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壊れた愛人
しおりを挟む【 アンジェルの視点 】
「どういうつもりだ」
冷たい瞳に気付かなかった私は直ぐに理解できなかった。
「それは私のセリフですわ!1年近くも放置して!」
「話に行こうと思っていたが忙しかったんだ」
「じゃあ、今度レヴリーで、」
「プリムヴェル嬢」
「何故アンジェルと呼んでくださらないの?」
「俺が既婚者だからだ。しかも妻がいるのに話しかけるなどどうかしている」
「ディオン様はあの女の事を嫌っていたではありませんか!」
「俺がミアーナを嫌う理由が誤解だと分かったんだ。今は彼女を愛している」
「は?」
「婚姻前は伯爵令嬢、婚姻後は侯爵家の嫁だ。君が“あの女”などと呼んでいい訳がない。そもそも君の立場は、正妻との時間を邪魔せず、正妻の機嫌を損ねないよう影の中に身を置くべきだろう?」
「……」
「君との関係はとっくに終わっている。その指輪は慰謝料代わりだ。売って好きに使うといい」
「そんなっ!約束が違、」
「婚約者がいる男との口約束なんて在って無いようなものだ。別途プリムヴェル家に少し金を届けさせる」
「酷い!」
「でも、ミアーナからすれば酷いのは君だ。婚約者を寝取ったのだから」
「っ!」
「君は別れを切り出されたら受けるしかない立場にいる。その指輪と金をもらえるだけマシな方だ」
「でも、まだ妊娠していないってことは 避妊薬を飲ませているのですよね」
「それも君には関係のない理由だ」
「納得がいきません!」
「そうだとしても収めるのが君の立場だ。もう君との関係は終わった。弁えて欲しい」
そんな…そんな馬鹿なことが…
屋敷に帰るとお母様がディオン様のことを聞いてきた。
「それで?ロテュス侯爵令息はなんて?」
「夫人が一緒で…」
「なら声を掛けられないわね。でも貴女がいるのには気付いたのよね?なら直ぐに連絡が来るわよ」
声を掛けては駄目だったのね。きっとそれで機嫌が悪かったんだわ。そう、それだけよ。あれはちょっと喧嘩になっただけ。
翌日、ディオン様からお父様宛に面会の申し入れが届いた。書面にして約束してもらえると喜んでいたのに。
当日
父「分かりました」
私「え?」
ディ「今後は私にも妻にも声を掛けさせないでいただきたい」
母「もちろんですわ」
私「お母様、何を言って、」
ディ「プリムヴェル嬢、今度は独身の男に声を掛けた方がいい。正妻を希望していないなら正式に募集している家門を選ぶといい。その時は正妻を立てるようにしないと追い出されてしまうぞ」
私「ディオン様っ!」
ディ「今後はロテュスと」
父「言って聞かせますので」
ティ「よろしくお願いします。では、失礼します」
私「待って!ディオン様!待って!!」
ディオン様が帰ってしまった。
「どうして別れることに同意してしまったのですか!」
「愛人というものは、片方が別れの意思を示せば終わりだ」
「だってこの指輪を贈ってくださったのに」
「それは婚約指輪ではないわ。そんな大きな宝石を付けて贈ってくださったのは、別れるときの慰謝料代わりにとお考えだったのよ」
「婚約指輪なら破談になったのなら回収されるはずだ。
慰謝料の足しにということは、元々そういう意味で贈ったのだろう。それとは別にお金も置いていってくれたのだ。誠意はみせてもらえたから充分だろう」
「でも、私を妾にと、」
「妾を迎えるのは必要があるからよ。必要無いと判断されたらもう迎える訳がないじゃない。いくらロテュス侯爵家だからといって無闇に妾を迎えては、リスフィユ伯爵家を敵に回すようなものだわ」
「そんな…」
「そもそも婚約者がいる男を誘ったのはお前だったなんて聞いていなかったぞ!なんて恥晒しな!」
「そうよ。それを知っていたらお迎えする態度を変えたのに」
「それに夫人を伴ったパーティで話し掛けるなんて何を考えている。せめて夫人がトイレか何かで離れる時まで待つのが愛人のとるべき行動だ。男爵家や子爵家の愛人ならまだ大目にみれても 侯爵家ともなると弁えられない愛人などお荷物でしかない。迎えるなら弁えられる若い女を探すだろう」
「酷い!」
「お前が選んだ立場は脆くて不安定なんだよ」
「責任というものが、」
「無いさ。彼に純潔を捧げたのか?」
「……」
「身持ちも悪かったのだから そういう扱いをされても仕方ない」
「でも」
「もし、貴女が誰かと婚約を経て婚姻したとするわ。
アンジェルに非が無いのに夫が婚約中から女がいて、婚姻後も女が付き纏って、パーティで自分がパートナーとして横に立っているのに“話がある”なんて言って不躾に夫を連れて行こうとしたら腹が立たない?」
「それは…」
「想像してみても嫌なことを貴女はやったのよ。
慰謝料は慈悲よ。感謝しなくてはいけないくらいだわ」
「もう今後一切 ロテュス家の者に近寄るな」
どうしてこんなことに…
もう娶ってもらえると公言してしまった。
私は1通の手紙を書いた。
“私は貴女の代わりに子を産む予定の者です。
貴女と婚姻する前からのお付き合いで、レヴリーでの逢瀬を重ねてきました。
嫌いな貴女との間に子は作りたくないと、貴女に3年避妊薬を飲ませて不妊ということにして、私を迎えてくださるとディオン様は約束してくださいました。貴女との婚姻前に約束の指輪も贈ってくださいました”
“どうせなら3年とは言わずに今すぐ迎えるよう口添えをしてくださいませんか”
“お互い邪魔することなく共存しましょう”
「どういうつもりだ」
冷たい瞳に気付かなかった私は直ぐに理解できなかった。
「それは私のセリフですわ!1年近くも放置して!」
「話に行こうと思っていたが忙しかったんだ」
「じゃあ、今度レヴリーで、」
「プリムヴェル嬢」
「何故アンジェルと呼んでくださらないの?」
「俺が既婚者だからだ。しかも妻がいるのに話しかけるなどどうかしている」
「ディオン様はあの女の事を嫌っていたではありませんか!」
「俺がミアーナを嫌う理由が誤解だと分かったんだ。今は彼女を愛している」
「は?」
「婚姻前は伯爵令嬢、婚姻後は侯爵家の嫁だ。君が“あの女”などと呼んでいい訳がない。そもそも君の立場は、正妻との時間を邪魔せず、正妻の機嫌を損ねないよう影の中に身を置くべきだろう?」
「……」
「君との関係はとっくに終わっている。その指輪は慰謝料代わりだ。売って好きに使うといい」
「そんなっ!約束が違、」
「婚約者がいる男との口約束なんて在って無いようなものだ。別途プリムヴェル家に少し金を届けさせる」
「酷い!」
「でも、ミアーナからすれば酷いのは君だ。婚約者を寝取ったのだから」
「っ!」
「君は別れを切り出されたら受けるしかない立場にいる。その指輪と金をもらえるだけマシな方だ」
「でも、まだ妊娠していないってことは 避妊薬を飲ませているのですよね」
「それも君には関係のない理由だ」
「納得がいきません!」
「そうだとしても収めるのが君の立場だ。もう君との関係は終わった。弁えて欲しい」
そんな…そんな馬鹿なことが…
屋敷に帰るとお母様がディオン様のことを聞いてきた。
「それで?ロテュス侯爵令息はなんて?」
「夫人が一緒で…」
「なら声を掛けられないわね。でも貴女がいるのには気付いたのよね?なら直ぐに連絡が来るわよ」
声を掛けては駄目だったのね。きっとそれで機嫌が悪かったんだわ。そう、それだけよ。あれはちょっと喧嘩になっただけ。
翌日、ディオン様からお父様宛に面会の申し入れが届いた。書面にして約束してもらえると喜んでいたのに。
当日
父「分かりました」
私「え?」
ディ「今後は私にも妻にも声を掛けさせないでいただきたい」
母「もちろんですわ」
私「お母様、何を言って、」
ディ「プリムヴェル嬢、今度は独身の男に声を掛けた方がいい。正妻を希望していないなら正式に募集している家門を選ぶといい。その時は正妻を立てるようにしないと追い出されてしまうぞ」
私「ディオン様っ!」
ディ「今後はロテュスと」
父「言って聞かせますので」
ティ「よろしくお願いします。では、失礼します」
私「待って!ディオン様!待って!!」
ディオン様が帰ってしまった。
「どうして別れることに同意してしまったのですか!」
「愛人というものは、片方が別れの意思を示せば終わりだ」
「だってこの指輪を贈ってくださったのに」
「それは婚約指輪ではないわ。そんな大きな宝石を付けて贈ってくださったのは、別れるときの慰謝料代わりにとお考えだったのよ」
「婚約指輪なら破談になったのなら回収されるはずだ。
慰謝料の足しにということは、元々そういう意味で贈ったのだろう。それとは別にお金も置いていってくれたのだ。誠意はみせてもらえたから充分だろう」
「でも、私を妾にと、」
「妾を迎えるのは必要があるからよ。必要無いと判断されたらもう迎える訳がないじゃない。いくらロテュス侯爵家だからといって無闇に妾を迎えては、リスフィユ伯爵家を敵に回すようなものだわ」
「そんな…」
「そもそも婚約者がいる男を誘ったのはお前だったなんて聞いていなかったぞ!なんて恥晒しな!」
「そうよ。それを知っていたらお迎えする態度を変えたのに」
「それに夫人を伴ったパーティで話し掛けるなんて何を考えている。せめて夫人がトイレか何かで離れる時まで待つのが愛人のとるべき行動だ。男爵家や子爵家の愛人ならまだ大目にみれても 侯爵家ともなると弁えられない愛人などお荷物でしかない。迎えるなら弁えられる若い女を探すだろう」
「酷い!」
「お前が選んだ立場は脆くて不安定なんだよ」
「責任というものが、」
「無いさ。彼に純潔を捧げたのか?」
「……」
「身持ちも悪かったのだから そういう扱いをされても仕方ない」
「でも」
「もし、貴女が誰かと婚約を経て婚姻したとするわ。
アンジェルに非が無いのに夫が婚約中から女がいて、婚姻後も女が付き纏って、パーティで自分がパートナーとして横に立っているのに“話がある”なんて言って不躾に夫を連れて行こうとしたら腹が立たない?」
「それは…」
「想像してみても嫌なことを貴女はやったのよ。
慰謝料は慈悲よ。感謝しなくてはいけないくらいだわ」
「もう今後一切 ロテュス家の者に近寄るな」
どうしてこんなことに…
もう娶ってもらえると公言してしまった。
私は1通の手紙を書いた。
“私は貴女の代わりに子を産む予定の者です。
貴女と婚姻する前からのお付き合いで、レヴリーでの逢瀬を重ねてきました。
嫌いな貴女との間に子は作りたくないと、貴女に3年避妊薬を飲ませて不妊ということにして、私を迎えてくださるとディオン様は約束してくださいました。貴女との婚姻前に約束の指輪も贈ってくださいました”
“どうせなら3年とは言わずに今すぐ迎えるよう口添えをしてくださいませんか”
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