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アシルと息子達

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【 アシルの視点 】


妻とは家格をみて父上が決めた婚姻だった。
旧家の侯爵家の長女で美しくどこか冷たかった。

彼女にとっては全て義務だった。

閨事も子を作るときだけでいいし、楽しもうなどと考えずに早く注いで終わらせて欲しいと遠回しに言われた。

社交も義務。不要と思うものには出席しない。
観劇などもせず、タウンハウスと実家に篭りがちだった。買い物は商人を呼び、高価なものを選ぶ。

息子達は乳母や教師任せで関心がない。

そして領地嫌い。期間は短いが寒い冬のある領地を嫌がって王都から離れたがらなかった。

妻は、三男が成人して就職すると離縁を望んだ。

まだ早いがそれを機に長男ブノワに爵位を渡した。
領地運営については離縁前に妻がブノワの妻に、私がブノワに一度引き継ぎをした。

領地に来いと言ったが、理由を付けて王都に居続け、用事があって来たとしてもすぐに帰ってしまう。
まあ、少しくらいいいかと結局今日まで来てしまった。


そんな中で領地にやって来たサラはとても若かった。馬車から降りるサラに手を伸ばしたが、何故か握られ、どうしていいのか全く分からず そのまま応接間まで歩くことになった。

応接間に着くと事態に気が付いたサラの顔は青くなった後に赤くなった。

可愛い。
そう思ってしまった。

彼女は思っていたより本気で穏やかで社交をしない生活を望んでいた。
それに正直だ。調査を入れたから全て知っていた。
令息とのことも包み隠さず答えた。

社交が全く無いわけではない。
それについては少し困惑していた。
だが、よくよく考えたら、今社交は一人でやっている。サラを娶っても一人で行けばいいかと思い直した。

作法もしっかりしてるし、美人というほどではないが可愛らしい顔だと思う。スタイルも悪くない。
相手の令息は遊んでいたと聞いた。この子に全く手を付けなかったのだろうか。

迎える前は断るだろうと思っていたが、もう少し一緒に話していたかった。
領内の見学を始めると、サラは喜んで興味を示す。それがとても嬉しかった。
メイドのコニーにも優しく接するし、店の従業員にも感じよくする。

宝飾店でも遠慮し、コニーの分を自分で買うと言い出した。

「個人資産がありますからご心配なく」

別れた妻とは真逆の子だった。


サラの実家から手紙が来てその生活は終わった。
数えれば約20日間も引き留めていた。

私の心は決まった。
サラの気が変わらないうちにさっさと婚約してしまおうと一緒に王都へ向かった。

無事に婚約したはいいが、両家の顔合わせで露見したのは息子達の気持ちだった。

息子はサラに公爵家に嫁ぐのは相応しくないと言ってしまった。

伯爵一家は微笑みを崩さない。だがそれは作った表情なのは分かっている。

息子がサラに嫌な話を振る中、サラは大きな一石を投じた。

『領地のことをなさるのは公爵の役割の一つで、だとすると、仰っているような役割を任されるのは公爵夫人ではありませんか?相応しいと思う方を娶られたのですよね?
何故、爵位を渡して隠居なさったアシル様が領地で働いているのでしょうか。何故後妻に役目を任せようとするのでしょうか。
もし私がその役目をこなせたら、女主人は私になってしまうと思うのです』

ブノワとエリザベスは目を見開き、ドナルドは口を開けたまま固まった。

確かにサラは貴族の社交には向かない。直球過ぎる。だが私はそんなサラが好きだと改めて確信した。



イリザス伯爵一家が帰った後、サルファール邸は荒れた。

ブ「父上、私は反対です。サルファール家に相応しくありません」

エ「そうですわ。あれではお義父様の伴侶は務まりませんわ」

ド「秀でた部分などないクセに、偉そうに」

私「どうしても嫌か」

ド「あり得ませんよ」

エ「とても受け入れられませんわ」

ブ「若い女を迎えたいなら、もっと従順で役に立つ女性を探させます。あそこまで若くはないでしょうが、もっと美人がいるはずです」

私「ブノワ。私が若い女の体目当てに再婚をしようとしている色ボケジジイに見えるのか?」

ブ「い、いえ、そういうわけでは」

私「お前達の気持ちはよく分かった」

ブ「じゃあ、断りの手紙を出しておきます」

私「契約通り、100日後にサラを妻にする。サルファールに迷惑をかけないようにするから安心してくれ」

エ「お義父様、あの子はサルファール家の財産を狙っているのです」

ド「私より若い後妻なんてどうかしています」

私「だが、お前達よりもすべきことを理解していたぞ?

エリザベス。イリザス伯爵家はかなりの富豪だ。サラに個人資産まで与えている。その額は君の持参金の30倍を超える。滅多なことを口に出すな。
侮辱というよりは鼻で笑われるぞ」

エ「そんな」

私「それにサラは貴族の務めの一つを果たしている。君がしていない慈善活動だ。いつになったらやるんだ?」

エ「そ、それは」

私「それに領民や使用人達とも打ち解けている。エリザベスは足元にも及ばないだろうな」

エ「っ!」

私「ブノワ。3日後に領地へ連れて行く。3ヶ月で引き継ぎをするぞ。全ての予定にキャンセルをいれろ」

ブ「父上!?」

私「私は完全に引退する。今後一切領地運営に携わることはない。公爵であるブノワの役目だし、エリザベスも女主人として領地でも役目を果しなさい」

ブ「そんな、急に」

私「何年猶予をやったと思っているんだ。
補佐達がいれば大丈夫だ。やれないことはない。

爵位を渡すときの約束は守ってもらうぞ。運営の仕方や領民や親類との関わり方を先代と変わらない方法でやることだ。それが条件だったからな。
守らねば契約不履行で爵位を返してもらい、サルファールから出て行ってもらう」

ブ「あんまりです!」

私「公爵位だって相応しい者しか継げないのだよ。
息子だから継いで、領地のことは人任せなんて許されるわけがない。

私は別邸に移りサラと隠居生活をしながら見張ることにした。お前達の言葉で いかに私が甘かったのか痛感したよ。イリザス伯爵達の前で醜聞を晒してしまった。

ドナルド。お前は屋敷を出ろ。爵位を貰って領地の一部を受け持つことを拒んで城務めの文官になったんだ。他の者達と一緒に城にある文官用の部屋に移り住め」

ド「父上、ここは私の実家でもあるのですよ」

私「そうか。ならブノワに面倒をみてくれと頼め。
ブノワが公爵でいる間だけだけどな。ブノワの子が継いだら居られないぞ」

ド「っ!」

私「エリザベス。公爵夫人の役目を果たしてくれ。
サルファール家は対価を払っているんだ。夫人の予算分の働きはしてもらわないと。今のままでは不十分過ぎる。嫌なら離縁して実家に戻れ。いつまでも若い令嬢のように王都でパーティだの茶会だのと浮かれているな。

ブノワ。離縁が難しいならもう一人娶って女主人をさせろ」

エ「お義父様!」

私「私は無茶を言っていないし、皆知っていたことだろう。
公爵位を継いだらどうなるのか、公爵家の長男に嫁いだらどうなるのか分かりきっていたじゃないか。
相応しいお前達を選んだのだから当然やれるよな」

ブ「すみませんでした。エリザベスと領地へ向かいます」

私「拠点が領地になるから引越しと同等の積荷となるだろう。早く始めた方がいいぞ」


エリザベスが王都にいたがったのは分かっている。
だが、サラに不相応な役割を解くなら、2人には相応の役割をこなしてもらわなければならない。





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