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幼子の婚約者
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パラディス王国において2人の王子と1人の王女が生まれた。
長女ヴィクトリア王女は隣国の第二王子と婚約、長男アラン王子は13歳、側妃の産んだ次男オスカー王子はまだ2歳。
そして私は伯爵家の一人娘エリン・バラン。8歳でアラン王子の婚約者になった。他の上位貴族をおさえてアラン王子の婚約者に選ばれたのは母譲りの美しい容姿と、父が皇帝の末弟だから。
両親の馴れ初めは、父ウィリアムが帝国から遠く離れたこのパラディス王国へやってきたときに母ソフィア・バランに恋に落ちた。母ソフィアには婚約者がいたが、熱烈に母ソフィアにアピールした結果、婚約者は身を引いてしまった。父ウィリアムは一人娘であったソフィアのためにバラン伯爵家に婿養子に入った。そして生まれたのが一人娘の私エリンだ。
王家は帝国との繋がりを持ちたかったのだろう。父は渋い顔をしていたけど、今は伯爵なので余程の理由がないと断れなかった。
13歳のアラン王子は伯爵家の娘では不満だった。しかも8歳。美人でも興味は全くわかなかった。
婚約を結んだ日は、両親達が契約書を交わす間にアラン王子と顔合わせをさせられた。いかにも不満ですという顔をして、“何で伯爵家の娘なんかと”と愚痴をこぼした。
婚約して翌週の交流では王子は挨拶だけして無言。
自身の14歳の誕生日パーティでは最初のエスコートとファーストダンスだけして放置。
私の9歳の誕生日パーティでは体調不良を理由に花と贈り物だけ送りつけた。
その後も、交流をすっぽかされても睨まれても飲み物をこぼされても不満をぶつけられても私は微笑みを貫いた。
王子妃教育は厳しかった。
“覚えが悪いとお仕置きをすることもあるのですよ。バラン伯爵が皇帝陛下の弟君でいらっしゃるので、そのご令嬢のあなたが不出来でも私はお仕置きはできません。ですがここまでならできます”
教師のチェディック夫人は分厚い本を5冊持たせて2時間立たせ続けたり、暗唱ができるまで立ったまま教科書を音読させたり、カーテシーを何度も繰り返しさせたりした。私は指示には従ったが、微笑みの仮面を外さず謝ることもなかった。
肩がパンパンに張り本を落として足の甲を怪我しても、声が掠れてしまっても、バランスを保っていられなくて何度と倒れて膝や手首を痛めても絶対に泣かなかった。
婚約者であるアラン王子に冷たくされても教師にしごかれても泣きもせず不満も口にせず、微笑んだままの私は王宮の使用人達から“壊れない人形”と陰で呼ばれるようになっていた。
『知ってるか?壊れない人形だとさ』
アラン王子はニヤリと意地悪な笑みを浮かべた。
『そうですか』
『何とも思わないのか?』
『思ったところで何かが変わりますか?』
ガタン
アラン王子は立ち上がるとそのまま退室した。
珍しくすっぽかさないと思ったらこんなつまらないことを言って、思っていた反応が得られないからと無作法に席を立つなんて、王子教育はどうなっているのだろうか。
いつも心の中で悪態をついたりしている私が人形?
ただ父の教えに従っているだけ。
“他人に隙を見せないよう微笑んでいなさい”
だから微笑んでいるだけ。
“馬鹿は相手にしなくていい”
だから微笑んでいるだけ。
“敵だと思ったら屈するな。後でパパが始末してやる”
だから辛くない。私の頭の中では何度と王子に毒を飲ませ、顔を切り刻んだり火だるまにしたり。頭の中でチェディック夫人を鞭や棒で打ったり、膝を割ったり喉を焼いたりしたり。頭の中で冷遇される私を見下す王宮使用人達の舌を刻み、指を一本ずつ切り落とし、肩や股関節を脱臼させたり瞼を切り取ったりしている。その私が人形?壊れない人形じゃなくて呪う人形の方がしっくりくる。
婚約以降、婚約日記と王子妃教育日記を別々に記している。どんな態度をとられたのか何を言われたのか何をさせられたのかありのままに記録をしている。いつか父か国王陛下に読ませるかもしれない。私の専属侍女ニーナは出版してはどうですかと目を輝かせていた。確かにそれもいいわね。
長女ヴィクトリア王女は隣国の第二王子と婚約、長男アラン王子は13歳、側妃の産んだ次男オスカー王子はまだ2歳。
そして私は伯爵家の一人娘エリン・バラン。8歳でアラン王子の婚約者になった。他の上位貴族をおさえてアラン王子の婚約者に選ばれたのは母譲りの美しい容姿と、父が皇帝の末弟だから。
両親の馴れ初めは、父ウィリアムが帝国から遠く離れたこのパラディス王国へやってきたときに母ソフィア・バランに恋に落ちた。母ソフィアには婚約者がいたが、熱烈に母ソフィアにアピールした結果、婚約者は身を引いてしまった。父ウィリアムは一人娘であったソフィアのためにバラン伯爵家に婿養子に入った。そして生まれたのが一人娘の私エリンだ。
王家は帝国との繋がりを持ちたかったのだろう。父は渋い顔をしていたけど、今は伯爵なので余程の理由がないと断れなかった。
13歳のアラン王子は伯爵家の娘では不満だった。しかも8歳。美人でも興味は全くわかなかった。
婚約を結んだ日は、両親達が契約書を交わす間にアラン王子と顔合わせをさせられた。いかにも不満ですという顔をして、“何で伯爵家の娘なんかと”と愚痴をこぼした。
婚約して翌週の交流では王子は挨拶だけして無言。
自身の14歳の誕生日パーティでは最初のエスコートとファーストダンスだけして放置。
私の9歳の誕生日パーティでは体調不良を理由に花と贈り物だけ送りつけた。
その後も、交流をすっぽかされても睨まれても飲み物をこぼされても不満をぶつけられても私は微笑みを貫いた。
王子妃教育は厳しかった。
“覚えが悪いとお仕置きをすることもあるのですよ。バラン伯爵が皇帝陛下の弟君でいらっしゃるので、そのご令嬢のあなたが不出来でも私はお仕置きはできません。ですがここまでならできます”
教師のチェディック夫人は分厚い本を5冊持たせて2時間立たせ続けたり、暗唱ができるまで立ったまま教科書を音読させたり、カーテシーを何度も繰り返しさせたりした。私は指示には従ったが、微笑みの仮面を外さず謝ることもなかった。
肩がパンパンに張り本を落として足の甲を怪我しても、声が掠れてしまっても、バランスを保っていられなくて何度と倒れて膝や手首を痛めても絶対に泣かなかった。
婚約者であるアラン王子に冷たくされても教師にしごかれても泣きもせず不満も口にせず、微笑んだままの私は王宮の使用人達から“壊れない人形”と陰で呼ばれるようになっていた。
『知ってるか?壊れない人形だとさ』
アラン王子はニヤリと意地悪な笑みを浮かべた。
『そうですか』
『何とも思わないのか?』
『思ったところで何かが変わりますか?』
ガタン
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珍しくすっぽかさないと思ったらこんなつまらないことを言って、思っていた反応が得られないからと無作法に席を立つなんて、王子教育はどうなっているのだろうか。
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