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ベアトリス(脅かされる)
【 ベアトリスの視点 】
裸で三階まで駆け上がり自室に逃げ込んだ。
「……湯浴みをしてから治療をいたしましょう。準備させます」
専属メイドは一瞬目を見開いただけで何事も無かったかのように振る舞う。
私は、公爵夫人なのに…
湯浴みを終えると医師と助手二人が入室した。痛み止めの薬湯を先に飲ませてくれた。
しかし、
「ギャアアアアッ!」
助手二人が私を押さえ付けたかと思ったら、在らぬ方向に曲がってしまった小指を真っ直ぐにされた。添え木を当てて固定された。
「っ、治りますか」
「元のようには無理でしょう。動かしにくくなったり曲がらなくなったりすることが多いです。場合によっては切り落とします」
「えっ!?何故ですか」
「壊死する場合もございます。そのままにすれば腐り落ちたり最悪命を落とす場合もございますので、壊死が始まれば切り落とします」
「そんな!」
「小指なら無くても困りません」
「私は公爵夫人なのよ!!」
「怒鳴られても事実は変わりません。
嫌ならくだらない事で掟を破らなければ良かったのでは?」
「くだらない!?
夫が浮気しているのよ!!」
「ベアトリス様、公爵ですよ?元々二人夫人を迎える権利がございます。
特にノワール家は子を多く必要とします。
先代は夫人を二人、妾も複数人おりました。
子を多く成すために好きでもない女性を数人娶るのは閣下も義務なのです。
昔、閣下の子を身籠ったと言い出した女には静観出来たのに何故今回はできなかったのですか」
「あの時の女は私を脅かせる身分じゃなかったし、彼の部屋の側に部屋を与えられたり、高価な改装をしてもらえたり、一緒に馬車に乗って出かけたりしてなかったもの!!」
「閣下は、ベアトリス様が第一夫人としてノワール家の子供の母として相応しく対応できるか試されていたのです。
この度、貴女は不合格になりました。離縁されるか、領地内の外れに軟禁される可能性がでてきました」
「そんな馬鹿な!」
「予め、貴女の役割りや掟を守ること、第二夫人や妾を迎えることを承知して嫁いだはずです。当時の婚前契約書を見てみますか?」
「私は男児を産んだじゃない!」
「タイラー様は家業に不向きですので後継ぎにはなれません。勉強をものすごく頑張れば屋敷の文官として残して貰えるか婿に出してもらえます。
妹のパリス様も家業に向いておりません。嫁に出されます。
従って貴女の立場はほぼございません」
「なっ!」
「家業に向く子を産む令嬢を早々に娶るでしょう」
「っ!」
「痛み止めと解熱剤をメイドに渡します。乱用はできませんので痛みと上手くお付き合いください。では失礼します」
医師達は去っていった。
不合格?私が?
何故タイラーは駄目なの?
あの令嬢を迎えたら…あの小娘が男児を産んだら…私は……そんなの許せない!
痛い。
痛み止めも時間をあけないとくれないし、完全に痛みを感じなくなるわけではない。
昼過ぎには聞いたこともない店の女が服を持ってきた。
「公爵様のご依頼でお持ちいたしました。
これらは一人で脱ぎ着できます。サイズ表に合わせて見繕いましたので着られない服はございません。ご安心ください」
並べられた服に驚愕した。
「カーラさんのお店の客層は?」
「少し裕福な平民の夫人がお買い求めくださいます」
平民ですって!?
「店で一番の服は?」
「中央の薄紫のワンピースでございます」
「……」
「お支払いいたします。カーラ様、ご案内いたします」
「奥様、失礼いたします」
メイド長のモリスが店の女を連れて出た。
私が、平民の服を?しかも少し裕福な平民の服!?
見るからに、ここのメイドが休みの日に着ている服じゃないの!
クローゼットを覗くも、ドレスやワンピースドレスがない。
「アノン、私のドレスは」
「旦那様の指示で全て燃やしました。一着だけ残してもいいワンピースドレスがありましたので引き出しにしまっております」
引き出しを開けると、薄いピンクのワンピースドレスが入っていた。
これは若い時のもので年齢的には合わないし、子を二人産んで体型に変化が出ているからサイズが合わない。
それでも平民の服よりはマシだと着てみた。
「なんとか入ったわね」
小娘と会うのに平民服で会うわけにはいかない。
「ベアトリス様、本当にその服を?」
「自分で脱ぎ着出来るのだから許されるでしょう」
「姿見でご確認ください」
鏡のところまで移動して映った自分に驚いた。
私、こんなに歳をとっていたの!?
くすみや小皺、シミまである。それがこの薄いピンクのワンピースドレスを纏うことで際立たせてしまう。
それに贅肉が服の上からでも浮き出て見えた。
平民服を手に取り合わせてみた。
あり得ない。
「アノン、美容品を売っている店を呼んでちょうだい」
すぐに到着した女性は箱を置くと、質問をしてきた。
「奥様、ご要望をお伺いいたします」
「今すぐ何とかしてちょうだい!
このくすみやシワやシミを消してちょうだい!」
「落ち着いてください。奥様」
「ほとんど外に出ていないのに何故シミなんか!」
「奥様の日常の行動をお聞かせください」
どんな風に過ごしているか話した。
「奥様の場合は運動不足による巡り不足や老廃物の滞りが原因かと思われます。
もっと体を動かしてください。日傘や帽子を被り建物の周りを一時間ほど散歩なさるのもいいでしょう。
マッサージをして血行をよくしてください」
「すぐよ!夕刻までに何とかして欲しいの」
「数日で何とかなるものではございません。
夜会か何かに出かけられるのですか?
出来ることと言えば、マッサージをして、軽く化粧で誤魔化すくらいしかありません」
そう言って箱からマッサージクリームと、後は変わり映えのしない化粧水やらを置いて帰って行った。
「アノン。湯浴みをするわ。
マッサージの担当を呼んでちょうだい」
「指が痛みますが」
「早く!」
湯浴みをしているとズキズキするし、マッサージ中も痛かった。
「肘から下は触らないで」
「かしこまりました」
少しだけ艶やかにはなったが……。
食事はスープとフルーツだけにして、化粧を始めさせた。
「もっとよ!隠せてないわ!」
「奥様、十分隠せております。
これ以上は……」
「いいから!!」
プチッ
何の音?
裸で三階まで駆け上がり自室に逃げ込んだ。
「……湯浴みをしてから治療をいたしましょう。準備させます」
専属メイドは一瞬目を見開いただけで何事も無かったかのように振る舞う。
私は、公爵夫人なのに…
湯浴みを終えると医師と助手二人が入室した。痛み止めの薬湯を先に飲ませてくれた。
しかし、
「ギャアアアアッ!」
助手二人が私を押さえ付けたかと思ったら、在らぬ方向に曲がってしまった小指を真っ直ぐにされた。添え木を当てて固定された。
「っ、治りますか」
「元のようには無理でしょう。動かしにくくなったり曲がらなくなったりすることが多いです。場合によっては切り落とします」
「えっ!?何故ですか」
「壊死する場合もございます。そのままにすれば腐り落ちたり最悪命を落とす場合もございますので、壊死が始まれば切り落とします」
「そんな!」
「小指なら無くても困りません」
「私は公爵夫人なのよ!!」
「怒鳴られても事実は変わりません。
嫌ならくだらない事で掟を破らなければ良かったのでは?」
「くだらない!?
夫が浮気しているのよ!!」
「ベアトリス様、公爵ですよ?元々二人夫人を迎える権利がございます。
特にノワール家は子を多く必要とします。
先代は夫人を二人、妾も複数人おりました。
子を多く成すために好きでもない女性を数人娶るのは閣下も義務なのです。
昔、閣下の子を身籠ったと言い出した女には静観出来たのに何故今回はできなかったのですか」
「あの時の女は私を脅かせる身分じゃなかったし、彼の部屋の側に部屋を与えられたり、高価な改装をしてもらえたり、一緒に馬車に乗って出かけたりしてなかったもの!!」
「閣下は、ベアトリス様が第一夫人としてノワール家の子供の母として相応しく対応できるか試されていたのです。
この度、貴女は不合格になりました。離縁されるか、領地内の外れに軟禁される可能性がでてきました」
「そんな馬鹿な!」
「予め、貴女の役割りや掟を守ること、第二夫人や妾を迎えることを承知して嫁いだはずです。当時の婚前契約書を見てみますか?」
「私は男児を産んだじゃない!」
「タイラー様は家業に不向きですので後継ぎにはなれません。勉強をものすごく頑張れば屋敷の文官として残して貰えるか婿に出してもらえます。
妹のパリス様も家業に向いておりません。嫁に出されます。
従って貴女の立場はほぼございません」
「なっ!」
「家業に向く子を産む令嬢を早々に娶るでしょう」
「っ!」
「痛み止めと解熱剤をメイドに渡します。乱用はできませんので痛みと上手くお付き合いください。では失礼します」
医師達は去っていった。
不合格?私が?
何故タイラーは駄目なの?
あの令嬢を迎えたら…あの小娘が男児を産んだら…私は……そんなの許せない!
痛い。
痛み止めも時間をあけないとくれないし、完全に痛みを感じなくなるわけではない。
昼過ぎには聞いたこともない店の女が服を持ってきた。
「公爵様のご依頼でお持ちいたしました。
これらは一人で脱ぎ着できます。サイズ表に合わせて見繕いましたので着られない服はございません。ご安心ください」
並べられた服に驚愕した。
「カーラさんのお店の客層は?」
「少し裕福な平民の夫人がお買い求めくださいます」
平民ですって!?
「店で一番の服は?」
「中央の薄紫のワンピースでございます」
「……」
「お支払いいたします。カーラ様、ご案内いたします」
「奥様、失礼いたします」
メイド長のモリスが店の女を連れて出た。
私が、平民の服を?しかも少し裕福な平民の服!?
見るからに、ここのメイドが休みの日に着ている服じゃないの!
クローゼットを覗くも、ドレスやワンピースドレスがない。
「アノン、私のドレスは」
「旦那様の指示で全て燃やしました。一着だけ残してもいいワンピースドレスがありましたので引き出しにしまっております」
引き出しを開けると、薄いピンクのワンピースドレスが入っていた。
これは若い時のもので年齢的には合わないし、子を二人産んで体型に変化が出ているからサイズが合わない。
それでも平民の服よりはマシだと着てみた。
「なんとか入ったわね」
小娘と会うのに平民服で会うわけにはいかない。
「ベアトリス様、本当にその服を?」
「自分で脱ぎ着出来るのだから許されるでしょう」
「姿見でご確認ください」
鏡のところまで移動して映った自分に驚いた。
私、こんなに歳をとっていたの!?
くすみや小皺、シミまである。それがこの薄いピンクのワンピースドレスを纏うことで際立たせてしまう。
それに贅肉が服の上からでも浮き出て見えた。
平民服を手に取り合わせてみた。
あり得ない。
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すぐに到着した女性は箱を置くと、質問をしてきた。
「奥様、ご要望をお伺いいたします」
「今すぐ何とかしてちょうだい!
このくすみやシワやシミを消してちょうだい!」
「落ち着いてください。奥様」
「ほとんど外に出ていないのに何故シミなんか!」
「奥様の日常の行動をお聞かせください」
どんな風に過ごしているか話した。
「奥様の場合は運動不足による巡り不足や老廃物の滞りが原因かと思われます。
もっと体を動かしてください。日傘や帽子を被り建物の周りを一時間ほど散歩なさるのもいいでしょう。
マッサージをして血行をよくしてください」
「すぐよ!夕刻までに何とかして欲しいの」
「数日で何とかなるものではございません。
夜会か何かに出かけられるのですか?
出来ることと言えば、マッサージをして、軽く化粧で誤魔化すくらいしかありません」
そう言って箱からマッサージクリームと、後は変わり映えのしない化粧水やらを置いて帰って行った。
「アノン。湯浴みをするわ。
マッサージの担当を呼んでちょうだい」
「指が痛みますが」
「早く!」
湯浴みをしているとズキズキするし、マッサージ中も痛かった。
「肘から下は触らないで」
「かしこまりました」
少しだけ艶やかにはなったが……。
食事はスープとフルーツだけにして、化粧を始めさせた。
「もっとよ!隠せてないわ!」
「奥様、十分隠せております。
これ以上は……」
「いいから!!」
プチッ
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