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ライアン達の子

妹の入学

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【 アンベールの視点 】


そして最後に茶会を主催した夫妻が訪れた。


「申し訳ございませんでした」

「主催の役割はご存知ですか?」

「はい」

「何故止めなかったのですか」

「ここで自力で解決できないことには成人してからの社交で困りますでしょう?
それにリリアン様は少し独特な感性をお持ちですので、矯正するには今のうちにかと」

「ドーラ!何を言うんだ!」

「もっと愛想良く、普通の令嬢のように振る舞えればこのようなことも無くなるかと」

「ドーラ!」

「成程。

夫人。今後バトラーズ家に招待状は不用ですわ」

「え? バトラーズ夫人、何故ですか」

「命懸けで産んだ大事な我が子の安全が図れませんもの。怖くてとても出席させられませんわ」

「大袈裟ですわ」

「では、今から私が熱いお茶を夫人にかけて火傷をさせて、夫に押させて転倒させて、我が家の私兵に取り囲ませて、貴女のよろしくない部分を責め立てますけどよろしいかしら」

「いいわけないではありませんか!」

「リリアンは多数の貴族の前でやられたのですよ?
貴女よりずっと歳が下の8歳の女の子が。怖くて屈辱的で身も心も傷付いたのです。それを貴女は教訓を与えてやっているといった態度をとりました。
だから貴女も受け入れるのかと思いましたわ」

「っ!」

「お引き取りを」

「バトラーズ公爵、」

「それと、領地での討伐援助要請も受けません」

「それでは領民が危険に、」

「うちの子は守ってもらえないのに?それは虫がいいと思いませんか?
私兵を増やせば済むことではありませんか。
寧ろ無償で助けていたバトラーズ家が普通ではなかったのです。見直すいい機会でしょう」

「っ!」

「賊をバトラーズ領で捕まえて尋問してみたら、そちらから追い立てられて来たなんてことは無いようにしてくださいね。
その時は領内の立ち入りを禁止しますよ?
領民も夫妻も子も使用人も」

「バトラーズ領を通れなければ うちは終わりです!」

「侯爵。賊をバトラーズ領に流すつもりですか?」

「あ!いやっ」

「お客様がお帰りだ。お見送りを」


三家との話し合いに同席しろと言われて同席した。
あの茶会がこんな風に波及するのだと勉強になった。




あの後、茶をかけた令嬢は有罪になり、新聞にも載った。貴族の犯罪は、特に訴訟にまでなると小さな事件でも新聞に載せる決まりがあった。


伯爵家の令息は改めて令息が謝罪をしに来た。
父上は反省していると判断してリリアンに会わせた。
僕は同席しなかったが、後から聞いた話では泣いて謝ったらしい。
リリアンは、赦しを与え、一時間ほど二人で茶会のやり直しをしたらしい。

それ以来、伯爵家とは交流がある。


主催した侯爵家の領地は荒れているらしい。
本当に要請しても断るとは思っておらず、兵士の募集が間に合っていなかった。それを賊が知って仲間内で情報を流し、より多く出没しているそうだ。





あれから時は流れ、学園に通い出すと、あの日の茶会の出来事がそのまま学園で起きていた。

理由は様々だが、見ていてとても見苦しいものだった。私の学年には王子殿下もいたので、特に陰湿になったようだ。


最終学年に上がる時、殿下がリリアンのことを話題に出した。

「アンベールの妹が入学してくるんだよね?」

「はい」

「深窓の令嬢に会えるのか」

「そんな雰囲気ではありません。無愛想ですので期待をしないでください」

「婚約者候補の選定の茶会でさえ来なかったからなぁ」

「すみません」


これがあんなことの前触れだとは思わなかった。



学年が変わり、私も王子殿下も三年生、リリアンは新入生として通い始めた。

リリアンの噂は一気に学園を包んだ。

リリアンといつもいるから麻痺していたのだろう。
私にとってはリリアンは標準で、他の令嬢の容姿はそれ以下という認識だった。
もちろん、リリアンと同じレベルの令嬢もいないことはない。

「アンベール、リリアンちゃんを紹介してくれよ」

「嫌だよ。父はリリアンのことになると怖いし、お前は婚約者がいるだろう」

「友達とかなれるだろう?」

「なれないよ」

私でさえ嫌われていて、必要最低限の会話しかしてもらえないんだから。
あの時のことは反省している。だけどリリアンとの溝は埋まらなかった。



数日後の食堂で友人のジャノがリリアンを見つけてしまった。

「あれ、リリアンちゃんじゃないか?」

「そうだけど」

「隣に行こうぜ。妹と距離を縮めないと」

「いや、」

「アンベール、一人じゃ駄目なんだろう?」

「殿下」


断れなくなってリリアンの席の隣に食事の乗ったトレイを置いた。

「リリアン」

「…ごきげんよう、お兄様」

それだけ言うとリリアンは同席の友人と話を再開した。

「リリアンさん、私はゼインだ」

「リリアンちゃん、俺はジャノ・ブレンデルだ。よろしくね」

「お兄様のご友人ですね。
ゼイン殿下、ブレンデル様、はじめまして。
お兄様をどうぞよろしくお願いします」

それだけ言ってまた会話に戻ってしまった。


殿下もジャノも聞き耳を立ててリリアン達の会話を聞いていた。

「今度、うちに遊びにおいでよ。ラナとリリアンならうちの犬も喜ぶよ」

「犬…」

「リリアンは犬が好き?」

「分からないけど憧れる」

「三匹いるから戯れたいなら汚れてもいい服でおいで」

「いいの?」

「もちろん」

「行く」

「私も」

「今週末でいい?」

「うん。こういうの初めて」

「リリアンたら頬を染めて可愛いわ」

「ラナの方が可愛い」

「リリアンに言われると嬉しいわ」




教室に戻ると、二人が食い付いてきた。

ジ「すごい綺麗だな」

ゼ「本当に兄妹仲が冷えてそうだな」

私「私が昔、愚かだったせいだ」

ジ「婚約者はいるのか?」

私「いない」

ジ「あれでいないのか!?」

私「リリアンは一般的な令嬢とは違う。父と母が結婚はしなくてもかまわないと言っているからリリアン次第だ」

ゼ「一緒にいたのは伯爵家の子息で三年生だよな」

私「ある茶会でリリアンと揉めたのですが、きちんと謝罪をもらえてリリアンが気に入ったようで8歳の頃から交流しています。

ずっとバトラーズ邸で会っていたのでピアーズ伯爵邸に行くのは初めてでしょうね」

ゼ「彼は婚約は?」

私「居ますよ。さっきの子がそうです。ラナ・ポートマン。子爵家の令嬢で、リリアンと仲がいいです」

ジ「揉めないんだな」

私「どうやら令嬢は令息よりリリアンを好きになったみたいで」

二人は不可解だと顔で言っていた。

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