【完結】双子の公子様に執着された貧乏モブ令嬢になりました

ユユ

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敷地内家出

目を覚ますと、ベッドの上にいた。
あれ?満天の星空は?
上半身を起こすと、私が使っている客室だ。

ちょっと胃もたれしてる?
そっか。ジュースと思ったらお酒で半分飲んじゃったんだよね。

「ひっ!」

ソファに座りじっとこちらを見ている人がいた。あれは多分アレン様だ。右腕を背もたれの上に乗せ背中を預け足を組んでいる。…怖い。
エヴァン様は寝ているようだ。

ゆっくり起き上がり足音を立てずに移動しようとした。ソファに近寄らなくてはならないが目を合わせないようにした。

ソファを通り過ぎたところで…

「どこに行く?」

「は、歯磨きに」

「行って来い」

バタン

洗面室に入って鏡を見た。

「ふ~っ」

こわっ!双子のうちアレン様の方は長男だからなのか少し鋭い感じがあったけど、今めちゃくちゃ怒ってるじゃない。

あ~洗面室ここから出たくない。
屋敷中のメイドがこの部屋の中に集まってくれないかな。…入りきるだけでいいから。私の姿を隠して欲しい。

「ファラル、みんなを集めて」

……ファラルめ。聞いてないな?それとも無視か?

あ、双子が学園に通って、そこで王子達と主人公の男爵令嬢といろいろなきゃいけない話だよね…まさか、私にそれを手伝えと?

ボチャン

「うわっ!」

びっくりした!!顔を洗うためにためた桶の水の中に瓶が降ってきた。
こんなことができるのはアイツしかいない。

「ファラル!危ないじゃないの!」

瓶を拾ってよくみると、スパイスをブレンドしてかけるだけの前の世界で売っていたやつだった。

「まさか、頑張れば調味料増える?」

ボチャン

今度の瓶はシナモンだった。

「ファラル~!素敵~!」

ボチャン

今度は大金貨だった。

「私からの贈り物はあんなに拒んでおいて、ファラルという男にはお強請りをするのか」

パタン

か、顔を上げちゃダメ。
金髪に青い瞳の魔王が洗面室に入ってドアを閉めた気がする。

顔を洗おう。

バシャッ ピチャッ

顔を拭きながら考える。
どうしよう。
あれ?何でファラルを知っているの?
さっきの聞こえた?
“お強請り”?
誰もいないのに?

「ひゃっ!」

脇に手を差し込まれ持ち上げられると洗面台の上に座らされた。両サイドに手を付いたアレン様は顔を近付けてじっと私の目を見た。

「ア、アレン様…」

「もうメイは私のものだ。逃げ出したらこの世界の何処へでも追いかけてみせる。協力者はありとあらゆる後悔をさせてやる。他の男に目を向けたら相手の男を追い詰めてやる。メイが唇を許したら相手の男の唇と舌を切り取る。転職などと考えるのならミアの保護は止める」

「え?」

「モヴィー家の次女ミアは普通の宿屋に売られたんじゃない。あそこは一階が酒場で女達が料理や酒を運ぶ。客はその姿を見て気に入った女を指名してニ階の個室に籠るんだ。客は30分間か1時間のコースを選び、奉仕だけか交わるか選ぶ。つまり給仕の女は娼婦だ」

「嘘…」

「ミアは男爵達に娼婦として売られたんだ。若くて顔もそこそこで純潔だから高く売れただろう」

「っ…」

「ミアを気に入ってモヴィー家に調査を入れた。姉2人の追跡もした」

「っ…っ…」

「ミアは数日前に買い戻しケルベック公爵家が保護した。だが精神が病んでしまって、国内で優秀な精神科医のいる病院に移した。王都の郊外にあって、いい部屋だし景色は綺麗で花を楽しむ庭園もある。食事も美味いし菓子も出るぞ。
だからもう泣くな」

アレン様に抱き付いて声を殺して泣いた。
実香わたしには他人だけどメイの記憶がある私には、その事実は胸を抉るものだった。ミア姉様はいつも優しくて、野苺を詰んできてはメイに分けてくれた。メイに代わって叱られて殴られたこともあった。別れの日、笑顔を作って“行ってきます、メイはお嫁さんになるのよ”と言っていた。笑顔なのに瞳が悲しそうだったことが印象的だった。もしかしたら普通の宿ではないことを知っていたのかもしれない。

「ううっ……ありがとう…」

アレン様は力強く抱きしめて背中を摩り続けてくれた。

だいぶ落ち着くと、アレン様は私の鼻水を拭きながら言い聞かせた。

「あれは家出か?」

「敷地内家出」

「敷地内でも広すぎて危険だ。もう止めて欲しい。
嫌なことがあるなら相談してくれ。教育は止めることはできないがやり方を変えることはできる」

「私、メイドになるのにあんな勉強は必要ないと思います」

「三姉妹を苦しめた父親や祖父を捩じ伏せるためにはメイ自身が力をつけた方がいい。所作が悪ければ誰からも侮られる。
長女アンナは男児を産んだし貧しくはない。だが夫は恋人を作っては飽きると別の女を恋人にしていて、義母からは夫を繋ぎ止められない女だと罵られている。アンナを救えるのは家族だけだ。つまりメイだけだろう」

「いくら勉強したって学園にも通っていない貧乏な男爵令嬢なのは変わりません」

布を濡らして優しく顔を拭いてくれる。

「メイは私達と一緒に学園へ通うんだ」

「え?」

「続きは朝食を食べた後だ」

洗面台から下ろされ、アレン様は洗面室から出るとエヴァン様を起こして部屋を出た。

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