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歓迎されぬ住人
しおりを挟むミアーナが用意したアンジェルの部屋は俺の部屋から近かった。
逆にミアーナの部屋は一階の客間になった。直接庭にも出られるし、クロには良いだろうが、俺の部屋からは遠かった。それを知るとアンジェルと子爵家から連れてきたアンジェル専用メイドのケイトの顔に喜びが浮かんだ。
荷解きの後、昼食後に全員を集めた。
「今日から一時的に滞在するプリムヴェル子爵家の令嬢アンジェルだ。知っての通り、アンジェルは俺が昔交際していた。慰謝料を払って子爵と話を付けて別れたはずが、俺の愛するミアーナに手紙を送ったことでこうなってしまった。
彼女は子爵籍に在るし、俺は婚姻後に妻以外と閨事をする気はないから妾でもない。つまり役に立つことは無いから食事だけ与えてくれ。
身の回りのことは専属メイドのケイトが全て行う。使用する物は全て子爵家からの支給品になる。購入品の請求は子爵家に届く」
「え?」
「当然だろう。別れる為の金を受け取っておきながら図々しくこうして此処にいるのだから。しかも借金の返済に使ってしまって返せないと言われた。これでは詐欺だ。
屋敷に住まわせるのなら払わなくていい金だったんだしな」
「っ!」
「これ以上 無駄に散財しては父上達から勘当されかねない。それに1コインでも愛する妻に使いたい。
少しでもミアーナに無礼な態度を取れば部屋に閉じ込めろ。謹慎期間は俺が決める。
いいか。俺が愛しているのはミアーナ1人だ。そのことを忘れずに行動して欲しい。
ミアーナの希望で基本的に朝食は3人で。夕食は平日は俺とミアーナが、土日はアンジェルが俺と共にする。
そしてアンジェルとケイトはミアーナが1人の時に接触することを禁ずる。守れなければ部屋に閉じ込める。繰り返して過ちを犯すようなら牢に入れることもあり得る。
しっかり守るように。では持ち場に戻ってくれ」
説明を終えて侍従に馬車の用意を頼むとアンジェルが話しかけてきた。
「あの、どちらへ」
「俺が何処へ行こうと関係ないだろう。お前は尋ねていい立場にいない」
「お話が」
「夕食の時でいいだろう。さっさと部屋に戻れ」
「っ!」
これからリスフィユ伯爵邸に行かねばならなかった。
説明と謝罪をするためだ。
伯爵邸に到着し、伯爵に説明をした。
「大事な娘の相手だから調査を定期的に入れてきました。
ミアーナが誤解を与えていたとはいえ、酷すぎます。
私達は婚約破棄を望んでいました。ですかミアーナが破棄しないと譲らなかったのです。まあ、自分で望んだ婚約でしたから浮気三昧の男でも希望を捨てられなかったのでしょう」
「え?」
「婚姻後も浮気は続くだろうし、優しくはしてもらえないかもしれないと忠告しましたが、娘は婚姻を選びました。
正妻として貴方の子を産むのは自分だという希望だけで」
「……」
「リスフィユ家としては離縁の申し入れをロテュス侯爵にします。後はミアーナが見切りを付けて実家に戻って来るのを待つだけです。
ミアーナなら再婚でも娶りたいという方は少なくありません。ミアーナが何処にも嫁ぎたくないと言えばリスフィユ家にいさせます」
「別れる気はありません。早くあの女を追い出して妻にチャンスをもらえるようお願いをするつもりです。
婚姻後は一切浮気をしていません。逢瀬もありません。
愚かな婚前契約で自分の首を絞めて、妻とイチャイチャしたい為に馬鹿なことをして妻を傷付けてしまいました。
妻と一緒に居られないともう辛いんです」
「もっと辛かったのはミアーナですよ。ずっと貴方が好きだったのですから」
「私をですか?」
「幼い頃、王宮に子供達が集められて王女と遊ばせたことがあったのを覚えていますか」
「なんとなく」
「令息達に囲まれて怯えていたミアーナを引っ張り出して、王女の近くに連れて行ってくださったのです。
流石に王女の側は近衛兵も居ますので、令息達はミアーナを追いかけることはできませんでした。
それ以来、ミアーナは貴方を好きでした。ですが王女の婚約者が決まるまで、婚約者候補の令息との接触を禁じられたのです。それは貴方も含んでいて内々のお達しでした。
数年後にやっと決まり、リスフィユ家からロテュス家に縁談の申し込みをしたのです」
「知りませんでした」
「ですが限界だと悟ったようですね。そうでなければ自ら迎え入れたりしませんから」
「妻に笑顔になってもらえるよう頑張ります」
屋敷に戻ると早速もめていた。
「ディオン様、奥様にお礼を申し上げたかったのですが会わせていただけないのです」
「会うか会わないか決めるのはミアーナだ。それをお前が受け入れるのは当然だろう。ミアーナは女侯爵家の妻、お前は居候。立場を忘れるな」
「そんな」
いかにも嘘泣きをし出したので、罰を与えた。
「この程度で泣くくらいなら部屋で休むといい。夕食は部屋に運ばせる。明日もそうしよう」
「1週間に2回しかないディオン様との夕食が、」
「自業自得だ。会わせてもらえなかっただけで騒いで泣き出すなんて恥ずかしくないのか。到着した時に会ったばかりだろう。そんな女と食事などごめんだ。大体、翌日の朝食で顔を合わせるのだから騒ぐ必要は無いだろう。話は以上だ。部屋に戻って出て来るな。朝食の時間はメイドが知らせに行く」
アンジェルを部屋に押し込ませ、ミアーナの部屋へ向かったが、クロの散歩に出たという。庭に向かうとオスカーの膝枕でミアーナとクロが眠っているようだった。一瞬カッとなったが、侍従が止めた。
「若奥様に嫌われます」
「だが、」
「見れば分かります。若奥様はクロと一緒に兄のようなオスカー殿に甘えているだけです。些細な心の拠り所を奪ってご自身の感情を優先させて何になりますか。
何故 アンジェル様を若奥様が迎えなくてはならなかったのか、ご自身のなさってきた事を省みてください。オスカー殿はディオン様の尻拭いをなさっているようなものです」
「そうだな。危うく失態を犯すところだった。ありがとう」
時間をあけて、ミアーナの元に訪れてリスフィユ家と話し合ったことを報告した。
逆にミアーナの部屋は一階の客間になった。直接庭にも出られるし、クロには良いだろうが、俺の部屋からは遠かった。それを知るとアンジェルと子爵家から連れてきたアンジェル専用メイドのケイトの顔に喜びが浮かんだ。
荷解きの後、昼食後に全員を集めた。
「今日から一時的に滞在するプリムヴェル子爵家の令嬢アンジェルだ。知っての通り、アンジェルは俺が昔交際していた。慰謝料を払って子爵と話を付けて別れたはずが、俺の愛するミアーナに手紙を送ったことでこうなってしまった。
彼女は子爵籍に在るし、俺は婚姻後に妻以外と閨事をする気はないから妾でもない。つまり役に立つことは無いから食事だけ与えてくれ。
身の回りのことは専属メイドのケイトが全て行う。使用する物は全て子爵家からの支給品になる。購入品の請求は子爵家に届く」
「え?」
「当然だろう。別れる為の金を受け取っておきながら図々しくこうして此処にいるのだから。しかも借金の返済に使ってしまって返せないと言われた。これでは詐欺だ。
屋敷に住まわせるのなら払わなくていい金だったんだしな」
「っ!」
「これ以上 無駄に散財しては父上達から勘当されかねない。それに1コインでも愛する妻に使いたい。
少しでもミアーナに無礼な態度を取れば部屋に閉じ込めろ。謹慎期間は俺が決める。
いいか。俺が愛しているのはミアーナ1人だ。そのことを忘れずに行動して欲しい。
ミアーナの希望で基本的に朝食は3人で。夕食は平日は俺とミアーナが、土日はアンジェルが俺と共にする。
そしてアンジェルとケイトはミアーナが1人の時に接触することを禁ずる。守れなければ部屋に閉じ込める。繰り返して過ちを犯すようなら牢に入れることもあり得る。
しっかり守るように。では持ち場に戻ってくれ」
説明を終えて侍従に馬車の用意を頼むとアンジェルが話しかけてきた。
「あの、どちらへ」
「俺が何処へ行こうと関係ないだろう。お前は尋ねていい立場にいない」
「お話が」
「夕食の時でいいだろう。さっさと部屋に戻れ」
「っ!」
これからリスフィユ伯爵邸に行かねばならなかった。
説明と謝罪をするためだ。
伯爵邸に到着し、伯爵に説明をした。
「大事な娘の相手だから調査を定期的に入れてきました。
ミアーナが誤解を与えていたとはいえ、酷すぎます。
私達は婚約破棄を望んでいました。ですかミアーナが破棄しないと譲らなかったのです。まあ、自分で望んだ婚約でしたから浮気三昧の男でも希望を捨てられなかったのでしょう」
「え?」
「婚姻後も浮気は続くだろうし、優しくはしてもらえないかもしれないと忠告しましたが、娘は婚姻を選びました。
正妻として貴方の子を産むのは自分だという希望だけで」
「……」
「リスフィユ家としては離縁の申し入れをロテュス侯爵にします。後はミアーナが見切りを付けて実家に戻って来るのを待つだけです。
ミアーナなら再婚でも娶りたいという方は少なくありません。ミアーナが何処にも嫁ぎたくないと言えばリスフィユ家にいさせます」
「別れる気はありません。早くあの女を追い出して妻にチャンスをもらえるようお願いをするつもりです。
婚姻後は一切浮気をしていません。逢瀬もありません。
愚かな婚前契約で自分の首を絞めて、妻とイチャイチャしたい為に馬鹿なことをして妻を傷付けてしまいました。
妻と一緒に居られないともう辛いんです」
「もっと辛かったのはミアーナですよ。ずっと貴方が好きだったのですから」
「私をですか?」
「幼い頃、王宮に子供達が集められて王女と遊ばせたことがあったのを覚えていますか」
「なんとなく」
「令息達に囲まれて怯えていたミアーナを引っ張り出して、王女の近くに連れて行ってくださったのです。
流石に王女の側は近衛兵も居ますので、令息達はミアーナを追いかけることはできませんでした。
それ以来、ミアーナは貴方を好きでした。ですが王女の婚約者が決まるまで、婚約者候補の令息との接触を禁じられたのです。それは貴方も含んでいて内々のお達しでした。
数年後にやっと決まり、リスフィユ家からロテュス家に縁談の申し込みをしたのです」
「知りませんでした」
「ですが限界だと悟ったようですね。そうでなければ自ら迎え入れたりしませんから」
「妻に笑顔になってもらえるよう頑張ります」
屋敷に戻ると早速もめていた。
「ディオン様、奥様にお礼を申し上げたかったのですが会わせていただけないのです」
「会うか会わないか決めるのはミアーナだ。それをお前が受け入れるのは当然だろう。ミアーナは女侯爵家の妻、お前は居候。立場を忘れるな」
「そんな」
いかにも嘘泣きをし出したので、罰を与えた。
「この程度で泣くくらいなら部屋で休むといい。夕食は部屋に運ばせる。明日もそうしよう」
「1週間に2回しかないディオン様との夕食が、」
「自業自得だ。会わせてもらえなかっただけで騒いで泣き出すなんて恥ずかしくないのか。到着した時に会ったばかりだろう。そんな女と食事などごめんだ。大体、翌日の朝食で顔を合わせるのだから騒ぐ必要は無いだろう。話は以上だ。部屋に戻って出て来るな。朝食の時間はメイドが知らせに行く」
アンジェルを部屋に押し込ませ、ミアーナの部屋へ向かったが、クロの散歩に出たという。庭に向かうとオスカーの膝枕でミアーナとクロが眠っているようだった。一瞬カッとなったが、侍従が止めた。
「若奥様に嫌われます」
「だが、」
「見れば分かります。若奥様はクロと一緒に兄のようなオスカー殿に甘えているだけです。些細な心の拠り所を奪ってご自身の感情を優先させて何になりますか。
何故 アンジェル様を若奥様が迎えなくてはならなかったのか、ご自身のなさってきた事を省みてください。オスカー殿はディオン様の尻拭いをなさっているようなものです」
「そうだな。危うく失態を犯すところだった。ありがとう」
時間をあけて、ミアーナの元に訪れてリスフィユ家と話し合ったことを報告した。
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