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ライアン達の子
一方通行
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【 アンベールの視点 】
ジ「令嬢は同性が好きなのか?」
私「彼が婚約者を連れて遊びに来た時に、少し到着が早くてリリアンが習い事をし終えるところでした。その姿を見てからですね」
ジ「習い事って何?」
私「秘密だ」
ゼ「口外しない」
私「剣術と弓術です」
ゼ「……」
ジ「あの綺麗な容姿で!?」
私「小さな頃からです。時々父達にも指導してる先生で私兵によると凄腕の先生らしいです」
ゼ「アンベールは習っていないのか」
私「興味がなくて。エフ先生も私に興味ありませんから」
ジ「エフ先生? 変わった名前だな」
私「もちろん本名ではないよ」
ゼ「はあ!?」
私「殿下?」
殿下が急に声を大きくしたところで午後の授業が始まった。
それ以来、ゼイン殿下とジャノが食堂でリリアンに絡むようになった。
そしてついに。
「お兄様。お願いですから二人を連れて側に来ないでください」
「殿下が行きたいと仰るのならば仕方ない」
「分かりましたわ」
これが、身体中から汗が出ることになるとは…。
ゼ「リリアン、今日は一人か」
リ「はい。お話がございまして」
ジ「話?」
リ「何故皆様方はほぼ毎回私の側の席にいらっしゃるのですか?今ではまるで特等席かのように、隣に座る者はおりません。綺麗に三席空くようになりました」
私「リリアン、それは」
リ「今私はお兄様に聞いておりません」
ジ「迷惑だった?」
ゼ「話したかったからだ」
リ「幼馴染であればこれも有りかもしれませんが、お二方は婚約者のいる身ではありませんか?
特定の女生徒に毎度近付けば、よろしくないと思われる方は少なくありません」
ゼ「私には其方に話しかける自由が無いと?」
リ「ございません」
ゼ「そうは思わないがな」
リ「自由という言葉は境界線が不確かですわ。
他者に迷惑をかける自由はもはや自由ではなく別の言葉を指すのではないかと私は思うのです。
それでも許される自由は己に危機があるとき。
虐げられている環境から抜け出したいときや、命に限りを言い渡されたときなどではないでしょうか。
殿下はご存知ありませんか?
学園中に流れている噂を」
ジ「噂?」
リ「リリアン・バトラーズがゼイン殿下の正妃を狙っているという噂です」
ゼ「……」
リ「ん~、殿下は知っていらしてコレなのですね」
私「リリアン、」
リ「おかしな話ですわよね。いつも先にいるのは私と友人で、後から来て選んで席を決めているのは殿下達ですのに、矛先は私なのですから。
私にどうしろと?殿下が隣に座れないように、椅子もテーブルもない空間で立って食べろと?」
私「リリアン、言い過ぎだ」
リ「お兄様、私は貴方に期待をしないと申しました。ですが私の邪魔をするなら私もそうしますよ」
私「リリアン、私は邪魔をしたい訳じゃ、」
リ「では、遮るのはお止めください。傍観者は得意ではありませんか」
私「っ!」
ゼ「そんなに迷惑だとは思わなかった」
リ「仲良くしてくださろうとしたことにはお礼を申し上げます。ですがそれ故に看過していい域を超えつつあります。
既に婚約者のご友人達から何度か抗議を受けました。多分婚約者は知らずに、彼女のご友人が暴走しているだけだと思います。
机の中や鞄の中が荒らされていることもございますし、中には私が既に殿下の愛妾になっているなどと口にする方もおられます。
子供の頃から妃になる意志は無しと表明しているのに昼食だけてこうなるのです。
殿下にはご自分が行使なさる自由の結果をもう少し把握していただけることを望みます。
では、ごゆっくりどうぞ」
リリアンが立ち去ると殿下は天を仰いだ。
その日の放課後は私とジャノが王宮にお供した。
ゼ「ここなら学生達に聞かれないからな」
私「リリアンのご無礼をお詫びいたします」
ゼ「私にあれだけ言えるのはリリアンか父上達くらいだろうな」
私「……」
ゼ「咎めてはいない。
私の求めた自由は我儘という文字で表すものなのだな」
ジ「殿下」
ゼ「正直に言おう。私はリリアンが好きだ」
私「……」
ゼ「私が既に婚約者を決められていて、あってはならないということは承知している。
だけど惹かれてしまったものは仕方ない。
少しでも一緒にいたいと望んでしまった。
変な噂は知っていた。だが楽観視していた。
リリアンが嫌がらせを受けていたとは思わなかった。
私は当時、王子妃選定の茶会にも欠席した令嬢の評判があまり良くないと聞いていた。だから手間がかからずラッキーだと思った。
あの時、私はバトラーズ邸を訪ねれば良かったのだ。王都にいる者同士、簡単だったはずだ」
私「リリアンの噂は正しくはありません」
その後、昔に起きた茶会の事件の話と、そこで私がリリアンから避けられるようになった話をした。
私「リリアンは悪くないのです。私を含めた張りぼての貴族が己を持つリリアンを異物として攻撃してしまいました。
リリアンは考え方や意見が違い、同調しないというだけで間違ってもいなければ悪くもありません」
ジ「公爵は何て?」
私「父も母も教師もリリアンの味方だよ」
ゼ「だけど好きなものは好きなんだ」
帰宅して父上に内緒だと言って報告した。
父上は溜息を吐いた。
私に対してかと思ったが、違った。
「婚約者が決まった後では害にしかならない。
アンベール、ありがとう。嫌がらせの件はこちらで手を打つ」
父上から褒められたのはどのくらいぶりか。
大したことはしていないのに。
リリアンはそれ以来、学生食堂に姿を見せなくなった。
ジ「令嬢は同性が好きなのか?」
私「彼が婚約者を連れて遊びに来た時に、少し到着が早くてリリアンが習い事をし終えるところでした。その姿を見てからですね」
ジ「習い事って何?」
私「秘密だ」
ゼ「口外しない」
私「剣術と弓術です」
ゼ「……」
ジ「あの綺麗な容姿で!?」
私「小さな頃からです。時々父達にも指導してる先生で私兵によると凄腕の先生らしいです」
ゼ「アンベールは習っていないのか」
私「興味がなくて。エフ先生も私に興味ありませんから」
ジ「エフ先生? 変わった名前だな」
私「もちろん本名ではないよ」
ゼ「はあ!?」
私「殿下?」
殿下が急に声を大きくしたところで午後の授業が始まった。
それ以来、ゼイン殿下とジャノが食堂でリリアンに絡むようになった。
そしてついに。
「お兄様。お願いですから二人を連れて側に来ないでください」
「殿下が行きたいと仰るのならば仕方ない」
「分かりましたわ」
これが、身体中から汗が出ることになるとは…。
ゼ「リリアン、今日は一人か」
リ「はい。お話がございまして」
ジ「話?」
リ「何故皆様方はほぼ毎回私の側の席にいらっしゃるのですか?今ではまるで特等席かのように、隣に座る者はおりません。綺麗に三席空くようになりました」
私「リリアン、それは」
リ「今私はお兄様に聞いておりません」
ジ「迷惑だった?」
ゼ「話したかったからだ」
リ「幼馴染であればこれも有りかもしれませんが、お二方は婚約者のいる身ではありませんか?
特定の女生徒に毎度近付けば、よろしくないと思われる方は少なくありません」
ゼ「私には其方に話しかける自由が無いと?」
リ「ございません」
ゼ「そうは思わないがな」
リ「自由という言葉は境界線が不確かですわ。
他者に迷惑をかける自由はもはや自由ではなく別の言葉を指すのではないかと私は思うのです。
それでも許される自由は己に危機があるとき。
虐げられている環境から抜け出したいときや、命に限りを言い渡されたときなどではないでしょうか。
殿下はご存知ありませんか?
学園中に流れている噂を」
ジ「噂?」
リ「リリアン・バトラーズがゼイン殿下の正妃を狙っているという噂です」
ゼ「……」
リ「ん~、殿下は知っていらしてコレなのですね」
私「リリアン、」
リ「おかしな話ですわよね。いつも先にいるのは私と友人で、後から来て選んで席を決めているのは殿下達ですのに、矛先は私なのですから。
私にどうしろと?殿下が隣に座れないように、椅子もテーブルもない空間で立って食べろと?」
私「リリアン、言い過ぎだ」
リ「お兄様、私は貴方に期待をしないと申しました。ですが私の邪魔をするなら私もそうしますよ」
私「リリアン、私は邪魔をしたい訳じゃ、」
リ「では、遮るのはお止めください。傍観者は得意ではありませんか」
私「っ!」
ゼ「そんなに迷惑だとは思わなかった」
リ「仲良くしてくださろうとしたことにはお礼を申し上げます。ですがそれ故に看過していい域を超えつつあります。
既に婚約者のご友人達から何度か抗議を受けました。多分婚約者は知らずに、彼女のご友人が暴走しているだけだと思います。
机の中や鞄の中が荒らされていることもございますし、中には私が既に殿下の愛妾になっているなどと口にする方もおられます。
子供の頃から妃になる意志は無しと表明しているのに昼食だけてこうなるのです。
殿下にはご自分が行使なさる自由の結果をもう少し把握していただけることを望みます。
では、ごゆっくりどうぞ」
リリアンが立ち去ると殿下は天を仰いだ。
その日の放課後は私とジャノが王宮にお供した。
ゼ「ここなら学生達に聞かれないからな」
私「リリアンのご無礼をお詫びいたします」
ゼ「私にあれだけ言えるのはリリアンか父上達くらいだろうな」
私「……」
ゼ「咎めてはいない。
私の求めた自由は我儘という文字で表すものなのだな」
ジ「殿下」
ゼ「正直に言おう。私はリリアンが好きだ」
私「……」
ゼ「私が既に婚約者を決められていて、あってはならないということは承知している。
だけど惹かれてしまったものは仕方ない。
少しでも一緒にいたいと望んでしまった。
変な噂は知っていた。だが楽観視していた。
リリアンが嫌がらせを受けていたとは思わなかった。
私は当時、王子妃選定の茶会にも欠席した令嬢の評判があまり良くないと聞いていた。だから手間がかからずラッキーだと思った。
あの時、私はバトラーズ邸を訪ねれば良かったのだ。王都にいる者同士、簡単だったはずだ」
私「リリアンの噂は正しくはありません」
その後、昔に起きた茶会の事件の話と、そこで私がリリアンから避けられるようになった話をした。
私「リリアンは悪くないのです。私を含めた張りぼての貴族が己を持つリリアンを異物として攻撃してしまいました。
リリアンは考え方や意見が違い、同調しないというだけで間違ってもいなければ悪くもありません」
ジ「公爵は何て?」
私「父も母も教師もリリアンの味方だよ」
ゼ「だけど好きなものは好きなんだ」
帰宅して父上に内緒だと言って報告した。
父上は溜息を吐いた。
私に対してかと思ったが、違った。
「婚約者が決まった後では害にしかならない。
アンベール、ありがとう。嫌がらせの件はこちらで手を打つ」
父上から褒められたのはどのくらいぶりか。
大したことはしていないのに。
リリアンはそれ以来、学生食堂に姿を見せなくなった。
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