾルディアがどう攻め入ったのか予想し始めた。
ゾルディアは西 ルフレーは東で隣接している。
その2国を挟むように南にブクリエ 北にエルドラドが隣接している。
「ゾルディアが送り込んだ兵士が国境警備兵に紛れているのなら、ここのゲートから招き入れた可能性を疑うべきでしょう。だとすると、こちらから向かえばバロス城にもあの渓谷にも行く道に繋がります。馬車で通るのは難しい道ですが馬なら可能です。ここに小さな村があります。ここまで馬車を入れ拠点として騎馬兵をバロス城や渓谷に向かわせることが可能です。
当たりなら侵入に長けた者がバロス城を襲撃に来ます」
「ウィリアム様、出入口を封鎖して城壁の兵士を増やしてください。
城壁の上で火を焚き 大鍋で熱湯を作ってください」
「どうするのだ」
「剣は接近戦です。その前に熱湯を上からかけて弱らせます。突然熱湯が降ってくると思いませんから上を向いて登って来た者は顔面に受けるでしょう。目に火傷を負えば合格、さらに落ちて戦闘不能になれば最高です。それを潜り抜けた兵に弓を放ちます。何ヶ所かで焚いてください」
「分かった。指示しよう」
ウィリアム様が近衞騎士にバロス辺境伯への言伝を指示した後、ナディア様と地下に向かってもらった。
リタと急いで部屋に戻り服を着替えて装備を身に付けた。全ての矢尻に毒を塗る。
身体を麻痺させ呼吸困難を引き起こす植物毒、触れるだけで焼け爛れる植物毒、そして心臓を止めてしまう植物毒のブレンドに、更に糞尿を混ぜて塗った。矢尻の形は細長いが六つの返しが付いた特注品だ。ちゃんと刺されば強い力で引き抜く必要があり肉を引き裂いてしまう。内臓なら最悪だ。切開して抜くにも大きく開かなくてはならないし、毒の攻撃が待っている。そして不衛生な汚物が感染症を引き起こし命を取るか腐らすか。
かなり非道な武器になるが相手は命を狙っているのだから問題ない。逃げられても毒矢で確実に仕留めるためだ。
ビス卿を連れて城壁の上で下を観察した。
「イレーヌ様、あちらから来ます」
近くの兵士を集めた。
「皆 これは学習の場でもあるの。今のところ大軍で城攻めをしているわけではないから、慌てずにね。
梯子を用意していたら、ある程度まで登らせてから梯子を倒して。怪我をしたら登れなくなるから。
鉤縄の場合は先ず、熱湯をかけてみましょう。ゆっくりダラダラと顔に目掛けてかけてね。それでも落ちない場合は弓の練習に使いましょう。熱湯をかける人はメイドでもかまいません。かける役目の人の隣から射る準備をしましょう。ある程度の腕の持ち主は私が指名する場所を狙ってね。
ビス卿は近くで弓の引き方など参考にするように。途中で実践させるから」
目を輝かせた兵士達は弓の扱いが上手い順に並んだ。
熱湯かけ役に志願したのは料理人ジャンだった。そしてベテランメイドが数名。
“熱湯のプロです”と自負していた。
梯子が二台かけられた。同時に幾つかの鉤縄が投げられ、登ってくる。
「イレーヌ妃殿下、沸たった油ではダメなのですか?」
「掃除が大変だし、この人数だから遊びたいの。沸騰した油では早く決着がついて練習用の的にならないもの」
「かしこまりました」
そういうと、煮えたぎる熱湯をポットに移し登ってきた兵士に垂らした。
「ギャア!!」
「あつっ!!」
「うわっ!!」
「ぐあっ!!」
次々と登って来た敵兵が落ちていく。
「ジャンさん、すごいわ。見事に目に注いでいるわね」
「プロですから」
「あ、次の人は手にしてもらえない?
弓の練習をさせたいの」
「かしこまりました」
「貴方が一番上手いのよね?鼻を狙ってみて」
「お任せを」
片手にかけて怯んだところに矢を放つ。
「ぐあっ!!」
鼻に当たって落ちていった。
「さすがだわ。お名前は?」
「ウェスと申します」
「ウェス卿、今日、貴方に弓の先生をしてもらうわ。他の皆にも優しく教えてあげて。そうね、後3人は狙ったところに当たるまで。残りの人は体のどこかに矢が刺さって落ちたら合格よ」
「お任せください」
ジャンが熱湯を垂らし ウェス卿が弓の指導をしている間にも何度か梯子を倒していた。
「リタ、侵入は?」
「ございません。念のため、門はかんぬきの他に土嚢を積みました。間に盾を並べましたので土嚢袋を剣で破かれることはありません」
「では私達は遠くの獲物を狙いましょう。多分アレがリーダー格じゃない?」
「指示を出していますのでそうでしょう」
「私は左の側近らしき男とその後ろの2人の男の額を射抜くわ。リタはリーダー格の腿を狙って。左右の脚に射れたらお願い」
「かしこまりました」
私とリタで、城壁から離れたところで指示を出していた4人を射抜いた。
リーダー格の腿には左右一本ずつ矢が刺さり、抜こうとしたが抜けず、そのまま逃げていったが、少し進んだところで倒れた。
しっかり毒が効いてしまったようだ。
100名以上の敵兵を片付けた。
半分近く生き残っているが、高所から落ちているため、瀕死の者も多い。幸運な者は打ち身と重度の捻挫と毒無しの矢傷だけ。バロス辺境軍の矢は普通の矢で毒は塗っていないから当たりどころが悪くない限り生きていた。
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