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剣闘会
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登校して教室に入ると殿下の顔色が優れない様に見えた。
昨夜、サットン将軍とケイン様から剣の練習について他言してはいけないと言われた。理由を聞いたら、殿下の要請を断ったためだという。
確かに殿下だけ騎士団に稽古をつけてもらって優勝するだなんて不公平かも。そう思って黙っていることにした。
「サラ。昨日サットン家に帰ってから将軍を見なかった?」
「もちろん見ました。ですが私はガードナー邸に戻ったのでいつもの様にお話ししておりません」
「リオは?」
「少し調子が悪くて。使用人達にも話を聞きに戻りましたの」
「そうなのか。
(私の思い違いだな)」
「殿下?」
「何でもない。リオはどこが悪いのかな」
「精神的なものみたいで、睡眠と食事に少し問題が」
「そうか」
「昨日は良く食べてぐっすり眠ったので、何とかなると思います」
「そのままガードナー邸に?」
「いえ。今日からまたサットン家にお世話になります」
「サラ、何処かで時間を取ってもらえないか」
「お話でしたら今お伺いします」
「個人的な話なんだ」
「私に関わることでなければ」
「……」
「本鈴ですわ。席に着きませんか?」
「そうだな」
昨夜はガードナー邸で、リオは常に私の側にいた。
何かと手に触れ 髪に触れ 頬に触れ 抱きしめてきた。
夜は何もしないからと懇願されて一緒に寝た。
子供の様に私にしがみ付き、泣き出したかと思うと眠りに落ちた。
使用人達もどこかホッとしていた。
“サラっ サラっ”
魂の叫びの様に呼ばれると罪悪感が芽生える。
異常な空間を作り出し私を閉じ込めたリオ。
それに従う使用人達。
抵抗を止めていた私。
やっと逃げ出せたというのに。
学園が終わるとリオもバルチノ公子もサットン邸に集まり指南を受けている。
リオにはしっかり食べて寝て、優勝したら週に一度、平日に泊まりに帰ると約束した。
「リオ。なんか昨日よりも怖いな」
「真面目にやっているだけだ」
バルチノ公子とリオは少しずつ仲良くなっているみたい。接点が無かっただけだろう。
バルチノ公子は快活な感じだ。バルチノ公子が陽ならリオは陰だろうか。
リオはいつからこうなったんだろう。昔はどうだったのかあまり思い出せない。
「リオ。今は力を乗せるより技に集中しなさい。
相手の剣の流れや向き、体勢で予測をつけなさい。
予測がつくようになったら、外れた時の用意もするように」
「はい!」
「バジル。目線で次の動きを読まれてしまうぞ」
「はい!」
いいな。こういうの。
「見ていて楽しい?」
「はい。楽しいです。ペーズリー様は?」
「怪我をしなければってところかなぁ。
ガードナー邸では大丈夫だった?」
「はい。できるだけ食べさせてきました」
「侯爵はやる気が凄いわね」
「実は…」
約束の話をすると
「燃焼促進剤を注いだのね」
「倒れられても困りますから」
こんな日を2週間繰り返し、今日から学園は長期休暇に入り学園の剣闘会初日となった。
女子の部は少ないので2日目に始まり3日目に決勝。
「凄いですね」
「去年は観なかったの?」
「リオが出ませんでしたから」
「今年は何故出る気になったんだろう」
「さあ。聞きませんでした」
「勿体無いな。侯爵でなければスカウトしたいくらいだ。儂も久しぶりに楽しかった。才ある学生を磨くのはやり甲斐がある」
「ありがとうございました。お祖父様」
すっかり私も将軍をお祖父様と呼ぶようになってしまった。
「基本的には良い子だな。ペーズリーも嫌がらない。だが危ういな。手綱を握る者が必要だ。亡き侯爵が病を患っていなければしっかり掴んだであろう」
「……」
お祖父様とケイン様に挟まれて私とペーズリー様は観戦していた。かなりいい席を確保してもらえてありがたい。
「そういえば、ピエリックから手紙が届いたぞ。
サラの母君とブランパーン大公から領地にお礼の品が届いたそうだ。
だいぶ恐縮しておった。何が届いたのだろうな」
ピエリックとはサットン伯爵のことだ。
領地で長男夫婦に跡継ぎ教育中で、王都の屋敷はお祖父様が管理している。
「私にも見当もつきません」
「あれ、ガードナー侯爵よ」
「あ、瞬殺ですね」
「体力を温存しろと言っておいたが、呆気なくてつまらんな」
「王族席は誰もおりませんね」
「最終日だけだな」
リオとバルチノ公子の試合を見届けて食事をしてサットン邸に戻った。
明日はお祖父様は後半を全部見届けて、2人を屋敷に呼び寄せて対策会議をなさるらしい。
「いってらっしゃいませ」
「いい子にしているんだぞ、ペーズリー、サラ」
ケイン様は私達の頭を撫でると夜番勤務へ向かわれた。
「お兄様はサラが余程可愛いのねぇ。
サラだけ撫でるわけにいかないと思ったのか、私まで子供扱いになったわ。ウフフっ」
「すみません?」
「面白いなぁと思っているだけよ」
昨夜、サットン将軍とケイン様から剣の練習について他言してはいけないと言われた。理由を聞いたら、殿下の要請を断ったためだという。
確かに殿下だけ騎士団に稽古をつけてもらって優勝するだなんて不公平かも。そう思って黙っていることにした。
「サラ。昨日サットン家に帰ってから将軍を見なかった?」
「もちろん見ました。ですが私はガードナー邸に戻ったのでいつもの様にお話ししておりません」
「リオは?」
「少し調子が悪くて。使用人達にも話を聞きに戻りましたの」
「そうなのか。
(私の思い違いだな)」
「殿下?」
「何でもない。リオはどこが悪いのかな」
「精神的なものみたいで、睡眠と食事に少し問題が」
「そうか」
「昨日は良く食べてぐっすり眠ったので、何とかなると思います」
「そのままガードナー邸に?」
「いえ。今日からまたサットン家にお世話になります」
「サラ、何処かで時間を取ってもらえないか」
「お話でしたら今お伺いします」
「個人的な話なんだ」
「私に関わることでなければ」
「……」
「本鈴ですわ。席に着きませんか?」
「そうだな」
昨夜はガードナー邸で、リオは常に私の側にいた。
何かと手に触れ 髪に触れ 頬に触れ 抱きしめてきた。
夜は何もしないからと懇願されて一緒に寝た。
子供の様に私にしがみ付き、泣き出したかと思うと眠りに落ちた。
使用人達もどこかホッとしていた。
“サラっ サラっ”
魂の叫びの様に呼ばれると罪悪感が芽生える。
異常な空間を作り出し私を閉じ込めたリオ。
それに従う使用人達。
抵抗を止めていた私。
やっと逃げ出せたというのに。
学園が終わるとリオもバルチノ公子もサットン邸に集まり指南を受けている。
リオにはしっかり食べて寝て、優勝したら週に一度、平日に泊まりに帰ると約束した。
「リオ。なんか昨日よりも怖いな」
「真面目にやっているだけだ」
バルチノ公子とリオは少しずつ仲良くなっているみたい。接点が無かっただけだろう。
バルチノ公子は快活な感じだ。バルチノ公子が陽ならリオは陰だろうか。
リオはいつからこうなったんだろう。昔はどうだったのかあまり思い出せない。
「リオ。今は力を乗せるより技に集中しなさい。
相手の剣の流れや向き、体勢で予測をつけなさい。
予測がつくようになったら、外れた時の用意もするように」
「はい!」
「バジル。目線で次の動きを読まれてしまうぞ」
「はい!」
いいな。こういうの。
「見ていて楽しい?」
「はい。楽しいです。ペーズリー様は?」
「怪我をしなければってところかなぁ。
ガードナー邸では大丈夫だった?」
「はい。できるだけ食べさせてきました」
「侯爵はやる気が凄いわね」
「実は…」
約束の話をすると
「燃焼促進剤を注いだのね」
「倒れられても困りますから」
こんな日を2週間繰り返し、今日から学園は長期休暇に入り学園の剣闘会初日となった。
女子の部は少ないので2日目に始まり3日目に決勝。
「凄いですね」
「去年は観なかったの?」
「リオが出ませんでしたから」
「今年は何故出る気になったんだろう」
「さあ。聞きませんでした」
「勿体無いな。侯爵でなければスカウトしたいくらいだ。儂も久しぶりに楽しかった。才ある学生を磨くのはやり甲斐がある」
「ありがとうございました。お祖父様」
すっかり私も将軍をお祖父様と呼ぶようになってしまった。
「基本的には良い子だな。ペーズリーも嫌がらない。だが危ういな。手綱を握る者が必要だ。亡き侯爵が病を患っていなければしっかり掴んだであろう」
「……」
お祖父様とケイン様に挟まれて私とペーズリー様は観戦していた。かなりいい席を確保してもらえてありがたい。
「そういえば、ピエリックから手紙が届いたぞ。
サラの母君とブランパーン大公から領地にお礼の品が届いたそうだ。
だいぶ恐縮しておった。何が届いたのだろうな」
ピエリックとはサットン伯爵のことだ。
領地で長男夫婦に跡継ぎ教育中で、王都の屋敷はお祖父様が管理している。
「私にも見当もつきません」
「あれ、ガードナー侯爵よ」
「あ、瞬殺ですね」
「体力を温存しろと言っておいたが、呆気なくてつまらんな」
「王族席は誰もおりませんね」
「最終日だけだな」
リオとバルチノ公子の試合を見届けて食事をしてサットン邸に戻った。
明日はお祖父様は後半を全部見届けて、2人を屋敷に呼び寄せて対策会議をなさるらしい。
「いってらっしゃいませ」
「いい子にしているんだぞ、ペーズリー、サラ」
ケイン様は私達の頭を撫でると夜番勤務へ向かわれた。
「お兄様はサラが余程可愛いのねぇ。
サラだけ撫でるわけにいかないと思ったのか、私まで子供扱いになったわ。ウフフっ」
「すみません?」
「面白いなぁと思っているだけよ」
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