【完結】聖域を守る乙女は王弟の愛に気付かない

ユユ

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領都

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ネスティフィーネは常に興味津々だ。だがそれに付き合っていると、いつ王宮に着くか分からない。
宥めながら進むのは騎士達にとって疲弊する行為だった。ネスティフィーネが機嫌を損ねて“帰る”と言われたら最悪だし、ゼノンは自分が嫌われないために双子の部下やエデンの国家騎士に任せてしまうので疲労困憊だ。

王宮まで後2日という距離に大きな領都があり、そこで泊まることにした。だがちょうど祭りがあり宿は空いておらず領主邸に滞在することになった。
高貴な方が宿に泊まれないときは領主に連絡が行くようになっていて、領主が迎えに来た。

「ゼノン王弟殿下にシェシュヴィル・ユハンシスがご挨拶を申し上げます」

「ユハンシス侯爵、急にすまないな」

「光栄に存じます。
こちらの美しすぎるレディにご紹介していただけますでしょうか」

「彼女はネスティフィーネ。陛下が招待なさった国賓だ。彼女に対し敬語は必要ないが彼女にも敬語を求めないで欲しい。何にしても強制は厳禁だ。宜しく頼む」

「ネスティフィーネ様、初めまして」

「初めまして…シェ…シェ…」

「難しかったかな?ヴィルなら呼べるかな?」

「ヴィルさん」

「おや?……では殿下、ネスティフィーネ様、参りましょう」

ユハンシス侯爵はネスティフィーネの瞳を見て人竜族だと気が付いた。人竜族と出会えるのは一生に一度あるかどうか。そして気付かない者もいるので、自分は人竜族に会ったことがあると言える人は稀有だ。瞳孔が縦に伸びても人猫族と考えるのが普通。
人竜族は長寿だが、多種族と交わる毎に寿命が短くなっていく。ネスティフィーネの先祖がどれだけ多種族と子を成していったか記録はないが確実に短くはなっている。それでも他種族よりも寿命は長い。だが人竜族の繁殖は確率が低いので減る傾向にある。
人竜族国から出ない者が多いこともあるが、これらのことから“人竜族”という言葉だけ聞いたことがあるという者が大半。次に何も知らない者が占めていて、会ったことはないが知識を絞り出して気付くのは教養のある者だ。

湖で溺れた令嬢は貴族だが、教育は嫁に行く令嬢向けの教育のみだった。人狼族には男は強さが一番で賢さは二番目に重視される。女の場合は強さの次は繁殖力が重視される。だから女に生まれたら健康に育てることが大事で、更に貴族なら貴族のマナーと基礎知識と子を産むためのイロハを教わる程度。他種族のことまで詳しく学ぶのは王族、軍の上層部や外交員、高位貴族でも当主レベルというのが現状だし、その中でも人竜族については教材から1~3行程度の知識を得るだけ。そもそも人竜族に関するちゃんとした記録がない。

「ゼノン、すごい人がいっぱい。お店もいっぱい」

侯爵がいるので馬車の中に入ったネスティフィーネは窓の外に興味津々だ。

「侯爵、明日も祭りはやっているのか?」

「はい。最終日です」

「ネスティフィーネ、明日少し見て回るか?」

「うん」

「侯爵、明日は少し領都を散策したい」

「ぜひ楽しんでください」


ユハンシス侯爵の領主邸に到着すると夫人が出迎えてくれた。

「ゼノン王弟殿下にマーガレット・ユハンシスがご挨拶を申し上げます」

「夫人、久しぶりだな。悪いが世話になる。彼女はエデンからの国賓でネスティフィーネだ」

「初めまして、ネスティフィーネ様」

「初めまして……夫人」

ネスティフィーネはマーガレットさんと呼ぼうとしたがゼノンにならって“夫人”と呼ぶことにした。

「人見知りがあるから面倒は俺がみる」

「そうでしたか。
お疲れでございましょう、お部屋にご案内いたします。晩餐で改めてご挨拶をさせていただきます」

「ネスティフィーネとは同じ部屋で頼む」

夫人は一瞬驚いたが夫婦で使える客室に案内した。
メイドがお茶を淹れると退室した。

「ネスティフィーネ、疲れただろう」

「座り疲れかな。お尻が…」

「うつ伏せになってごらん」

「うん?」

ネスティフィーネがうつ伏せになっている間にゼノンは荷物の中から小瓶を取り出した。そしてネスティフィーネの服をずらして臀部を露わにした。

「ゼノン!?」

「マッサージだ。下は脱がすぞ」

下半身は何も身に付けず、上は背中が半分以上見えていた。
香油をたっぷり手にとり、ネスティフィーネをマッサージしながら香油をのばしていく。ゼノンにはたまらない状態だが、心に鞭を打って理性を奮い立たせた。
柔らかくすべすべの肌は吸い付くようにゼノンの手の平に密着する。臀部の形は丸くキュッと上がっているのでうつ伏せでも少し見えてしまう。腿から臀部にかけて滑らせると肉が持ち上がり尚更見えてしまう。禁欲生活は3ヶ月近くなっていてゼノンにはまだ蕾に近いネスティフィーネの体でも十分に刺激を受けた。何より香油を使っていてもネスティフィーネの香りが鼻腔を刺激して脳がぼんやりする。

「我慢、我慢」

「え?」

「何でもない」

腰や背中もマッサージしているといつの間にかネスティフィーネは眠ってしまっていた。
ネスティフィーネに毛布をかけてトイレに向かい自己処理をし、シャワーを浴びて狼化してネスティフィーネに寄り添った。
ネスティフィーネはまだ初潮を迎えて間もないし、ゼノンには慣れたが異性として意識していない。まだ積極的に口説く時期ではないことをゼノンはよく理解していた。
それでもゼノンは繁殖本能が強くなる歳になっていて、性欲を抑えるのは大変といえる。エデンに来るまでは高級娼館を使うことで対処していたから今の環境は少し疲れる。だがそれでもネスティフィーネの側にいられることが大事だし、わずかずつでも積み重ねてきた信頼を無にしたくない。

「クゥン」

狼ゼノンが声を出すとモゾモゾとネスティフィーネが動きだし、ゼノンにくっつくと眠りながらゼノンを撫でる。
ゼノンにはたまらない。眠っていても自分のことを気にかけてくれていると実感できるから。
だからこそ我慢もできる。


夕刻になるとコントラが起こしに来て1時間後の晩餐の支度をするよう促した。

ネスティフィーネは寝ぼけていてゼノンの成すがまま。下着を履かせてもらい服を着せてもらい髪を櫛でといてもらった。
2人が一階の食堂へ降りてくるとユハンシス夫妻が立った。他にも4人いた。

「長男のマーカス、マーカスの妻エリドナ、長女のソニア、次男のルイスです」

侯爵が息子たちを紹介した。
エリドナは3ヶ月ほど前に出産したばかりだった。
ソニアは結婚を控えた19歳で、ルイスは15歳だ。挨拶を終えて席に着くと食事が運ばれた。

「あの、ネスティフィーネ様は観光をしにきたのですか?」

「……違うけどそうなってる」

「明日祭に行くんですよね。僕が案内します」

「いい」

「え?」

「ルイス、ネスティフィーネは初めて会った相手と気軽には接することができないんだ。つまり人見知りだ。残念だが我々だけで行くことになる」

「そうですか」

ルイスはがっかりした。

「では案内とかではなく、みんなで行くのはどうですか?せっかくですからネスティフィーネ様と仲良くなりたいですわ」

ソニアが人当たりよくネスティフィーネを誘った。

「いいよ」

ネスティフィーネが承諾するとは思わなかったゼノンはネスティフィーネを見つめた。

「大丈夫か?」

「うん」

ネスティフィーネは平民の暮らしなのでカトラリーをいくつも使い分けられない。ナイフもフォークもスプーンも1個ずつだ。いつもは大抵のメニューは切る必要がないように考えられているのでナイフもあまり使わない。たくさん並んだカトラリーに数秒固まったネスティフィーネだが、ゼノンがカトラリーを減らした。これが要らぬ小さな揉め事を起こす引き金となってしまった。  









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