【完結】愛で結ばれたはずの夫に捨てられました

ユユ

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動植物への癒し

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オプリーズ家に来て3日目の朝、エプロンを付けて朝食の手伝いをした。手伝いといってもカトラリーやコップを並べ、花瓶の花の水を入れ替えただけ。刃物や火を使うのはここの生活に慣れたら教えると言われた。

もう既にダニエルさんの仕事は始まっていて、馬房の掃除、飼い付け(エサ)、健康チェックを終えていた。

「本当に泣かないわね」

「はい、息子がぐずると目が覚めますから、すぐに対応すれば泣き声を上げることなくまた眠ってくれます」

「歩けるようになったら家の中が明るくなるわ」

「物を壊さないか心配です」

「壊れては駄目なものは小さな子が手の届かない場所に置くようにするから大丈夫よ」

「外に出す時だけはレイシアが付きっきりで見てくれ。危険だし、馬は高価だし高貴な方から預かっている馬もいるからね。時間を決めて散歩をしてくれ」

「わかりました、ありがとうございます」

お世話になる身なので、ダニエルさんとマーガレットさんとヘレンさんには、私が貴族だったことは忘れて居候として扱っ欲しいとお願いをしていた。

「食後の片付けが終わったら外を案内しよう。うちが何を営んでいるか説明したい」

「はい、よろしくお願いします」

食後は食器を洗ってダニエルさんと外に出た。少しずつ冬入りして空気が変わり始めている。

「うちはね、血統馬に子を産ませて育てて調教して売っているんだ。裕福な平民から王族まで馬を収めているよ。愛馬として購入する方もいれば軍用馬として購入する方もいる。
調教済みの馬を見て購入を決める方もいれば、生まれる前から予約する方もいる。
あっちの柵の中は現役を退いた軍馬だ。寿命を終えるまでここで面倒を見るんだよ。向こうの柵の中は怪我をしたり、精神的に不安定になってしまった馬が療養しているんだ。戦闘に連れて行かれて傷を負うのは人間だけじゃないからね。もちろん預かりは有料だ。
馬の世話の手伝いを本当にやるのかい?」

「はい、婚家の馬のお世話を少しだけお手伝いしました。エサをあげたりブラッシングしたりした程度ですが」

「では大人しい老馬から試してみよう。その前に犬舎に行こう」

犬舎に行くと大型から中型の犬が4匹いた。

「この子達は馬を守る番犬だ。獣から守り馬泥棒からも守ってくれる。レイシアの存在を覚えさせよう」

柵越しから1匹ずつ挨拶をした。
犬は尻尾を激しく振りながら近寄り甘えた声を出す。手を近付けると舐めだした。

「すごいな、この子達は知らない人にはまず唸るのに」

そうか、私が動植物の治癒師だと知らないものね。
私を餌と思っていない動物の場合、必ず歓迎される。何もしなくても彼らは本能でだと感じ取っているのだと思う。

「いい子ね。あら、少しじっとして。
………もう大丈夫よ」

筋肉のすごい犬サーシャは膝を痛めていた。治したから立ち上がるときも走るときも痛くないはず。

もう1匹、具合の悪い子がいる。

「ダニエルさん、この子虫歯がありますよ」

「なんてことだ、だから食欲がおちたんだな?ロイ」

ロイと呼ばれた犬は餌を残していた。 

「抜いた方がいいと思います。痛がっていますから」

「今から抜くか」

ダニエルさんは麻酔薬と注射器、消毒液や清潔な布と工具を持って来た。
犬を眠らせて歯を抜いた。止血が終わりダニエルさんが片付けをしている隙に大型犬ロイの頬に触れ、治癒力を注いだ。麻酔の効果が無くなり目覚めたら、抜歯の傷は綺麗に塞いだから痛みもないはず。

その後、お昼の支度とテオの授乳のため屋敷に戻り、昼食後は老馬達の紹介をしてもらった。
老馬達のお世話をした後は屋敷に戻り、掃除をして、ハンカチのアイロンがけを教わった。慣れたら服にもアイロンをかけることになる。とにかく焦さずにかけることが優先だ。焦げたらどうしようもないから。

3時に少しだけテオを外に連れ出した。明日からは朝も少し外に出すことにした。

リリーさんも数日に一度様子を見に来てくれる。

充実した日々を送ることができて心から感謝した。このままずっと置いてもらえるよう誠心誠意頑張った。



2年後

「じいじ抱っこ」

「よし、抱っこだ」

テオは全く病気もせずお利口さんに育っている。ダニエルさんとマーガレットさんはテオを孫のように可愛がってくれて、テオも本当の祖父母のように甘えている。

ここはエザフォス王国の北に位置するセラス領。牛や羊の肉、チーズやミルク、小麦、ワイン、メロンやチェリーやイチゴや葡萄やプルーンなども育てている。
冬にしっかり雪は降るけど意外にも春になれば雪はサッと溶ける。セラス領は豊かな領地だった。義母の意地悪で希望とは逆の土地へ来てしまったけど、それは神のお導きだったらしい。 

今日も馬のお世話をしていると背後から声を掛けられた。

「オプリーズ家にはもう一人娘がいたのだな」

振り向くと大きな馬に乗った貴族らしき男の人がいて、お供の人は馬に乗りつつ別の馬を引いていた。

「ごきげんよう、私はこちらでお世話になっている者です。すぐにダニエルさんをお呼びいたします」

急いでダニエルさんを呼びに行った。ダニエルさんに貴族のお客様だと伝えて、私は洗濯物を取り込みに裏に回った。

社交に出してもらえていたら、さっきの方がどなたかわかったのかもしれない。高位貴族だったらどうしよう、失礼はなかったかしらと不安になったけど、今更だ。

「ママ」

「テオ、どうしたの?」

「ばあば、変」

急いで屋敷の中に入るとマーガレットさんがお腹を押さえていた。

「マーガレットさん!」

「大丈夫よ、少し休ませてもらうわ」

マーガレットさんを支えながら寝室に連れて行った。

「っ…」

苦しそう。

「お薬を」

「ヘレンに頼んだわ」

私に人への治癒の力があれば……

「ばあば、どこ(痛い)? ここ?」

「押さないでね」

テオがマーガレットさんの腹部に手を置くと光が漏れた。それは王家に嫁いだ姉の出す治癒の光よりも強かった。

「……え?痛くないわ」

マーガレットさんはポカンとしながら上半身を起こした。

「治った?」

「まさか!」

マーガレットさんは私を見た。

「本当に痛くないんですか?」

「ええ、嘘のように痛みも不快感も消えたわ」

どうしよう、まさかテオに治癒師の力があるなんて。

「テオ、自分が治せるっていつ知ったの?」

普通は子供から大人になる過程で力が判明し数年の修練を経て使えるようになることが一般的だ。力の強い子は使えるようになる時期が少し早いことがある。姉も力の強い方だったから9歳で力があることがわかったけど、力を操れるようになるまで4年近くかかった。

「ずっと前から。ママ、時々お熱あるの。僕が触るとママ治る」

この幼さで“ずっと前から”!?しかも幼い頃いまから自在に操れるなんて……。

「おっぱいのときも治した」

え?…授乳中、少し痛みを感じたことはあったけど、すぐ治ったからたまたまかと思っていた。まさか赤ちゃんのときから発現していて力を使えたの!?

「レイシア、テオ。力のことは隠しなさい。今のあなた達はとても危険な立場なの。生家の保護下にあれば問題はなかったかもしれないけど、絶縁して平民になっている以上、こんな桁外れな力を知られたらたくさんの人から狙われるわ。テオを連れ去るためにレイシアを亡きものにするかもしれない。テオ、ママとお別れしたくないでしょう?」

「イヤだ!」

「ダニエルには話すけど、絶対にバレないようにしなさい。もし人助けをする聖人になりたいというのなら王家に助けを求めてからになさい。だけど、一生自由はなくなるから覚悟が必要よ」

マーガレットさんは、ヘレンが持ってきた薬を飲んで、治ったふりをした。
お客様が帰った後、マーガレットさんはダニエルさんに事情を説明した。




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