【完結】偽りの婚約のつもりが愛されていました

ユユ

文字の大きさ
4 / 11

六人目の婚約者

しおりを挟む
夜会から1週間。
突き返した釣書は8件になっていた。
さすがに文句でも言いたいのだろうか、レティシアの妊娠を知った日からずっと部屋食にしていたが、食堂に来いと呼ばれてしまった。

チラッとカーテンレールを見ると修理が終わっていた。

レティシアはニコニコと機嫌がいい。

「エレノア」

「はい」

「嫁ぎ先が決まった」

「はい?」

「今回は断ることは許されない」

「何故でしょう」

「公爵家からの申し込みだからだ」

「は?」

子爵令嬢で五人から婚約解消されたキズモノにあり得ない。よっぽど難ありなのだろうか。

ふと視界に入っていたレティシアの顔が歪んだことに気が付いた。

「お父様、お姉様が可哀想ですわ!公爵家なんてお姉様が苦労なさいます!」

「レティシア、子爵家うちはお断り出来る立場にないのだよ」

そうか…レティシアはわざと私の婚約者達を誑かしてきたのね。
レティシアの婚約していた人は男爵家の跡継ぎ。嫁いでも未来の男爵夫人にしかなれないものね。

このまま実家にいれば 自分に甘い両親に守ってもらえるし、未来の子爵夫人だもの。
私の歴代の婚約者の中で、アルフレッドは一番身分が高い。伯爵家より身分が上の婿養子なんて平凡な家門に来てくれるわけがない。
だからアルフレッドに体を許して避妊薬も飲まなかったのね。
伯爵家の後ろ盾を得てケンドル子爵家を継げるから。

レティシアには婚約者がいた。
幼い頃 顔の良い男爵家の令息と結婚したいと言ったレティシアの希望を叶えた婚約だったけど、成長していくにつれて身分が気になり出したのね。

一人目の私の元婚約者がレティシアを好きになったのは偶然だったはず。だけどその時に男の心は自分に靡くことを知ってしまったのだろう。

レティシアは遊び半分で私の婚約者にアプローチして婚約を解消させてきたけど、伯爵令息のアルフレッドと既成事実に踏み切った。


「当主様、その縁談 お引き受けします」

死ぬ前にレティシアの悔しがる顔を見ることができそうだと知った私は 偽ることにした。

「分かった。返事を出そう」

「次の婚約者との顔合わせの時や交流などはレティシアのいない場所でお願いします」

「酷い!」

「人のものを欲しがる強欲な娘ですもの。また手癖の悪さが出ては困りますわ。相手は公爵家、レティシアは姉の元婚約者の子を胎に宿しているのですもの。これ以上はまずいと分かりますわよね?当主様」

「…分かった」

「お父様!!」

「その“当主様”と呼ぶのは止めなさい」

「嫌です。当主としての権限を行使したその時から、お父様ではなく当主様です。

先に申し上げておきますが、もし次の婚約者の前にレティシアが現れた瞬間に私は何をするか分かりません。そのおつもりで。では失礼します」

「お姉様!!」

食堂を出て私室に戻った。

あ…どの公爵家か聞かなかったわ。まあ、いいか。



翌日、王都の法律相談所に来ていた。

「初めまして、ロビン・バトワーズと申します」

「エレノア・ケンドルと申します」

「本日はどのようなご相談で?」

「実は…」

これまでのことを全部話した。

「酷い」

「妹からも慰謝料を取れますか?」

「過去の分は無理ですね。妹さんに非がある証拠がありませんので。ですが今回の分は証拠があり本人達が認めています。それに妹さんは成人していますので請求できますが、あまりお勧めはしません」

「何故ですか」

「かなりの醜聞になる可能性がありますし、ご実家で暮らしている以上、大きな波風は避けた方がよろしいのでは?」

「家族ではないと悟ったので大丈夫です。いざとなったら貴族令嬢をやめればいいだけです。
元婚約者と妹から搾り取れるだけ搾り取ってください。搾り取った慰謝料の6割を先生が成功報酬として受け取ってかまいません」

「本気ですか!?」

「もちろんです。私は裏切りの代償を搾り取って 躾けたいだけなのです。そのためなら悪女と呼ばれようが狂ってると言われようが全くかまいません」

「かしこまりました。お任せください」



屋敷に戻るとお母様から婚姻契約書を交わす日を告げられた。

「ねえ、あれからレティシアがずっと塞ぎ込んでいるの。仲直りできない?」

「それを言う前に、ふしだらな娘を躾け直してはいかがですか」

「エレノア!」

「四人も婚約者を奪って、五人目は寝取って妊娠して跡継ぎの座も奪った狡猾な女と仲良くしなくてはならないのですか?お母様、本気で仰っているのなら正気ではありませんよ?心のお医者様に診ていただいたらいかがですか?」

バチン!

「っ!」

バチン!

「きゃあっ!」

頬を叩かれたので叩き返した。

「あ、あなた、母親の私になんてことを!」

「やられたから やり返しただけです。
暴力を振るうような偽淑女には、同じことをしないと」

「お、お父様に、」

「どうぞ。公爵家との顔合わせは明日の昼。
私はあなたから叩かれて赤くなった頬と、これからあなたの告げ口によって当主様から殴られて腫れた顔のまま、公爵家の皆様にお会いしますわ。
これまでの仕打ちを事細かに説明させていただきます」

「し、仕打ちだなんて…」

「いいですか?公爵家の跡継ぎと婚約するということは、私は未来の公爵夫人です。あなた方は?」

「っ!」

「立場を弁えてくださいね」

そう言ってお母様を部屋から追い出した。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)婚約解消は当然でした

青空一夏
恋愛
エヴァリン・シャー子爵令嬢とイライジャ・メソン伯爵は婚約者同士。レイテ・イラ伯爵令嬢とは従姉妹。 シャー子爵家は大富豪でエヴァリンのお母様は他界。 お父様に溺愛されたエヴァリンの恋の物語。 エヴァリンは婚約者が従姉妹とキスをしているのを見てしまいますが、それは・・・・・・

【完結】婚約破棄?勘当?私を嘲笑う人達は私が不幸になる事を望んでいましたが、残念ながら不幸になるのは貴方達ですよ♪

山葵
恋愛
「シンシア、君との婚約は破棄させてもらう。君の代わりにマリアーナと婚約する。これはジラルダ侯爵も了承している。姉妹での婚約者の交代、慰謝料は無しだ。」 「マリアーナとランバルド殿下が婚約するのだ。お前は不要、勘当とする。」 「国王陛下は承諾されているのですか?本当に良いのですか?」 「別に姉から妹に婚約者が変わっただけでジラルダ侯爵家との縁が切れたわけではない。父上も承諾するさっ。」 「お前がジラルダ侯爵家に居る事が、婿入りされるランバルド殿下を不快にするのだ。」 そう言うとお父様、いえジラルダ侯爵は、除籍届けと婚約解消届け、そしてマリアーナとランバルド殿下の婚約届けにサインした。 私を嘲笑って喜んでいる4人の声が可笑しくて笑いを堪えた。 さぁて貴方達はいつまで笑っていられるのかしらね♪

お姉様のお下がりはもう結構です。

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。 慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。 「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」 ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。 幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。 「お姉様、これはあんまりです!」 「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」 ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。 しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。 「お前には従うが、心まで許すつもりはない」 しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。 だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……? 表紙:ノーコピーライトガール様より

【完結】誕生日に花束を抱えた貴方が私にプレゼントしてくれたのは婚約解消届でした。

山葵
恋愛
誕生日パーティーの会場に現れた婚約者のレオナルド様は、大きな花束を抱えていた。 会場に居る人達は、レオナルド様が皆の前で婚約者であるカトリーヌにプレゼントするのだと思っていた。

エデルガルトの幸せ

よーこ
恋愛
よくある婚約破棄もの。 学院の昼休みに幼い頃からの婚約者に呼び出され、婚約破棄を突きつけられたエデルガルト。 彼女が長年の婚約者から離れ、新しい恋をして幸せになるまでのお話。 全5話。

婚約する前から、貴方に恋人がいる事は存じておりました

Kouei
恋愛
とある夜会での出来事。 月明りに照らされた庭園で、女性が男性に抱きつき愛を囁いています。 ところが相手の男性は、私リュシュエンヌ・トルディの婚約者オスカー・ノルマンディ伯爵令息でした。 けれど私、お二人が恋人同士という事は婚約する前から存じておりましたの。 ですからオスカー様にその女性を第二夫人として迎えるようにお薦め致しました。 愛する方と過ごすことがオスカー様の幸せ。 オスカー様の幸せが私の幸せですもの。 ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

【本編完結】笑顔で離縁してください 〜貴方に恋をしてました〜

桜夜
恋愛
「旦那様、私と離縁してください!」 私は今までに見せたことがないような笑顔で旦那様に離縁を申し出た……。 私はアルメニア王国の第三王女でした。私には二人のお姉様がいます。一番目のエリーお姉様は頭脳明晰でお優しく、何をするにも完璧なお姉様でした。二番目のウルルお姉様はとても美しく皆の憧れの的で、ご結婚をされた今では社交界の女性達をまとめております。では三番目の私は……。 王族では国が豊かになると噂される瞳の色を持った平凡な女でした… そんな私の旦那様は騎士団長をしており女性からも人気のある公爵家の三男の方でした……。 平凡な私が彼の方の隣にいてもいいのでしょうか? なので離縁させていただけませんか? 旦那様も離縁した方が嬉しいですよね?だって……。 *小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

その令嬢は祈りを捧げる

ユウキ
恋愛
エイディアーナは生まれてすぐに決められた婚約者がいる。婚約者である第一王子とは、激しい情熱こそないが、穏やかな関係を築いていた。このまま何事もなければ卒業後に結婚となる筈だったのだが、学園入学して2年目に事態は急変する。 エイディアーナは、その心中を神への祈りと共に吐露するのだった。

処理中です...