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ライアン達の子
別れの手紙
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【 セドリックの視点 】
おかしい。
夜会の翌日、エスコートのお礼の手紙が届いて依頼 音沙汰がない。
手紙を送っても返事が無い。
二通目にも返事がないし、毎週末会っていたのに。
少しずつ距離を詰めてきたし、いつも笑顔だった。
ダンスも嬉しそうだった。
彼女と一緒にいると楽しかった。手紙も待ち遠しくてソワソワしていた。
他の女達とは違ってお強請りなど無くて、仕事の話をしてもつまらなそうにしない。寧ろアイディアまでくれた。
彼女しかいないと思った。
だが公爵のカゴの中にいて美しく成長した黄金の鳥は、自分がまだ雛鳥だと勘違いをさせられていた。
少しずつ、異性を感じさせたつもりだ。
経験上、彼女は私を好きになったと感じ取った。
彼女が二年生になったら求婚しようと思っていた。
あと二年ちょっとで、リリアンは私のものになると思っていた。
ヴェルモット邸に行き、カトリーヌに会った。
「知らなかったのですか?
リリアン様はご両親と旅行に出ましたわ」
「何処に?」
「公子が教えてくださらないので分かりませんが国内だということは間違いないようです」
おかしい。
旅に出るならそう連絡をくれても…。
バトラーズ公爵邸を訪ねると、執事がでてきて、旅に出ているとしか答えてくれなかった。
おかしい。
雰囲気が少し変だ。
そこに公子が来た。
「何用ですか?」
「リリアン嬢の行き先を知りたくて」
「知っておいて欲しいと思ったら手紙を書いたでしょう。伯爵もご多忙でしょう。リリアンにかまう必要はありませんよ」
「公子?」
「来客中なのでお引き取りいただいても?」
「失礼しました」
おかしい。間違いない。何かがあって避けられているんだ。
ヴェルモット邸に戻り、侯爵夫妻に何か知らないか訪ねた。
「上手くいっていたのではなかったのか」
「そう思っておりました」
「貴方と彼女はいつ婚約してもおかしくないと思っていたわ」
そこでお茶を運んで来たメイドが話に割り込んだ。
「あの、旦那様、奥様……」
「ケイト、何か知ってるの?」
「……夜会でリリアン様は、伯爵様のお気持ちを聞いてしまわれて……」
「気持ち?どういうことなの?」
「伯爵様が、リリアン様のことを妹の様なものだと仰っておられたのが聞こえてしまいました」
「は?」
「伯爵様をお迎えに、リリアン様と紳士用の休憩室に向かったのですが、扉が開いていて。
皆様お酒をお召しで声も大きく、聞こえてきてしまいました。
ノックをしようとしましたら、リリアン様がお止めになりました。
昔関係を持った女性方からお誘いがあったとか、リリアン様は子供で妹の様なものだから、その気になれないと伯爵様は仰っておりました」
「だったら何故思わせぶりな態度を取ったんだ!」
「違う……」
アレを聞いていた!?
「困ったわ。恩人を傷付けてしまったわ」
「違います。友人達がリリアン嬢に興味を示したから、子供だといえば興味を失くすと思って」
「リリアン嬢も失くしてしまったぞ」
「誤解を解きます」
「ケイト、リリアン嬢は何か言ってたか?」
「“聞けて良かったのよ、忘れて”と仰いました」
「多分難しいわね。彼女の性格からすると、もう貴方とどうこうなることは無いと思うわ」
「迂闊だったな」
「会って誤解を解きます!」
「チャンスは一度だ。それで駄目なら諦めてくれ」
「そんな」
「バトラーズ公爵家と揉めたくない。
ご夫妻はきっとお怒りだろう。元々嫁になど行かなくてもいいと仰っておられた。せっかく交際を許可してくださって夜会に預けるほど信頼を得ていたのに…無どころか負になってしまったよ」
「お兄様、酷いわ!
リリアン様は子供の頃に傷付けられて社交を止めた令嬢だったのよ!やっと前向きになったところだったのに!」
「…すまない」
シャルール邸に帰り、リリアンの最後の手紙を読み返した。
改まったお礼の手紙だと思ったが、事情が分かれば違うと分かる。これは別れの手紙だ。
「リリアン…」
おかしい。
夜会の翌日、エスコートのお礼の手紙が届いて依頼 音沙汰がない。
手紙を送っても返事が無い。
二通目にも返事がないし、毎週末会っていたのに。
少しずつ距離を詰めてきたし、いつも笑顔だった。
ダンスも嬉しそうだった。
彼女と一緒にいると楽しかった。手紙も待ち遠しくてソワソワしていた。
他の女達とは違ってお強請りなど無くて、仕事の話をしてもつまらなそうにしない。寧ろアイディアまでくれた。
彼女しかいないと思った。
だが公爵のカゴの中にいて美しく成長した黄金の鳥は、自分がまだ雛鳥だと勘違いをさせられていた。
少しずつ、異性を感じさせたつもりだ。
経験上、彼女は私を好きになったと感じ取った。
彼女が二年生になったら求婚しようと思っていた。
あと二年ちょっとで、リリアンは私のものになると思っていた。
ヴェルモット邸に行き、カトリーヌに会った。
「知らなかったのですか?
リリアン様はご両親と旅行に出ましたわ」
「何処に?」
「公子が教えてくださらないので分かりませんが国内だということは間違いないようです」
おかしい。
旅に出るならそう連絡をくれても…。
バトラーズ公爵邸を訪ねると、執事がでてきて、旅に出ているとしか答えてくれなかった。
おかしい。
雰囲気が少し変だ。
そこに公子が来た。
「何用ですか?」
「リリアン嬢の行き先を知りたくて」
「知っておいて欲しいと思ったら手紙を書いたでしょう。伯爵もご多忙でしょう。リリアンにかまう必要はありませんよ」
「公子?」
「来客中なのでお引き取りいただいても?」
「失礼しました」
おかしい。間違いない。何かがあって避けられているんだ。
ヴェルモット邸に戻り、侯爵夫妻に何か知らないか訪ねた。
「上手くいっていたのではなかったのか」
「そう思っておりました」
「貴方と彼女はいつ婚約してもおかしくないと思っていたわ」
そこでお茶を運んで来たメイドが話に割り込んだ。
「あの、旦那様、奥様……」
「ケイト、何か知ってるの?」
「……夜会でリリアン様は、伯爵様のお気持ちを聞いてしまわれて……」
「気持ち?どういうことなの?」
「伯爵様が、リリアン様のことを妹の様なものだと仰っておられたのが聞こえてしまいました」
「は?」
「伯爵様をお迎えに、リリアン様と紳士用の休憩室に向かったのですが、扉が開いていて。
皆様お酒をお召しで声も大きく、聞こえてきてしまいました。
ノックをしようとしましたら、リリアン様がお止めになりました。
昔関係を持った女性方からお誘いがあったとか、リリアン様は子供で妹の様なものだから、その気になれないと伯爵様は仰っておりました」
「だったら何故思わせぶりな態度を取ったんだ!」
「違う……」
アレを聞いていた!?
「困ったわ。恩人を傷付けてしまったわ」
「違います。友人達がリリアン嬢に興味を示したから、子供だといえば興味を失くすと思って」
「リリアン嬢も失くしてしまったぞ」
「誤解を解きます」
「ケイト、リリアン嬢は何か言ってたか?」
「“聞けて良かったのよ、忘れて”と仰いました」
「多分難しいわね。彼女の性格からすると、もう貴方とどうこうなることは無いと思うわ」
「迂闊だったな」
「会って誤解を解きます!」
「チャンスは一度だ。それで駄目なら諦めてくれ」
「そんな」
「バトラーズ公爵家と揉めたくない。
ご夫妻はきっとお怒りだろう。元々嫁になど行かなくてもいいと仰っておられた。せっかく交際を許可してくださって夜会に預けるほど信頼を得ていたのに…無どころか負になってしまったよ」
「お兄様、酷いわ!
リリアン様は子供の頃に傷付けられて社交を止めた令嬢だったのよ!やっと前向きになったところだったのに!」
「…すまない」
シャルール邸に帰り、リリアンの最後の手紙を読み返した。
改まったお礼の手紙だと思ったが、事情が分かれば違うと分かる。これは別れの手紙だ。
「リリアン…」
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